◼️ Authur Conan Doyle
"The Cardboard Box"「ボール箱」
ホームズ短編原文読み47作め。第4短編集"His Last bow"「シャーロック・ホームズ最後の挨拶」より。これまで月イチくらいのペースだったのが、6月以来の読了となりました。なにかと立て込んだことは確かではありますが、常にあれこれの事情はあるのでまあスマホ病の影響ということかなと。あとこの話は、長かった。
さて「ボール箱」さすがの?私もホームズ譚であまり好きではない話もあって、これはその1つです。なぜなのかは紹介が終わった後に。
序盤は短編中たまにある、ホームズがワトスンに読心術を仕掛ける下りがあるのですが割愛します。8月のうだるように暑い日でした。
ホームズから促されて、ワトスンはある新聞記事を読みます。クロイドンで隠遁生活を送っている婦人、ミス・スーザン・クッシングのもとへ人間の耳が2つ入った小包が届いた、というものでした。
北アイルランドのベルファストから発送され、送り主は不明。茶色の包み紙にボール箱、中には粗塩が詰めてあり、耳はその中に入っていました。記事によれば、ミス・クッシングが以前営んでいた下宿に住む医学生たちがあまりに不品行でミス・クッシングは彼らを追い出したことがあり、うち1人がベルファストの出身であることから、その逆恨みではないかという方向で捜査されているとのこと。
おなじみスコットランドヤードのレストレイド警部から助力の依頼が来ており,2人は出動、駅でレストレイドと待ち合わせ、ミス・カッシング宅へと向かいます。レンガ造りの2階建ての家に、彼女はいました。
She was a placid-faced woman, with large, gentle eyes,and grizzled hair curving down over her temples on each side.
落ち着いた顔つきの、優しいつぶらな瞳をした婦人だった。白髪混じりの髪が巻き毛が、額の両側にかかっていた。
ワトスンのミス・クッシングの描写、これも1つの重要なポイントです今回。椅子のカバーを編んでいる最中でした。
私は隠居暮らしをしている者で、何も知らない。新聞に名前が載って警察が来るだなんて、と戸惑いつつ言い募るミス・クッシング。ホームズたちは納屋に置いてあるというボール箱を調べにいったん出て行きます。
ベージュの箱はもと煙草の箱だった、茶色の包み紙からはコーヒーの匂い、ミス・クッシングによってハサミで切られた紐は結び方が独特だ、とホームズ。そして送り先は
Miss S. Cushing, Cross Street, Croydon
と記されていました。住所は間違って書き直しており、筆跡からあまり教育の素養のない男性でクロイドンのことを知らない。粗塩は生の獣皮などの保存に入れるものと推理していきます。
そして2つの耳。まずホームズは防腐処置がないこと、切れ味の悪い刃物が使われていることなどから医学生のいたずらではない、これは殺人事件だ、と断言します。
1つの耳は女性のもの。小さく、優美な形で、ピアスの穴が空いている、もう片方は男のもので陽灼けして、やはりピアスの穴がある。2人はおそらく殺されている。きょうは金曜日、発送日、到着日などを考えて犯罪は火曜か水曜。
ここでドイルはよくある曜日のミスをしているのですが詳しく指摘するのはやめます。しかしホンマに誰もこの手のことをチェックしなかったんだろか。
小包の差出人が犯人だ。まぎれもなく受け取る者に見せつけるために。そこに強い動機があったはずだ。しかしミス・クッシングは警察に通報した。つまり、犯人の名前を知らなかった。犯人を知っていて庇おうとするなら隠密裏に処理するはずだし、庇おうと思わないなら犯人の名前を警察に言っているはず。
ホームズは再度ミス・クッシングと会見します。何度も話を聞いているレストレイドは所轄署に帰りました。
これは何かの間違いです、あの小包は私宛てのものではないと何回言っても警察の人は相手にしないんですから、と言い募る彼女のそばに座るホームズ。なだめながら、ワトスンはホームズが彼女の横顔を熱心に見つめ、すぐに驚きと満足の表情を浮かべたのを見て取ります。
マントルピースの写真を見て、2人の姉妹がいらっしゃいますね、顔立ちがそっくりだ、またその横には別の写真が。妹の1人と船のスチュワード、船の客室係らしき制服を着た男性の2ショット、まだ未婚の頃ですね、と話します。
この早わざ、というか1回目に部屋に入った時にすでにホームズは写真を見て推理してしまっていたのですがーの披露にミス・クッシングはびっくり。
"You are very quick at observing."
