2024年3月30日土曜日

3月書評の10

◼️ フォークナー短編集

実はお初のフォークナー。南北戦争、黒人差別、オリジナルの民族に白人間の対立。

ノーベル賞作家ウィリアム・カスバート・フォークナーの作品はどこかで、と思いつつなかなか手に取らなかった。最初はなにか、マルケスの「族長の秋」を読んだ時と同じように、場面がうまく思い描けなかった。けども、読んでいくうちに話の芯は分かるような気になった。

・嫉妬
・赤い葉
・エミリーにバラを
・あの夕陽
・乾燥の九月
・孫むすめ
・バーベナの匂い
・納屋は燃える

の8編で、1925年から1950年の作品集。

「赤い葉」は大勢の黒人奴隷を抱えたインディアンの首長が亡くなった。当時は身の回りの世話をしていた奴隷も一緒に埋葬される習慣で、逃げた奴隷を捕獲に向かう話。

また濃くて意外な話。黒人奴隷を多く所有している土着の民族がいたのか、と。しかし過酷な。他の作品中にはいわれもない噂でリンチに遭ったり、白人たちのはっきりとした差別とその中でもがく黒人たちの姿が描かれていたりする。さりげない描写にも現実がにじみ出る。

調べてみると、フォークナーはミシシッピ州の田舎にあった自宅周辺をモデルにした架空の土地を舞台にしていること、旧家サートリス、また怪人的人物サトペンは、この短編集に前触れもなくたびたび登場する。どうやらフォークナーを読む時には前提条件の理解が必要なようだ。

後の方の3篇は白人が中心で、「バーベナの匂い」は決闘、恋情、勉学を中断せざるを得なかった若者の決意を、「孫むすめ」「納屋は燃える」は白人同士の格差や対立、小作人の家族などを描いている。

南北戦争がよく出てくるけども、終結したのは1865年であり、1930年の「赤い葉」でも75年離れている。当時のアメリカの読者にも、ふた昔前の時代ものだったのかも知れない。フォークナー自身は、南北戦争で負けた南部の出身であり、そこにかなりこだわりがあるようだ。

人間臭い、アメリカ前時代、リアルな社会の匂いが濃厚な小説はアメリカ本国ではなくてフランスでウケたとか。当時新大陸はまだまだヨーロッパの人たちには遠く、自国にない風味に関心が強かったのかも知れないな、なんて思った。

「納屋は燃える」・・村上春樹の「納屋を焼く」はひょっとしてオマージュ?うーん。

映画「PERFECT DAYS」で役所浩司演じるトイレ清掃人の主人公はフォークナーと幸田文を読んでいたな、なんて思う。

まあフォークナーも入り口はくぐったということで。

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