2022年7月16日土曜日

7月書評の3



バレーボールのネーションズリーグ男子大阪大会を観戦。テレビで観ていた選手たちを目の前にするとやっぱりテンション上がるー。

日本vsブラジル。残念ながらセットカウント0-3でストレート負けしてしまったけれど、チケット1枚で複数試合観られて楽しく過ごしたのでした。最終日だけにグッズは売り切れで残念。

オリンピック金メダルのフランス、やはりレセプションが素晴らしい。セッターがジャンプトスするそのオーバーセットの位置にピタリとレシーブが合うのを何度もみました。オリンピックMVPイアルバン・ヌガペトにセッターのブリザール、オポジットのBOYERと書いてボワイエ選手はそれぞれ素晴らしかった。

ブラジルはキャプテンでセッターのベテラン、ブルーノがさすがのトスワークで粘る日本を振り切った。相手が時間差を仕掛けてきた時、日本のブロック陣は釣られてしまい、ほんとうのアタックにはセッター1人しかブロックがいない、ということが多かった。

日本も石川祐希キャプテンは強烈なサービス、キレのあるスパイク、また微妙なトスを決めてみせる上手さを併せ持つし、オポジット西田選手の迫力十分のライトアタックも有効。さらに粘りのあるレシーブで対抗するが・・勝負どころを決める強さ、突き放すときの確実性で完全に上回られた。

男子バレーは世界ランク1位ポーランドのコーチだったブランのもと、東京オリンピックでは決勝トーナメントへ進み、ブラン監督の母国フランスでのオリンピックでメダルが狙えるか、というところ。しかしやはり世界はキビシイ。頼むぞ次は。

行ってよかった。息子と外食も出来て、いい1日でした。西田選手がその素晴らしい跳躍で視界の外から跳んでくるのを初めて観た時はおおっ!と声が出ました。


◼️Authur  Conan  Doyle 

 The Musgrave Ritual (マスグレイヴ家の儀式書)


プレイボーイの執事が突然の失踪、そして甲高い笑いを残してメイドも消えた。古い言い伝えを解読することによりホームズが謎の扉を開けるー。


ホームズ原文読み22作め。第2短編集「シャーロック・ホームズの回想」より、人気高めの物語です。


ホームズものは最初の短編「ボヘミアの醜聞」で人気に火がつきました。そしてこの第2短編集「回想」収録の話を発表したのはブーム絶頂の頃。ちょっとシャーロッキアン的に外せない要素が最初の方に出てきます。今回もまた、途中までのあらすじは先にダイジェストで。


ホームズが若い頃に手がけた事件をワトスンに話すスタイルです。この話の1つ前に発表された「グロリア・スコット号」での体験で探偵を自分の天与の仕事と定めたホームズは大英博物館の近くに部屋を借り、修行していました。学生の頃からその観察力、推理力を発揮していましたから、当時は彼の能力を知る友人から相談を受けたりしていましたが、まだ警察につてもなく、世に出る、手応えのある事件を捜査することを熱望していました。


そこへ大学時代の知り合い、レジナルド・マスグレイヴが訪ねてきます。彼はイギリスで最も古いとみなされる由緒正しい家系に生まれ、サセックス西部に構えた分家の一族代々の地所を継ぎ、広大な古い屋敷と敷地、猟場を管理していました。


そのハールストン屋敷の執事・ブラントンは若い頃からすでに20年間勤めた古株。妻を亡くした40代。大変有能な男でしたが女癖が悪く、第2メイドのレイチェル・ハウエルズと婚約したものの彼女を捨てて猟場管理人の娘と付き合いだし、レイチェルはショックで今も精神的に不安定でした。


ある夜、濃いコーヒーを飲んでしまって眠れなくなったマスグレイブが階下に降りて行くと、なんと図書室にブラントンが居て、地図のようなものを熱心に見ていました。彼はさらに机の引き出しの鍵を開け、何らかの文書を引っ張り出して調べました。


マスグレイブは勝手に家族の書類に手を付けたことが許せず、その場で1週間後の解雇を言い渡します。その後2日間は通常通り勤めたブラントンでしたが、3日めに突然いなくなりました。いつもの黒い服がないだけで、持ち物も全て残されていました。通りかかったレイチェルにマスグレイブが訊くと


「彼は行ってしまいました。行ってしまいました!」


とヒステリックに言い放ち、3日後の夜、レイチェルもまた失踪します。彼女の場合は足跡があり、敷地内の沼の近くで消えていました。


沼をさらったところ死体はなく、麻の袋が見つかります。中には変色した金属の塊、鈍い色の小石、ガラスの破片というがらくたが入っているだけでした。警察の創作も虚しく終わり、困ったマスグレイヴはホームズのところへ来たというわけです。