「素早い観察ですこと」
"That is my trade."
「まあ仕事なものですから」
ワトスンが他の話で述べていた通り、女性嫌いと一般に言われているホームズはその気になれば女性を打ち解けさせるすべに長けていました。こうしてホームズはミス・クッシングから情報を引き出します。
妹たちはセアラとメアリーという名前でした。メアリーは船の客室係のジム・ブラウナーとすでに結婚していました。ブラウナーは南米航路の船に乗っていましたが、メアリーへの思いが強く、長い間離れたくないという理由でリバプールとロンドン間往復の航路の船に乗るようにしたとのこと。
ブラウナーは禁酒の誓いを立て、かつてこのクロイドンの家に来ていた。しかしその後また酒を飲むようになって、酔うと手がつけられなかった。まずミス・クッシングと縁を切った。そしてセアラと大げんかをした。いまはメアリーからの便りも途絶えていてどうしてるのか分からない。いったん喋り出すと、ミス・スーザン・クッシングは饒舌でした。ブラウナーのこと、失礼な医学生のことをまくしたてます。
ホームズが、セアラとどうして一緒に暮らさないんですか、と訊くと、2か月前までこの家にいたけども、気難し屋でお節介でとてもうまく行かなかったと。セアラは妹夫婦と一時仲が良くて、リバプールの彼らの家の近くに住んでいた、しかし決裂したのか、姉のスーザンのところへ来てからはブラウナーの飲酒癖や態度の悪さのことばかり言い立てていた、いまはウォーリントンに住んでいるとのことでした。
ホームズは短い電報を打った後、セアラに会うべくウォーリントンに向かいます。ところが当のセアラは重病で面会謝絶だと出てきた医師に告げられます。仕方がないとランチしてからレストレイドのいる警察署へ着くと、ホームズ宛に電報が来ていました。
文面を見るやホームズ、
"That's all right,"
「うまく行った」
Lestrade:"Have you found out anything?"
レストレイド「何か分かったんですか?」
Holmes"I have found out everything!"
ホームズ「すべて分かったんだよ」
L:"What!You are joking."
レ「何ですって!ご冗談でしょう」
H:"I was never more serious in my life.
A shocking crime has been committed,
and I think I have now laid bare every detail of it."
ホ「人生史上最高に真面目だよ。ショッキングな犯罪がなされた。ぼくは詳細をすべてはっきりさせたと信じている」
ほんで犯人は?と勢いこむレストレイドにホームズは名刺の裏に走り書きして警部に放りました。それが名前だよ、ぼくの名前は出さないようにしてくれたまえ、行こうワトスン、とひらりと帰ります。
夜、ベイカー街の部屋で、ホームズは述懐します。ミス・クッシングは秘密を持っていそうにはとても思えない、穏やかで上品な女性だ、写真で2人の妹たちを見て、ボール箱はこのどちらかに送られたのかも知れないとひらめいた。
長姉はSusanスーザン・クッシング、上の妹はSarahセアラ・クッシング、そして宛名は
Miss S. Cushing
となっていましたね。
くだんのボール箱、紐や結び方は船員がよく使うものでした。包みは港町のベルファストで投函された、また切り取られた男の方の耳には船乗りに多いピアスの穴が空いていた。
その後ミス・クッシングのそばに座った時、ホームズは送られてきた女の方の耳とミス・クッシングの耳が、専門的、解剖学的に見てもそっくりだと発見します。人間の耳はそれぞれ独自の特徴があり、ホームズはこの点に関して人類学ジャーナルに論文を書いているとか。ともかく偶然の一致はありえない。犠牲者はミス・クッシングに極めて近い親族だー。
最近までセアラはクロイドンに住んでいた。リバプールに住んでいてブラウナーとケンカをしてから連絡を取っているとは思えない。ブラウナーはセアラがクロイドンの家を出て行ったことを知らない。だからセアラ宛のはずの悍ましい贈り物は姉スーザン・クッシングの下へ届いた。
