日展神戸展の絵①これでも日本画です。
◼️ 坂口安吾「不良少年とキリスト」
戦後すぐの評論集。世相がよく見える。盟友・太宰治の死には哀しみが。
1946年のごく短い小説「復員」に始まり、1947年、48年の出来事、事件についての評論、そして織田作之助、太宰治との対談と盛りだくさん。
やはり戦後社会の考察、復員、ヤミ屋、パンパン。戦後価値観はぐるりと変わった。人の考え方はどうだったか、というのも見えるような気がする。帝銀事件は衝撃的だったようで何度も言及がある。また周囲の誰もがスリ、職人的なものから浮浪児を中心とした集団スリ、の被害に遭っており、殺伐としていたのが分かる。男女同権、共学、さまざま議論があったのだろうと。また特に囲碁将棋にも造詣が深くトップ棋士との付き合いもかなりあったようだ。
分析的というよりはやはり考察であり、筆者のの個性を押し出した文章であるので、実はどうも合わず、前半はさらさらーっと読んでいた。
中盤あたりに、京大生が同じ大学の女性に心中を迫って拒絶されたため惨殺した、という事件から、理論づけをして飛躍を合理化してはならないこと、また引揚者、浮浪児の社会復帰に政府は大予算を割くべし、という主張があってそのへんから後はこちらもピントが合ってきた。
「批評家は千差万別の批評を加え、読者は各人各様の読み方をする。その結果が、作家の思いよらざる社会的影響をひき起こした場合にも、作家は尚、社会的責任を負うべきもの、と私は信ずる」
ふむふむ。これは学生自治運動における応援団の存在と傾向について批判したところ抗議文が寄せられた件に関しての弁明の一部。潔いと同時に影響力を確信しているフシもあったりして。
対談は、酔った上での鼎談のような感じでもある太宰治の、気を許した仲間内での姿がちょっと興味深いというか、なんかイメージ通りで、やっぱりおもしろい笑。
作家についてはもう、名指しで厳しく批判しまくる坂口安吾。永井荷風メタメタ、志賀直哉なんてけちょんけちょん。
太宰が死んだ時、実は死んでなくて、仲の良い坂口がかくまっているのではと疑った新聞記者に終日追跡されたそうな。表題作はその太宰治の死についてのコラムで、この本の最後に掲載してある。
坂口の捉え方はクールに見えて、批判にいちいち正直に怒り苦しんでいた太宰、欠点が多く不器用、サービス精神旺盛で、プライドが高かった太宰、不良少年、そして常識的で誠実な太宰と、その人格を解題しているようでもあって、やはり情がかなり入っている。
「『人間失格』『グッド・バイ』『十三』なんて、いやらしい、ゲッ。他人がそれをやれば、太宰は必ず、そう言う筈ではないか」
つまりこういうタイトルの小説を書いて自分は自殺、しかも遺作が「グッド・バイ」・・なんだよそれ、と、えもいわれぬ叫びが聞こえてくるかのよう。
文学論議熱き頃のお話。文豪の空気ってやっぱり特殊で、魅力的だ。
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