面白そうでしょ。さて、先に行く前に、冒頭に戻ります。ホームズの生活態度。この辺はシャーロッキアン的興味を大いに引くところです。


he was the neatest and most methodical of mankind, and although also he affected a certain quiet primness of dress


「ホームズは非常に几帳面できちんとした人物で、服装もこざっぱりしていることを好んだ」


これはそうですね、病気のふりをしたり変装したりという時は別として、泊まり込みの捜査の時でも、例えば無精ひげを伸ばしたり、だらしのない格好をしたりといったイメージはホームズにはありません。しかし・・


when I find a man who keeps his cigars in the coal-scuttle, his tobacco in the toe end of a Persian slipper, and his unanswered correspondence transfixed by a jack-knife into the very centre of his wooden mantelpiece, then I begin to give myself virtuous airs.


「石炭入れの箱の中に葉巻を入れていたり、ペルシャスリッパのつま先にパイプたばこを詰め込んでいたり、木のマントルピースの中央に未処理の手紙をジャックナイフで突き刺したのを見た日には、(だらしない人間だという自覚のあるワトスンさえも)道徳的なことを言いたくなるというものだ」


さらには銃をぶっ放し、


proceed to adorn the opposite wall with a patriotic V. R. done in bullet-pocks


「反対側の壁に『V.R.』という愛国心高き文字を弾丸の跡で飾る」


ということをしてたのです。V.R.とはVictoria Regina、イギリスのヴィクトリア女王のことですね。


この辺はホームズの生活態度、ベイカー街221番地Bの部屋の描写として、解説本では必ずと言っていいほど語られるところです。ロンドンのシャーロック・ホームズ博物館にはジャックナイフで留められた手紙、V.R.の弾丸痕が忠実に再現されているとか。


ちなみにヴィクトリア女王は1837年から1901年まで在位していました。繁栄を極めたイギリス帝国主義の象徴的存在です。シャーロック・ホームズはまさにイギリスの古き良き時代を代表するような作品で、当時の社会や価値観を反映しています。植民地、新大陸に絡んだ事件も多いですよね。



ともかく、部屋は乱雑で、文書類で埋まっていたため、ワトスンが片付けろ、と言って、渋々とホームズがブリキの文書箱を出してきたところ、思い出話が始まったというわけです。「グロリア・スコット号」で探偵の仕事に目覚めた次の話で、うまあく過去を語る展開に持っていっています。あの事件、この事件、といわゆる「語られざる事件」もいくつか出てきますが割愛します。


さて、マスグレイブが訪ねてきたその日のうちにハールストン邸へ出向いたホームズ。さっそくマスグレイヴと調査を開始します。


おっとその前に・・!ブラントンが深夜調べていた、机の引き出しから出した文書は、マスグレイブ家に代々伝わり、成人する際に唱えなければならないという奇妙な問答文でした。


Whose was it?

それは誰のものか?

His who is gone.

去りし人のものなり。

Who shall have it?

誰が持つべきか?

He who will come.

来たりし人が持つべきもの。

Where was the sun?

太陽はどこにあるか?

Over the oak.

ナラの木の上に。

Where was the shadow?

影はどこにあるか?

Under the elm.

ニレの木の下に。

How was it stepped?

どのように歩むか?

North by ten and by ten, east by five and by five, south by two and by two, west by one and by one, and so under.

北へ10歩、そして10歩、東へ5歩、そして5歩、南へ2歩、そして2歩、西へ1歩、そして1歩、そして下へ。

What shall we give for it?

我々は何を与えるか?

All that is ours.

我々のものすべてを。

Why should we give it?

なぜ我々は与えるか?

For the sake of the trust.

信頼のため。


マスグレイヴは17世紀中ごろの綴りで書かれているが、実用的な意味はない、と言います。ところが、ホームズにはピンときたんですねー。


I was already firmly convinced, Watson, that there were not three separate mysteries here, but one only, and that if I could read the Musgrave Ritual aright I should hold in my hand the clue which would lead me to the truth concerning both the butler Brunton and the maid Howells.