ホームズは推理を進めます。ブラウナーは待遇のいい職場を妻と一緒にいたいばかりに投げ打ち、禁酒もしてしまう。しかし呑んだら手のつけられない。情熱的で破滅的。彼の妻と船乗りらしい男が殺された。原因として考えられるのは嫉妬ー。まだ死んだ男がメアリーの夫という可能性もある。
ホームズはリバプール警察の友人に電報を打ってブラウナー夫人が家にいるか、ブラウナーは自分が乗る予定の船で出発したかどうかを訊きました。ウォーリントンのセアラ宅に行くと、当人は脳炎で倒れていた、つまりクロイドン中が大騒ぎとなった事件を知り、小包の中身、その意味を真に理解したから倒れたと見ることができる。ブラウナー夫人宅は3日前から不在だった。ブラウナーは予定通り船に乗っており、明日の夜にはテムズ川に着く。埠頭でレストレイドが待ち構える。
ホームズは珍しく?^_^レストレイドを褒めています。推理力には欠けているが、
"he is as tenacious as a bulldog"
「ブルドッグのように粘り強い」
この粘り強さが彼をスコットランドヤードのトップ警部にさせている、と。
さんざんやり合ってきた仲、でも結局レストレイドもホームズに頼る、ホームズも、「空き家の冒険」「バスカヴィル家の犬」ほかのように、助っ人や警察力が必要な時はレストレイドを筆頭とした警部陣に頼る、という図式でした。長年の信頼関係を感じさせますね。
さて、首尾よくブラウナーを捕らえたレストレイドから供述調書入りの報告が届きました。犯人はブラウナーでした。で、物語はこの後ブラウナーの話が長々と続くことになります。が、端折ります。
ブラウナーとメアリーは仲の良い夫婦で問題は何もなかった。そこへセアラが近くに住むようになった。セアラはブラウナーに好意を持ち、2人になりたがった。その気のないブラウナーはきっぱり拒絶した。するとセアラがメアリーに何かいい含めたのか、メアリーが何かと夫に疑念を抱くようになり、夫婦の諍いが増えた。
メアリーは、セアラの誘いでその頃家へ出入りするようになったアレック・フェアべアンという小粋な船乗りを気に入ってしまった。また酒に溺れるようになり、昂じたブラウナーはセアラにフェアべアンの出入り禁止を荒っぽく言い渡し、セアラは出て行った。その時あいつがまた顔を見せたら、片耳切り落として送ってやる、と息巻いた。
ある日、7日間の航海のハズが船のトラブルで出航が遅れることになり、ブラウナーは家に帰ろうとした。すると通りかかった辻馬車にメアリーとフェアベアンが乗っているのを見かけた。笑顔で喋っている2人の姿に我を無くしたブラウナーはそのまま尾行した。駅からニューブライトンまで列車に乗り、霧の深い湖で2人はボートに乗った。ブラウナーは自分もボートを借りて追い、彼らの前に霧を割って突然現れ、持っていた重たいオークのステッキで2人を撲殺、遺体は穴を開けたボートに縛りつけて沈めた、その前にセアラへの復讐を思いつき、ナイフで・・。そして小包を作りベルファストからクロイドンのS・クッシング宛に発送した。セアラはすでにいない、スーザンだけが暮らすクロイドンへ向けて。
縛りつける紐やナイフをたまたま持っているのは緊急時で船乗りの装備のまま降りてついて行ったから、との設定を敷いているあたりドイルの周到さが見て取れますね。
さて、実はこの話、1893年と早めに発表されていたものの、不倫が題材ということで短編集に収録されたのは1917年のことでした。収録見送りはドイル自身の判断だったそうです。ただそれはイギリスでの話で、アメリカでは1894年発行の第2短編集に入っています。
題材とはまた別に、残虐なこと、動機が単純、イヤミスっぼいことなどから私的には好きになれません。どうもホームズものの色を逸脱してるというか・・ホームズの推理には見るべき部分もあるものの、もうひとつ乗り切れないですね。
というわけで、ようやく終わりを迎えホッとしています。疲れる話でした。
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