◼️高山羽根子「首里の馬」
久々に芥川賞らしいなと思った。沖縄、孤独な人々、クイズ、宮古馬。
20歳代半ばの未名子は、父親が遺した家で独り暮らしながら、年配の学者・順(より)さんの資料館で長年インデックスをつける作業を無償で行っている。仕事は、誰もいない事務所のパソコンを使った通信で、日本語を母語としない、特殊で、孤独な人々へ1対1でクイズを出すこと。地元の人との付き合いは、ない。ある台風の夜、未名子の家の庭に、宮古馬が迷い込んで来るー。
大きな物語としては、馬が迷い込んでから、月日の流れもあり、未名子を取り巻く環境が決定的に変わっていく、ということだ。ストーリーや意味合いは直接的な線で表されることはなく、なんとなく浮かび上がり、未名子の変化が表れる。
なんというか、純文学にはあまり踏み込むつもりはない。頭では、クイズの解答者の環境を非常に特徴的、SF的に設定し、登場人物それぞれの孤独をおもしろく表しているなと考える。また、馬は派手な動きはせずおとなしく人間に従うが、そういった生命の営みの象徴でもある、ということ。伝統的な古馬は神性をも帯びている気がする。
移り変わること、は避けられない。琉球競馬も興隆し、そしてなくなり、馬の性質も変化を辿ってきたことが語られる。ソフトなモメンタムの向きが示されている気がする。記録、の大切さへのこだわりが刺さる。
ヘミングウェイ「日はまた昇る」では牛追い祭りが生命の象徴として無骨な強さ、躍動感を放っていた。馬はまた特別だな、と思うことがある。人間になれて可愛くもあり、荒々しくもあり、艶やかな肌、たてがみ、雄々しく引き締まった姿。親しみ、あたたかさ、前進、心、そしてエネルギー、そこにいるだけで存在感があり、いろんな想像が出来る。神秘とむごい歴史を持つ、南の島の、馬。
沖縄の環境、歴史、雰囲気は好感を催させる。また突飛な設定の噛み合わせは興味深い。細かいユーモアも散りばめられている。
ただ最近の小説が大きなテーマとしている「生きづらさ」、そこへ導くための主人公の設定に個人的には無理さかげん、というのがやや感じられたかな、と感じたかな。
機会があれば、他の著作も読んでみたい。
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