2024年3月30日土曜日

3月書評の11再

◼️ 遠藤周作「海と毒薬」

キリスト教的考え方と日本人、流される人々がテーマとのこと。ふうむ。

遠藤周作もたしか読んだことがなく、今回ググって初めてキリスト教と日本人を大きなテーマにしている作家さんだと知った。いや不勉強。1958年、昭和33年の作品で、九州帝国大学で戦中に起きた、捕虜の人体実験を核としている。

地元出身の医学生・勝呂、関西から来た同僚・戸田、補助看護婦・上田。戦中の大学病院は
治療方法や手術の日程までが権力争いに絡んで決まりる。学部長の親類の手術に失敗し死なせてしまった第一外科の幹部たちは軍部のアメリカ人捕虜提供の話に乗る。死を前提とした実験手術に参加は自由意志とされ、勝呂も戸田も承諾するー。

上層部の意向に翻弄されるしかない自分に嫌気がさしている勝呂、また強気ながら自分には人間らしい感情がないのではと疑う戸田、入院してきた男と結婚、満州へついていったものの別れて帰ってきた看護婦・上田らの半生と現状。おりしも病院からは連日のようにアメリカの爆撃を受ける市街が見える。捕虜は爆撃機の乗組員だった。

医療、手術の専門用語を交えながら、戦中の病院、入院患者、治療に携わる人々の、極めて人間臭い状況をストーリーとして綴っている。そして生体実験の非動さにも逃さずスポットを当てながら、その出来事をキーとした、取り巻く人々の愛憎や心証が中心となっている。複雑さを感じる小説だと思う。

ウェットで控えめな勝呂の現状にぐずつき戸惑う心持ちが描写され、反対にドライな戸田にはヘルマン・ヘッセの短編のような蝶の剥製のエピソードなど少年時代をつぶさに回想させている。上田の満州時代を語る部分には戦前の社会から続く鬱屈がスケール感とともにうかがえる。

それにしてもF市て、薬院とか糸島の地名も出してるし福岡って丸わかり。市街と九大病院はそんなに離れていないけど、そこまで海も近くないけど・・なんて思い読んでいた。あくまで事件をモチーフにした創作小説だということだ。

流されやすい日本の人々とキリスト教、という明確な対比は見えない。出演する元看護婦のドイツ人の夫人がその価値観を代表しているのうにも思えないことはないけれど。ただ、では出来たのか、という点はキリスト教徒でも同じのような気もする。

背景を知ったことで少し興味が出た遠藤周作。「沈黙」はおもしろいのかな。

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