シンフォニーホールにて奥井紫麻(しお)さんのラフマニノフピアノ協奏曲2番。19歳、主にロシアで音楽を学んだ俊英さんとか。
ラフマの2番はピアノコンチェルトの中でも人気トップを争うナンバーであり難曲。今回予習として音がきれいで強くゴージャスなツィマーマン、ルツェルン音楽祭でメロディアスな演奏だと感じた藤田真央で予習。一時リヒテルもその極強い音、引き込まれるような演奏が好きで何度も聴いたもの。
奥井さんは速くもなく遅くもなく確実。美しく走るところも決めて第1楽章クライマックス。大きくいかめしいオケの音と叩くピアノの音のMIX部分。よくオケの音にピアノがかき消されてしまう。今回は・・ピアノもよく聴こえる。第2楽章、麗しく、明るい中に人生の悲哀のようなメロディが入る。醸し出される緊張感。第3楽章は華麗で軽快な冒頭。途中で現れる美しい主題・・ラストはテンポを上げて弾ききり。いいノリ、ロシアン・ロマンチシズムを随所に体現した演奏だったかなと思います。また関西フィルもテンポ、強弱と自在で、気持ち良い演奏だなあと感じ入りました。
アンコールはラフマニノフ「リラの花」だったと思います。美しい曲。後で調べたらアンコールの定番のようでした。
◼️ 永井みみ「ミシンと金魚」
人生を振り返る認知症のカケイ。すばる文学賞受賞作。しかし、ごくつぶし、ばっかり登場するな笑
書評あったなとふと手に取ってすぐ読み終わった。もう少し前衛的な話?かと思ったら意表を突かれた。
認知症の老婆・カケイ。デイサービスの明るいみっちゃんや土地建物の遺産を狙う息子の嫁の世話になっている。兄にハメられ借金を背負った公務員と結婚したものの夫は失踪した。残された息子・健一郎も亡くなった。何度も健一郎は最近来ないね、と訊くカケイ。立つ、歩くこともおっくうで常におむつをし、字もなかなか書けない。
最近のことはすぐ忘れてしまうカケイ。しかし、ひたすらミシンを踏んで生計を立ててきたこと、そして歩んだ人生のことは、はっきりと覚えていたー。
作風が、最近の長野まゆみに似てるな、などと思ったりする。もう少し直接的か。認知症の老人を取り巻く環境と囲う悪意。一生の悔い。いつの時代の話かな、と思ったりする。
しかし、ごくつぶし、ばっかり出てきて、読了後に俯瞰した時笑えてしまう。カケイの夫はダメ男だし夫の連れ子は人非人だし、カケイが懐かしむ息子健一郎もロクな死に方してないし、その嫁の世代の大人たちは遺産しか眼中にないし。でも元祖ごくつぶしのカケイの「兄貴」と、いまはデイケアで仲間である、兄の内縁の妻のエピソードで救われた気はする。
ミシンは実家に年代ものの、足で踏む部分もかなり広くしっかりしていた。母がリズムよく踏みながら回していた。なんか、踏みっぱなしのリズム、疾走感、魔法のような出来映え、というものが活き活きと表現されている。
搾取、悪意の中、その人の持つ想いと人生の記憶。虚しく哀しいものもある。でもカケイ中心に考えた時、その人に染みついたもの、心に住んだお気に入りのもの、というのが見えて納得する。
昭和から令和、というのは科学技術的にも、風俗習慣においても大きく変化してきた。軽く見えながらそのへんも、ちょっと記憶のどこかに当たるような感じである。懐かしいような、痛いような。
人生は、流れていく、止まらない。ゆく川の流れはなんとやら。うたかたも消えたりできたり。そうして遠くまでくる。なんてことまで思い至らせるような話ではある。文芸は様々で、定型はなし。この話も、ちょっと作りすぎという気もするし、色々考えさせるということはそれなりの良さがあるということかも、とか。
ふむふむという話でした。
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