2024年3月17日日曜日

3月書評の7

◼️ 千早茜「透明な夜の香り」

マイナスな特徴はプラスに響くのかどうか。軽く暗く危うい。

直木賞も取り、いまやトップランナーの千早茜さん。私は泉鏡花賞などを受賞したデビュー作「魚神」、とても面白かった昔話風の「あやかし草子 みやこのおはなし」そして「あとかた」しか読んでないけども、なんかフツーではない。それぞれ危うい、ちょっと外れた残酷さ、エロチシズムが匂う。必要なノイズであるかのように。

全てが香りで分かる調香師・朔。体調も、男女のことも、そして、嘘も。

住宅地に建つ洋館で、抜群の嗅覚を持つ朔は様々な依頼を受けてクライアントが望む香りを調合している。トップ女優の「美しくなる」香り、好きな男の匂い。難病の子どもを救うため、行方不明の女性の捜索のため、その能力を使う。アルバイトの家政婦として朔のもとで働くことになった一香は、やがて朔の悲惨な生い立ちを知ることになる。そして、一香もまた、つらい過去を背負っていた。

現代ものは2作め。朔は特殊な嗅覚を持ち、匂った香りから体調、男女の関わりの有無、行動まで推理できてしまう。クライアントからは犯罪につながりかねないような調合を頼まれるが基本的には望み通り作ってやる。ハーブ、料理などに詳しく、一香が作る食事もすべてレシピを書いて渡している。

その行動からはどうも危うさが漂う。超人的な朔、その聖人性を否定するような、アイロニカルで、黒い感じが漂う。ちょっと読み手にはうるさい、ノイズのような危うさ。

すべてに卒がなく、スーパーな探偵のような主人公。その如才なさ、きれいさにちょっと引く。エピソードひとつひとつは刺激的、でもどうもこの作品の波を捉えきれない。でもこの危うさこそが千早茜、という考えが、読了してからふっと頭に浮かぶ。俗っぽく人臭いエロもいつものように含ませていて、この感覚が悪くない。

評判の良い作品、だけれども私にはもうひとつ響かなかった。でも、この危うさを求めて、別の作品を読む気がする。いやきっとそうだ。

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