2024年10月31日木曜日

10月書評の6

◼️ 千早茜「ひきなみ」

「島」の少女たち、東京の大人たち。特殊状況と邂逅。

最近読み方がちょっと引き気味で、架空の物語に没頭できず、俯瞰というか、穿った見方をしようとし過ぎる傾向にあるというか。

もひとつ、つい過去読了作品に似てる感じがする、と考えてしまう。今作もそうだった。

小学6年生の葉(よう)は祖父母のいる波佐見の島に預けられる。東京から来たというだけで好奇の的になり、男子に携帯電話を持ち去られてしまう。男子を蹴り倒して取り戻してくれたのが、豊かな黒髪、ひょろっと手足の長い、真以だった。

孤独を感じる葉は真以と仲良くなる。しかし真以は、子どもにも大人にも、敬遠され蔑まれていた。ある日、家に鍵をかける習慣もない平和な島に脱獄犯が逃げ込んでくるー。

島、というだけで閉鎖空間というイメージが湧く、また神秘、伝説という雰囲気も自然と醸し出される。著者のデビュー作「魚神」も島の遊郭ものだったかと思う。最近はまた恒川光太郎「南の子供が夜いくところ」が島の異空間ぶりをよく表していた。やはり両方が似ているところもある。

全体は小学校から中学校の島時代と、葉が就職してから10年の月日が流れている東京時代とに分かれている。

島の、古い、いわば男尊女卑社会ぶりは、後段のセクハラ・パワハラ事案に繋がっている。受け入れられない者同士の友情。真以はスタイルが良く、海風に黒髪をなびかせ、颯爽としている。性格は強気でどこか悟ったようなところがあって無口、切れ長の眼とあいまって不思議に惹きつけられる魅力がある。

一方葉は押しも弱く、支えが必要な性格という対照を貫いている。第1部は事件で終わり第2部は30代となった2人の再会。ショッキングな事件で真以と会えなくなった葉は上司から会社でパワハラ、セクハラを浴びて、自分のせいだと思い込んでいる。

たまたま見つけ、再会した真以は、自分の道を見つけて、相変わらず何を考えているのか分からない。それは最後までそう。ただミステリアスな部分も魅力のひとつ、何もかも説明されている葉と、これまた対照だなーと思いつつ読み進めた。

女子の友情、よく描かれる、その時しかない友情。はかなくも、強い想い。少女時代の体験と現在。角田光代の直木賞作品「対岸の彼女」の印象がプレイバックする。先日読んだ朝吹真理子「きことわ」もそういえばそうだった。

鮮烈な体験、強烈な事件だけに、30余年の人生のターニングポイント、少し夢のような、になるのも無理はない。その理由付けはできている。レモンなど柑橘類、さらに真以の母親のステージの色、海、そして引き波の色は全編に薄いイメージとして効いている。

千早茜は「魚神」「あやかし草子 みやこのおはなし」「あとかた」「透明な夜の香り」「赤い月の香り」と読んだ。最も最近の「赤い月」は何か物語を超えたものが匂い、感心した。

そもそも女子の心情を描くのが上手い、側面があるのだろうか。きれいなばかりではない部分、位相が違う怖さ、不思議さの織り交ぜ方も手練れという感じがする。

真以のキャラには惹かれるものがある。構成もおもしろい。ただ今回もひとつ・・設定が準備され過ぎているような気がしたかな。

カバーの写真は、内容を反映してなくてどうももひとつ。引き波の意味が違うでしょ、と思う。少女2人を描いた単行本のほうが良かった。

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