◼️青山美智子「お探し物は図書室まで」
評判の佳作。仕事の考え方、チャレンジ、寄り添う処方箋のような本。
青山美智子さんはこれまで「青と赤のエスキース」「木曜日にはココアを」と読んできた。今作は本屋大賞2位、本好きに好まれる図書室もの、その人の物の見方をほんの少し変えてあげるヒント。なるほど。すでにロングセラーのような気がしてたから、文庫本の発売が去年と知って驚いた。
とある図書室、穴で冬ごもりしている白熊のようなビッグな体躯、キーボードを打つ手さばきは北斗の拳のケンシロウのよう、いつもざくざくと何かに針を刺し続けている司書、小町さんは利用者に問いかける。「何を、お探し?」
総合スーパー婦人服売り場の新人販売員、21歳の朋香は転職を考えて小学校併設のコミュニティハウスに開設されているエクセル教室に通う。教則本を借りようと図書室に行き、小町さんに声をかける。小町さんが選んだのはエクセルの本と、「ぐりとぐら」だった。
いずれも何らかの壁に突き当たっている、年齢と立場の違う男女が小町さんが選んだ本をきっかけに新たな一歩を踏み出す。地元の友人には東京でカッコいい仕事をしてると思われたい朋香のほか、アンティークショップを夢見る手堅い経理部員、出産・育児で華々しいキャリアから脱落したと落ち込む女性、得意の絵を仕事にできず、まともに就職できないニート、仕事一筋できて会社を離れたとたん様々な違和感に苛まれる会社人間・・読んでいて、良かったなあとか、あるよなあとか想いが過る。
思ってしまうのは、根源、ということ。ああこの人本当に文芸を読んだり文章を書いたりするのが好きなんだなあ、と思う友人や根っからの映画好き、バスケットボールやバレーボールに魅せられた者、車が好きでドイツやイタリアの工場まで観に行っちゃう人、などが私の周囲にもいる。後天的に、離れ難い、分かち難い、どうしようもなく魅力を感じるものを得ていること、またそれを誇りに思っている部分、である。
一見ライトそうで、ふと考えてやってみようか、というような流れ、雰囲気を纏う短編たちでありながら、がっちりと隠れた夢、欲をつかんでいるような気がしてならない。物語の構成も一筋縄ではなく、さまざまな要素が上手にミックスされていると思う。
正直各話の主人公はステレオタイプな気もする。特にラストの方はまるで昭和の仕事人間という風情に、ちょっと設定古いかも、など思った。ただ、いちばん心に残ったのはこの定年後のオヤジの話だった。定年後の会社人間が草野心平の詩をきっかけに文芸に心を開いていくのは読んでいて楽しい。私にはカジカがキーワードで、清流に棲みルルルル、と鳥のように鳴く声をいつか聴いてみたいと思っている。草野心平でぐっと清々しさが増したのではないだろうか。また、奥様、娘さんを柔らかく描いていて環境に恵まれ、ということは信用できる人物、という気がしてくるところが現代的でもある。
若い人たちが奮闘するのは感動する。それは自分も通った道だから。うまく転がりすぎなのは物語だから、なんてことも思う。でも人生を左右するほどドラスティックではなくとも、うまくいくときはそういうものだと、経験則に響く。
最近何についても評論している、と言われて、私的には感じたままを書き放ってるだけで権威も経験すら何もないし、形にすること自体が良くないのかも、と思ったりしていた。でも終章を読むと、ま、いいじゃない、と思える。本の読み方も人それぞれ、なんにしてもそうかも。
と、もの柔らかで小憎らしいほど気が利いていて、さらに深く考えさせてくれるこの短編集は、もしかして深い洞察に満ちた、著者渾身の作なのではないか、なんてことまで思い至る。
ウケがいいのはそういうとこもあるのかな。
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