「僕はすでにしっかりと確信していたよ、ワトスン。謎はバラバラに3つあるわけではなく、1つだけだと。マスグレイブ家の儀式書を正しく解読できれば、執事のブラントンとメイドのハウエルズ失踪の真相につながる手がかりを手にできるだろうと」


屋敷が建ったのは1600年初頭ごろ。ナラに関しては、家のすぐそばに古い立派な木が立っていました。マスグレイヴに訊くと、古いニレの木も10年前まであったが、雷が落ちたから切り倒したとのこと。切り株はナラと屋敷との中間にありました。


ダメ元でニレの木の高さ、分かる?とホームズが問うと、なんと昔三角法の勉強をしていて測ったことがある、64フィートだとのこと。ラッキーですね。そしてブラントンもまた同じ質問をマスグレイヴにしていたことが分かりました。


ホームズはすぐに動き始めます。気を削って釘を作り、1ヤードごとに結び目をつけた長い紐を結びつけました。そして釣竿を2本つなぎ、6フィートの棒にします。1ヤードは91.44センチ、1フィートは30.48センチです。ニレの木の高さは約19.5メートルですね。


Where was the sun?

太陽はどこにあるか?

Over the oak.

ナラの木の上に。

Where was the shadow?

影はどこにあるか?

Under the elm.

ニレの木の下に。


ホームズは太陽がナラの木をかすめる時刻にニレの切り株の位置に釣竿の棒を立てて、影の先に線を引き測ったところ、影の長さは9フィート。単純計算でニレの高さが64フィートなら影の長さは96フィートになるというわけでした。算出した影の先はほとんど家の壁あたりまで来て、ホームズはそこに釘を打ちます。そばにはブラントンが付けたと思われる目印の窪みがありました。


その地点から、文面にある通り北へ、東へ、南へ、西へ歩測します。最後に辿り着いたのは、敷石の通路の上でした。これでは掘れない。一瞬落胆するホームズ。しかし、マスグレイヴ、「そして下へ」だ、屋敷が出来た時から地下室がある、と。あっという間に事態は好転、2人は地下室へ降りて行きます。


薪の貯蔵庫として使われていた部屋でしたが、中央のスペースを空けるため、薪は横に寄せられていました。真ん中の大きな敷石には錆びた鉄輪が付いていて、そこにブラントンが使っていた白黒チェック、shepherd's-checkのマフラーが結び付けられていました。


ホームズは敷石のふたを持ち上げようと頑張りましたが、ほとんど動きません。屈強な警察官を呼び、ようやく開けることに成功します。みな覗き込み、マスグレイヴがランタンで照らします。


A small chamber about seven feet deep and four feet square lay open to us. At one side of this was a squat, brass-bound wooden box, the lid of which was hinged upward, with this curious old-fashioned key projecting from the lock. 


「深さ7フィート、4フィート四方の小さな穴蔵だった。部屋の片側には真鍮板のついた木箱があって蝶番のある蓋が上に開いていた。鍵穴には古めかしい鍵が差し込まれたままだった」



we had no thought for the old chest, for our eyes were riveted upon that which crouched beside it. It was the figure of a man, clad in a suit of black, who squatted down upon his hams with his forehead sunk upon the edge of the box and his two arms thrown out on each side of it.


「その時は箱のことは気にかけなかった。というのは、我々の目はすぐそばにうずくまっているものに釘付けになったからだ。黒い服に身を包み、しゃがみこんだ男の姿。手を箱の両側に手を伸ばして、箱の縁に俯いた顔の額を落としていた」


穴の底にはブラントンの死体がありました。外傷はなく、窒息死でした。


箱の中には、コインと思われる金属が数枚しか入っていませんでした。ホームズは途方に暮れます。何があったか、正確に突き止めるためのものが見つからなかったからです。何があったのでしょう?ホームズは地下室の樽に腰を下ろし、推理しますー。


ブラントンは謎を解いた。しかし石の蓋は重すぎて1人では開けられない。協力を頼もうにも、とんでもないお宝の可能性もあり、うかつに知っている人を増やすことはできない。しかも自分はクビになり時間はないー。元カノがまだ自分に気があると思い、レイチェルを引き込んだー。


地下室の床には、端がへこんだり、重い物でつぶされたように平べったくなった薪がありました。男1人と、女1人、力を合わせたところであの重たい石のふたを、そんなに大きくは動かせない。おそらく少しずつ隙間に薪を挟んで徐々に持ち上げ、人が入れるくらい上がったところで薪を縦にしてつっかい棒にする。ホームズの推論は進みます。


そしてブラントンは中に入った。箱を開け、中身を上のレイチェルに渡す、それからー。


What smouldering fire of vengeance had suddenly sprung into flame in this passionate Celtic woman's soul when she saw the man who had wronged her -wronged her, perhaps, far more than we suspected – in her power?


