2023年6月6日火曜日

6月書評の4

◼️Authur  Conan  Doyle

"The Adventure of the Three Garridebs"

(三人ガリデブ)


5短編集「シャーロック・ホームズの事件簿」よりホームズ原文読み34作め。


短くしようかと思いましたが楽しんで書いてしまい、脱線も数々、おそらく最長となってしまいました。こうなると誤字等多いでしょうから、ぜひすみからすみまでお読みになり、容赦ないご指摘をお願いします、なんて😆


穏やかならぬ話だけれど、でもクスクスとなる要素が多く、タイトルも好きな、お気に入りの話。



IT MAY have been a comedy, or it may have been a tragedy. 

これは喜劇だったのかもしれない、もしくは悲劇だったのかもしれない。


こんな文で始まる「三人ガリデブ」。

ネタは何度も出てきたパターンで、またか、と思う人は思うのかも。でも私はこの、トンデモナイよた話や、コロッとだまされるマニアックな登場人物、ストーリーの成り行きなどなどを愛してやみません😆ドイル晩年の物語にして地味なイメージ、でも好きだなあ三人ガリデブ。


I remember the date very well, for it was in the same month that Holmes refused a knighthood for services which may perhaps some day be described.


事件発生の日はよく覚えている。というのは同じ月にホームズは、いずれ著すかもしれない事件での活躍に報いる、ナイト爵位の授与を断ったからだ。


ナイト爵位、調べましたよー。国への功績などにより授けられる爵位で一代限りSirの称号を許す。勲功爵、だそうです。断るところがまたホームズらしい気もしますね。


"if you can lay your hand upon a Garrideb, there's money in it."

「もしガリデブという名前の者を見つけたら、金になるよ」


実はこの話、最初のほう、たぶん意図的にごちゃっとさせてます。ワトスンは電話帳でガリデブ姓を探し、大喜び。N・ガリデブ、しかしホームズ、その人物からは手紙をもらってる、もう知ってる人だ、と言います。そしてハドスンさんが運んできた名刺はジョン・ガリデブ、弁護士でアメリカの住所がありました。とありました。これもホームズは、その彼もすでに登場人物のうちなんだよ、と煙に巻きます。


さて、ともかく1人めのガリデブ登場です。背は低いものの力はありそう、顔を剃り上げ、ぽっちゃりした童顔、しかし目はarresting、注意を引く、目立つものでした。明るく機敏、内面が現れやすい目をしていました。笑顔いっぱい。アメリカなまりですが変な言葉遣いではありませんでした。


どことなく絵に似てますな、ホームズさん、同名のネイサン・ガリデブから手紙をもらったかと思いますが、と。ここでもまだ分かりませんね。まあこれからです。


一方ホームズはいつものごとく訪問者に、しばらくイギリスにいらしたようですな、と推理の結果をもって話しかけます。


通常は、なな、なんで分かるんですかー?となったりしますが、ガリデブは気に障ったようで、愛想の良さは消えました。ホームズはなだめるように話しますが・・


"Patience! Patience, Mr. Garrideb!"

 "Dr. Watson would tell you that these little digressions of mine sometimes prove in the end to have some bearing on the matter. But why did Mr. Nathan Garrideb not come with you?"


「まあまあ、落ち着いてください、ガリデブさん!ワトスンくんに聞いていただければ分かりますが、こうした脱線が結果的に意味を持ってたと分かる場合もあるんですよ。時にどうしてネイサン・ガリデブ氏と一緒に来られなかったのですか?」


これは火に油を注いだようです。あ?という感じで・・


"Why did he ever drag you into it at all?"

「そもそもなんでやつがあなたを引っ張りこまなきゃならんのだ?」


これは紳士2人の取引で、なのに片方が探偵のところに行くとは!とえらくご立腹です。すでに朝ネイサン氏にあって馬鹿な真似をしたと伝え、その後ここに来た、とのこと。


"I feel bad about it, all the same."

「それにしても不愉快だ」


ホームズは、まあネイサン氏も一生懸命になってしまったんでしょ、彼はぼくに情報を集める手段があることを知ってたんですよ、だから声をかけても不思議じゃないでしょう、と説得、だんだんジョン氏の顔からは怒りが消えていきました。警察の介入は望まないが、人探しに手を貸してくれるならまあ差し支えはないでしょう、と引っ込みます。後でストーリーが分かると、このへんのやりとりにも思惑、駆け引きがあったのかと考えてしまい、ちょっと苦笑したりします。


せっかく来たんですから、あなた自身からはっきりした事情を聞くのがいちばんでしょう、とのホームズの提案に、ジョン氏もまあ、秘密にしておく理由はないので、としぶしぶ語り始めます。


Alexander Hamilton Garrideb 、という名前の、カンザス州では知らない者はいない金持ちがいた、というところから話は始まります。


"He made his money in real estate, and afterwards in the wheat pit at Chicago, but he spent it in buying up as much land as would make one of your counties, lying along the Arkansas River, west of Fort Dodge."


