実話を元にした感動作。定時制高校の科学部の話。パワーを感じます。
伊与原新は「月まで三キロ」「八月の銀の雪」「青ノ果テ」「オオルリ流星群」「藍を継ぐ海」と読了。やはり天文・科学の研究者出身という素地を活かした話が好みだが、それだけでなく人の情を絡めながら描くところに惹かれている。今作は先にNHKのドラマを観て、感銘を受けた。原作に忠実に作ってたんだなと、出演者を思い出しながら読んだ。
東新宿高校の定時制課程。夕方5時45分から9時までの4限制。ごみ収集・処理の工場に勤める若者・柳田岳人は文章の理解が困難な性質で中学をドロップアウト、大麻の売人とつながりのある仲間と付き合っていた。博士号を持つ大学の研究者で定時制教師の藤竹は、荒っぽい柳田が数学のテストで方程式を難なく解いていることに目をつけ、科学部を作ろうと持ち掛けるー。
「知ってますか、火星の夕焼けは青いんですよ」
柳田のように働きながら通う者、フィリピンとのハーフで長年フィリピン料理屋を営んでいる越川アンジェラ、保健室登校でSF小説好きの名取佳純、集団就職で東京に出てきて自分の製作所を持った老人・長嶺省造、現役キャバ嬢・正司麻衣など、定時制には様々な学生が集まってくる。トラブル、怪我は日常茶飯事。実際にバイクで柳田の仲間が乗り込んできたり、腕のカットがあったりする。
藤竹は柳田をはじめ各人を科学部に誘い、それぞれの良いところを引き出し、学会発表という大きな目標を掲げる。やがて火星のクレーター再現、という画期的な実験に向けて定時制の科学部は走っていく。
宇宙好き、科学という題材への興味がまずある。しかし登場人物の設定の上手さと、隠れた背景の作り方が抜群だ。藤竹のキャラもマンガみたいに絶妙。会話や人情味の見え方も分かりやすく感情の琴線に触れてくる。学会発表という未知の世界のリアルさも新鮮で魅力的。
読み手は人の成長や目標の達成、そこへ向けての努力・過程に感銘を受ける部分もあると思う。サクセスストーリーには出来過ぎ感が伴う。もちろん、これも小説ではあるが、説得力を感じるのは、実話を元にしているからかもしれない。
大阪の定時制高校グループが「重力可変装置で火星の水の流れを解析する」という研究により日本地球惑星科学連合大会のポスター発表で優秀賞を受賞した。それより先、彼らの微小重力発生装置はJAXAに注目され、小惑星探査機・はやぶさ2のチームが同様の装置を用いて基礎実験を行ったという。
すごい成果だと、率直に思う。柔軟な発想と創造のパワーに溢れている。手作り?というのがまたいい。この研究成果には微調整のため、何回も繰り返したテストの積み重ねがあるはずで、本書でも描かれている。
実話に小説らしい味付けがなされた物語。綿密な取材も伺える。保健室の養護教諭・佐久間のセリフもリアルだな、と。テレビドラマはさらに色々付け足していた、けどもストーリーはかなり原作に忠実という印象を受けた。
ドラマとの良い相乗効果でホロリ🥲続編もまもなく刊行らしい。楽しみだ。
伊与原新が「藍を継ぐ海」で直木賞に選出されたときの選考委員を務めた辻村深月と著者の対談が掲載されている。その中で、お金にならなくても平気だし、「何の役に立つの?」という質問など端から考えてもみないのが普通な、好きなものに夢中になる大人の話が出てくる。
私はマニアではないが、12月のふたご座流星群や、年明け早々にピークを迎える未明のしぶんぎ座流星群はどんなに寒くても、朝眠くても外で何時間か粘る。彗星が見えるとなればスマホで撮影するのに良き場所へ出かける。だって楽しいし、好きだし。肯定されたようでd(^_^o)好感。良い読書でした
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