「自分にひどい仕打ちをした男ー、たぶん僕らが考えるよりひどかったんだろう、その男の運命はいま彼女の手の内にある。そう気付いた時、この激しやすいケルト人気質の女性の心でくすぶっていた復讐の炎が燃え上がった」


つっかい棒がすべって外れ、重い石のふたが、墓となる場所にブラントンを閉じ込めたのは、果たして偶然だろうか?薪が外れたことを彼女が黙っていたのか、自ら手を下したのか。


I seemed to see that woman's figure still clutching at her treasure trove and flying wildly up the winding stair, with her ears ringing perhaps with the muffled screams from behind her and with the drumming of frenzied hands against the slab of stone which was choking her faithless lover's life out.


「僕には、彼女の姿が目に浮かぶようだった。宝物をしっかりと抱いて曲がりくねった階段を興奮して駆け上がる女、背後からは助けを呼ぶくぐもった叫び声と、彼女の不誠実な恋人だった男を窒息させる石のふたを狂ったように叩く音が聞こえていたはずだ」


レイチェルは失踪したさい、犯罪の証拠を消すために、ブラントンから渡された宝物を沼へ投げ捨てたと見られました。


箱に残されていたのはチャールズ1世の肖像が彫られた硬貨でした。ホームズは突如ひらめき、沼から引き上げられた物を見せてくれと言います。


マスグレイヴの書斎に戻り麻の袋に入っていたがらくたー変色した金属の塊はほとんど真っ黒でした。それに鈍い色の小石。がらくたにしか見えません。しかしー


I rubbed one of them on my sleeve, however, and it glowed afterwards like a spark in the dark hollow of my hand. 


「小石のひとつを袖でこすると、手のひらの中で、火花のようにキラリと輝いた」


金属の方は二重の輪になっていて、原形をとどめていませんでした。ホームズはマスグレイヴに推論を述べます。ここは先に私の理解で解説を入れさせていただきます。


チャールズ1世は清教徒革命、ピューリタン革命で敗れて処刑され、イングランドは王政を廃止し共和国となります。これを認めない王党派the royal partyはチャールズ2世を立てクロムウェルらの議会派と戦い続け、後に王政復古を果たします。


王党派は亡命する時に、貴重な財産をどこかに埋めたと言われている、平和が来たら取り戻すつもりで、とホームズ。するとマスグレイヴは


My ancestor, Sir Ralph Musgrave, was a prominent cavalier and the right-hand man of Charles the Second in his wanderings


「僕の祖先、サー・ラルフ・マグスレイヴは王党派の中心的な騎士で、チャールズ2世が亡命していた時の右腕だったと聞いている」


おお、その時代のもの。ピューリタン革命は1600年代中ごろ。さて、ではこの金属と、光り輝く石はなんぞや?


It is nothing less than the ancient crown of the kings of England.


「古代イングランド王の王冠に他ならない」


まじか!


Whose was it?

それは誰のものか?

His who is gone.

去りし人のものなり。


それ、は王冠で、去りし人、はチャールズ1世を意味していて、


Who shall have it?

誰が持つべきか?

He who will come.

来たりし人が持つべきもの。


来たりし人、はチャールズ2世を意味している。とホームズは説きます。おそらく秘密を持ったままラルフ氏は没してしまい、隠し場所を示す儀式書だけが、何百年、何代も、伝えられてきたのです。遂に秘密を解き明かす執事が現れるまで。


あとは後日談で、王冠はホンモノで、ハールストン屋敷で所持することになりました。そのためにはけっこうな費用がかかったとのこと。レイチェルは見つからず、ホームズは外国に行ったのではと考えているとのことー。


さて、不思議な物語でした。イギリス人なら誰もが知る歴史的な出来事を取り込んで作った話ですね。そこに不実な色恋と死、狂気を織り込んでいるのはまさに歌舞伎芝居のような演出です。


シャーロッキアンの間では、大いに疑問を呈されている部分があって、実は。正門は確実に東向きと思われるのに、なぜ夕陽がたどり着いた通路を照らす、という表現があるのか。「西日問題」と言われてるらしいです^_^まあそのへんが間違いの多いドイルらしいというか。ちなみにシャーロック・ホームズの建築」で建築士さんはそれを中庭から射す陽光としてかいけつしてらっしゃいます。


私的にもいくつか細かい疑問はあるもののまあいいか、というレベル。


最近近松門左衛門の本を読んだのですが、源平合戦や聖徳太子など日本人なら誰もが知る時代物とするのは、当てるためのひとつの手法だとか。英文を読んで思うことはいくつかありますが、目立たぬ設定が「うまい」のもドイルの大きな特徴です。


今回も楽しめました。








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