曇りがち雨がちの天気。あじさいの最盛期やね。通勤途中フェンスにとまってたサギちゃん。
◼️ 宮沢清六「兄のトランク」
映画と実際のエピソードがシンクロする。兄・宮沢賢治への追慕が見える文章集。
今年は、梯久美子「サガレン」で最愛の妹・トシを亡くした賢治の樺太への傷心旅行の足跡を追い、映画「銀河鉄道の父」を2回観て、この本を読了。去年は賢治がテーマの朗読、合唱のステージにも行ったし、毎年なんらかの関連本や童話や詩を読んでいて少しずつ宮沢賢治に詳しくなってる?という心地よい感覚がある。
賢治と9歳違いの弟・清六氏。鉱石に夢中になったり、星の話をしてくれたりした兄・賢治。盛岡中学校時には盛岡農林学校に進学していた賢治と暮らし、岩手山にも一緒に登った。活き活きとした会話、心を許しあった家族ならではのリアルな姿がその飾り気のない文章から伝わってくる。
一方、春と修羅、イギリス海岸に関する独白では、賢治の著作の内容をふんだんに取り入れ、作品の解題と同時に独自のポエティックな世界を確立している。清六氏も兄に負けず劣らずハイカラな趣味人であり、優れた文筆家である。
「雪狼(ゆきおいの)と風の又三郎の眷属が、今夜も硝子の笛を吹き、電信柱をオルゴールにして、さかんに冬の輪舞曲をやっている。こんな晩にはわずかばかりの思い出を、ぽつりぽつりと書くのだよと、硝子のマントを鳴らしながら、又三郎がわたくしにすすめるのだ」
という書き出しの、表題の章「兄のトランク」。
法華経に執心が過ぎて家出同然に東京へ行き、トシが危篤になったとき、童話などの原稿をいっぱい入れて故郷へ持ち帰ってきた賢治の大きなトランク。その時も、のちに身体を悪くして故郷に帰った時も、トランクを持った賢治と清六は「やあ」「やあ」と駅で挨拶しあった。
そして賢治の死後、そのトランクのポケットのような袋から「雨ニモマケズ」などがしたためられていた手帳が見つかったのだった。
トランクがさりげなく強調されていた今回の映画では、この手記集に基づいているシーンも多いことに、読んだいま、改めて気づかされる。まさか最期のシーンのセリフが実話とは思わなかった。
生前は、文壇では一定の評価があったものの、自費出版の本はさっぱり売れなかった賢治。しかしその死後、草野心平、高村光太郎、横光利一らの尽力で早々に全集が編まれ、あまりに多くの人々を惹きつけることになった。
「宮沢賢治の物語は、本物だからよ」
映画でとりわけ感心した父のセリフ。言い切るところに何とも言えない情と理解が伺える。
ほか、高村光太郎が清六を訪ねて来てすぐ大空襲があり命からがら防空壕へ逃げ命は助かったものの蔵の賢治の遺稿が焼けた話など生々しい。こんがりといい具合に焼けた、みたいな記述でちょっと笑ってしまう。
余談だが、ノーベル賞を取ったオルハン・パムクの受賞記念公演本のタイトルが「父のトランク」自分と文学のつながり、父との想い出を描いていた感動的な話だった。トランクと文豪の間には特別なものがあるのか。似合う気がする。
胡桃の化石がザクザク出てくるというイギリス海岸には憧れるな。やっぱり宮沢賢治はいい。周りも温かいし。また何らか読もう。
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