◼️ 「わが心の銀河鉄道」
'90年代の宮沢賢治の映画ノベライズ。心に浮かぶキャストは最近の「銀河鉄道の父」の俳優さんたちだった。
去年「銀河鉄道の父」を観た。賢治は菅田将暉、妹トシは森七菜、父政次郎は役所広司。1996年の「わが心の銀河鉄道」は賢治が緒方直人、トシが水野真紀、政次郎は渡哲也、そして賢治に猛アタックする女性・高瀬露に斉藤由貴。「わが心」は知り合いの宮沢賢治学会員さんが絶賛していたからたまたま見かけて手に取った。やはり観た方に影響されるもので読みながら想像は「父」の方のキャストだった。
あらすじはおおむね同じ。質屋を営む宮沢家は地域の財産家。賢治は父の商売が農民たちを苦しめていると廃業まで迫る。貧しい農民たちを救いたいと農業のユートピアを夢見るが、理想と現実とのギャップに悩む。救いを求めて日蓮宗の法華経にハマり、人造宝石を売るとかアメリカに行くとか言い出して父に叱責ばかりされる日々。最愛のトシが亡くなり悲しみに打ちひしがれる。物語を書き、学校で作詞作曲、劇の創作など型破りで楽しい教師生活を送り、やがて肥料設計、農業指導を行う羅須地人協会を立ち上げるが、最後まで「道楽農民」と揶揄され身体を壊す。
生き方が不器用で物語や詩の創作に光を見出す賢治に、あれこれと言いながらも愛情を寄せる家族。政次郎も、人の言うことを聞かず突飛な行動をする賢治を心から心配し面倒を見ていた。
圧倒的な著作の魅力。生前に出版した詩集「春と修羅」、童話集「注文の多い料理店」はさっぱり売れなかったが、文人たちの尽力により賢治の死後すぐに全集が出版され、「雨ニモ負ケズ」は戦時下に広まったらしい。「銀河鉄道の夜」ほかの作品は現代に至るまで多くの人に、文芸作品はもとより映像作品やアニメーション作品に強い影響を与え続けてきた。
その一方で理想と自分の力の小ささ、実を結ばない努力に悩み苦しむ姿も合わせて読者を惹きつけている。
「父」と「わが心」の違いは学友、文芸仲間との交流があるかないか、だと学会員の方。こちらには確かに家族以外の理解者、支持者の姿がしっかりと描かれている。「父」は家族に特化している感じかなと。
折々に、創作に沿ったファンタジー風の場面が入る。宮沢賢治の話しで印象的なイギリス海岸も、トシの死による樺太への旅、センチメンタル・ジャーニーも、チェロ演奏も静かに挿入されている。好みだなあ。
先日原田マハ氏がテレビで、画家が題材の物語は史実1割と言っていた。まあそんなこともないだろうけど笑、伝記映画が絶対挿入しなければならないエピソードに縛られて結果面白くなくなる、というパターンもよく見てきた。
宮沢賢治はそこそこ関連本を読んだ読んでいて、どれかというと定番ものに出会う感じで人生のトピックを見る感覚。そして、フォーカスの仕方により作り方にもバリエーションがありそうだ。人生上のドラマと悲哀という点ではゴッホに似てるかな。
気になっていたので、読めて良かった。
0 件のコメント:
コメントを投稿