22:30ごろ、街の上に赤い月が浮かんでいて、いい具合に禍々しかった😎
◼️ 永井路子「氷輪」(上)
鑑真の日本到着は大仏開眼の翌年。政治と授戒。小説というより新書の内容を機嫌よく読む。
鑑真が晩年を過ごした唐招提寺は、近くにある薬師寺のようにきらびやかではないし巨大寺院、という印象でもない。けれどもしっとりとした敷地内の雰囲気と、創建時の姿を残すという金堂の、空に映える屋根の反りに、天平の風情、かすかな時代の残滓を感じる気が、ホントにするのです。売店で買った井上靖「天平の甍」を家で開いた時、すうっと抹香が匂い立ちました。
753年、奈良の大盧舎那仏開眼法要の翌年の年末に日本に着いた鑑真の一行は年が明けてようやく平城京入りする。日本では受戒、僧となる資格を得る儀式と修行が確立されず、税金逃れのために出家する男女が後を絶たず、政府は正式な受戒のできる高僧を唐から招請するため日本人の僧侶を派遣、要請に応じた鑑真は足掛け10年、その間失明しながら6回めの渡航でようやく日本の地を踏んだ。
しかし奈良では藤原不比等の孫、仲麻呂が藤原氏出身で叔母の光明皇太后、さらに光明の娘で従兄妹にあたる孝謙天皇と手を取り合い、聖武天皇が孝謙天皇に譲位した後の最高権力を得ようと画策、政治が動いていた。その中で聖武天皇時代に企図された鑑真招来、授戒とその後の修行などは翻弄されるー。
最初は小説の体を取っているように見えて、実質は古代が得意の著者が専門的な史料にあたり、現代主流の説に対して自説を分析的に述べていく本。授戒というものは、など当時の仏教についても探究している。インドで生まれた仏教は、中国でものすごく細かいところまで体系化され、それが日本に入ってきた、という流れはおもしろい。当時日本で外国といえば朝鮮半島、中華の国だった。
著者は持統天皇、天武天皇の2代後の元明天皇、元正天皇といった女帝たちがいずれも蘇我氏系であることを看破、この勢力と、藤原不比等との対立との図式などを物語にした人。とにかく自分で一次史料にあたる方でその考察は定評があるらしい。
まあ今回はさまざまな点で、小説本ではなく限りなく新書に近いと思う。こだわり、自説の説明を繰り返し物語に入れていく。古代は不明のことがあまりに多くて推測の域を出ないものもある。難易度が高めだな、と思いつつ読んだ。
ただ私は亡くなられた永井路子さんがこの本で、さまざまなポイントにこだわり長く見解を述べているのをフンフン♪と快調に読んでいた。正直難度が高いとこは流しもしつつ。著者の本を読んで、奈良に実際に行ったり、体験を思い返したりというのが楽しみとして備わっているんだな、と再認識できたことが嬉しい。
ちなみにこれ上下巻。上巻だけでも完結できる感じではある。たまたまブックオフにあったのが上巻のみで、好みのジャンルではあるけれど、機嫌よく読んだけど、理屈っぽいこの調子からはいったん離脱したく笑、下巻は後の楽しみとしようと思います。図書館にはあるようなのでまた。
今作を書く前、永井さんは東大寺から唐招提寺まで歩いてみたそうだ。私は秋篠寺から平城京跡、光明皇后発願の国分尼寺である法華寺のルートを散歩したことがある。
東大寺の寺院群のあたりはザ・観光地。興福寺で混むことなく阿修羅像を見て、大仏様を拝んで、三月堂でぐるりと天平彫刻の木造に囲まれた異空間に座る、など数年に1度は行きたくなる。
ぼちぼち時期かな。その気になってきた。
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