2024年3月20日水曜日

3月書評の9

3月20日13時ごろ、雨降って☔たかと思ったら雪に変わり風も強くなった。春の嵐やね。

◼️ 一穂ミチ「スモールワールズ」

生死と家庭環境、親子、夫婦、毒。短編集って、と考えてしまった。

吉川英治文学新人賞、直木賞候補作、本屋大賞第3位。人気作家一穂ミチの短編集。リード通り様々な要素が詰まっていて、一筋縄ではいかない。

・ネオンテトラ
・魔王の帰還
・ピクニック
・花うた
・愛を適量
・式日

の6編プラス掌編。

妊娠せず、夫の浮気を黙認して悶々としている美和は、姪・有紗の同級生で父親の虐待のため深夜までコンビニにいる中学生の笙一が気になり、声をかけて時折りコンビニで共に過ごすことになる。ある夜、泥酔した笙一の母に詰め寄られた美和は、衝動的に笙一を家に入れるー。
(ネオンテトラ)

この話は、場面が変わった後、シーンのスキップ。突然のスピードアップとザパッとした展開は短編の妙か。そして毒が顕れる。

続く「魔王の帰還」は188cm、巨大で豪快な姉が離婚で実家に帰ってきて、弟が右往左往する話。甘酸っぱい恋バナ風味で、これは、悲しみを含みつつも清々しく落ち着ける話。

「ピクニック」は幼児の連続不審死。これでエンドか、と思いきややはり毒が。「愛を適量」は仕事にやる気のない高校教師のアパートに、成長した娘が転がり込んでくる。これもシチュエーションといい結末といい、皮肉な響きと暖かい灯火が同居している。「式日」は同じ高校の定時制と全日制で知り合った先輩後輩が、後輩の父親の葬式で再会する。ひどい父親、思いやりのある間柄、ゆるい会話に安心が滲む。

真ん中の「花うた」は兄を殺された孤独な妹が犯人の男と、文通で心を通わせていく、異質なストーリー。

「魔王の帰還」はコミカライズされているようだ。確かにこの短編集にあって1つ微笑ましい篇である。「ネオンテトラ」の最後に魔王の姉がちょっとだけ出演しててつながりも微笑ましい。逆に「ネオンテトラ」の笙一は「式日」の後輩ではないかと思わせる。うすい、示唆。

ゆるりと展開して、ギッ、と方向転換、シチュエーションをより深く印象づけること、決して甘いだけでは終わらない姿勢と、魔王。気持ち良いでは終わらない1話の仕掛けが巧みで、全体のバランスをも考えているような感覚。短編集の王道を行っているように見えつつ、言葉でないメッセージを発信してくるかのような著者らしさ。スモールワールドたちは起こり得る、しかし現実離れしたそのはざまで、ズンおしたものをテクニカルに描き出す。

ふむふむ、であった。私の読書師匠は短編は余韻、と教えてくれた。

これも数ある余韻の1つなのかなと、思い返した。

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