2026年3月1日日曜日

2月書評の12

◼️ 川内有緒「空をゆく巨人」

いや・・圧倒された。現代美術の雄・蔡國強とチームいわき、ことに主人公の志賀忠重。すごくて楽しいことがこれだけできるんだと。

なじみの古書店さんに薦められて購入した。新しい何かに会える期待感があったところ、想像以上。苦しくとも、なんとかしてきた者たち。

現代美術はアート好きなら何度も見る。わけ分かんないけど楽しい、という感触。ある美術展では会場外のトイレにまで一面にテープで文字が貼り付けてあった。複雑なレールを広い場所に敷いたうねうねと敷いた作品もあった。しかし蔡さんの作品は、独自性豊かで、スケールが大きく、視覚的。まとまっていて、強いメッセージ性がある。

福島県出身の志賀忠重は1980年代、地元で、ソーラーパネルによりお湯が出るシステムの訪問販売で大成功を収めるなど商才を発揮していた。1986年、キャンバスの上で火薬を爆発される火薬画を志向していた美術家・蔡國強は妻を連れて中国から来日、銀座の画廊で作品を売り込むものの相手にされなかった。やがて人を介して蔡はいわき市にある志賀の友人・藤田のギャラリーで作品展をすることに。そこで蔡は志賀と出会った。

志賀という人物は、福島の地元とのつながりを大事にしながら、これという人には成り行きで入れ込んでしまう。蔡さんが展示を手伝ってくれといえばアメリカでもヨーロッパへでも飛んで行く。北極徒歩横断に挑む者のサポートのため現地のベースへ入り、補給の飛行機で最前線へ行く。現実的な目線では資金はどうしてるの?と単純に思う。

時代というか、なんとなく分かるが、事を成す人はおおらかだ。発想は豊かでなんとかなると突っ走る。蔡さんも、大場さんという冒険家も計画的とは言えないし、費用や人員のことは顧みない。ただ成し遂げる結果は本当に目を瞠る。全般に、なんとかなるさ、という通念のようなものがあって、現実的な心配を感じさせない。そういった時代人の心意気も分かるような気がするから不思議。

蔡國強というアーティスト、実は初めて知った。しかし、すごい。文字と写真で芸術ゴコロが惹かれ、見てみたいと思わせる作品が多い。

アメリカ・ネバダの核実験場などで筒に詰めた火薬をに点火、きのこ雲のような煙を出す写真のシリーズでセンセーションを巻き起こし、有名になった。それにしても、福島の海で火薬を何百mも引いて火をつけ、地球の輪郭を表したり、長い縄梯子を飛ばして空中で火をつけたり、果ては空港から17時間バスに乗っていくゴビ砂漠で、万里の長城の端を延長させる形で1万メートル火薬を敷く。もちろん火をつける。火は蛇がうねるように15分かけて進み、雪山の向こうに消える。視覚的にもチャレンジとしても壮大で突飛で、しかも成果を感じさせる。火薬ばかりでなく、福島の海で掘り出した木造の廃船を使った展示をしたり、大きな塔を造ったり、いわきの新しい美術館に龍のような回廊を構想したり、とにかくスケールが大きくて、身体の芯に来るような作品が多い。

志賀氏を中心としたいわきチームは世界各地に行って蔡さんの廃船を使ったアートのため、船を組み立てる。現代美術のスーパースターを支えているのは東北弁をしゃべる逞しいおっちゃんたちだ。写真の表情は本当にみないい顔をしている。

カナダ国立美術館分館での記念写真、いわきのメンバーたちが現地に来て作業をした廃船と、白磁の磁器を粉々に割ったものを取り合わせた作品の前で蔡さんと妻子が微笑む写真には、なぜか涙が出た。

そして東日本大震災、志賀はある決意をする。

絵を描ける人、楽器奏者、スポーツ選手には畏敬の念を抱いてしまう。蔡さんには圧倒された。そして志賀氏を見ていると、人間ここまでできるんだ、というでっかさを感じる。いやもう単純にすごい。故郷と暮らす人々への強い想いにも感銘を受ける。

ぐわんとくる、読み応えあり過ぎる本でした。
蔡さんの展覧会、なんなら火薬を使った大規模な作品でも、ぜひ観たい。どこかでやんないかな。福島の美術館にも行ってみたいね。

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