「彼は最初、不動産で、次いでシカゴの小麦取引で財を成し、こちらの国の州1つほどもある土地を購入しました。アーカンザス川沿い、フォート・ドッジの西側です」


脱線しますが、私の持っている2つの訳本ではどちらもここで使われている"county"を「州」と訳しています。イギリスには州はなく、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドという大きなcoutryがあり、その下にまた行政区画としてcountyがあるイメージかなと。詳しい方お教えください。


閑話休題、で、アレキサンダー・ハミルトンのガリデブが勝った土地には放牧地、森林、鉱山、耕地が含まれてて、その上がりでこのガリデブは大金持ちになったのでした。この、アレックスとしましょうか。アレックスさんは自分の名前に誇りを持ってて、ジョン氏と会った時めっちゃ喜んだそうです。そしてジョン氏にこう言いました。


もう1人ガリデブを見つけてくれないか?と。そして多忙を理由にジョン氏がやんわりと断ると、きっと君はそうすることになる、と怪しい言葉を残して、それから1年以内に亡くなりました。世にも奇妙な遺言が残されました。


"His property was divided into three parts, and I was to have one on condition that I found two Garridebs who would share the remainder. It's five million dollars for each if it is a cent, but we can't lay a finger on it until we all three stand in a row."


「彼の財産は3つに分割され、うち1つは私が貰えます。ただし条件があり、残り2人のガリデブを見つけること、でした。

1人あたま500万ドルはあります。でも、3人が揃わないと指1本触れられないんです」


アレックス氏には親類縁者がおらず、見つけるガリデブは成人男性が3名、という但し書きもあった。それこそ草の根分けても、と探したものの、アメリカにはいなかった。そして故国で電話帳を探してみると、なんとあったのですぐに連絡した。


つまりそれがネイサン氏ですね。まだ1人足りないから残りのガリデブ探しをホームズが手助けしてくれるなら喜んで報酬を支払う、と。


ホームズの新聞のagony column、私事広告欄を使っては、と提案しますが、ジョン・ガリデブはすでに広告は出して、返事はなかったと答えます。さらにホームズは、ジョン氏が弁護士をしていたカンザス州の州都、トピーカの市長ライサンダー・スター氏とかつて文通していた、と話し、ジョン氏はおお!スターさん、彼は今でもよく知られてますよ、と応じます。


んじゃ進捗があればお知らせします、とそそくさと帰っていったジョン・ガリデブ。さて、ここまで読んでどうでしょう?


ふつうに聞いて、ヘンテコな話ですよねえ。一攫千金を前面に出してて、いかにもうさんくさい。


"There have been no advertisements in the agony columns."


「私事広告欄には何も出てなかった。」


ホームズが新聞のアゴニー・コラムによく目を通していることは、シリーズ中の数カ所で言及があります。だからですね。


"I never knew a Dr. Lysander Starr, of Topeka. Touch him where you would he was false. "

「ぼくはトピーカのライサンダー・スター博士なんて知らないんだよ。どこを突ついてもウソだらけだね」


ようはかまをかけてみたんですね。ジョン氏はおそらく慌てて話を合わせたつもりで引っかかってしまったのでした。


また脱線ですが、「技師の親指」という話で、危険な目にあった技師に怪しい仕事を依頼したのはライサンダー・スターク大佐という男でした。ホームズは、ここからパッと思いついたのかも知れませんね。ちなみに新聞の広告欄もチラッと出てきます。


このおかしなガリデブ探しの真の動機は何なのか。ホームズはジョン氏との会見で、これはいま追及しないほうがいいと判断して騙されたフリをしたのでした。


"We must now find out if our other correspondent is a fraud also. Just ring him up, Watson."


「手紙を送って来たやつも悪党かどうか確かめなきゃならないな。電話をかけてくれ、ワトスン」


なかなか先に進みませんが笑、ここもシャーロッキアン的ポイントです。多くの事件でホームズは電報を駆使して来ました。しかしここでは電話を使っています。この事件は1902年の6月の終わりごろと明記されてます。ホームズが引退してサセックス州に移ったのは翌年の秋ごろかと言われてますので、かなり後期の事件。電話も普及してたんですね。


受話器からはか細い震えるような声が聞こえて来ました。ホームズは、ジョン氏がいないことを確かめ、夕方の訪問のアポを取り付けます。


着いた家はオフィスにも居住用にも使われている雑多な、どれかというと気ままな単身者の住まいでした。ネイサン・ガリデブは痩せて髪の毛は薄く、年齢は60代くらい、運動には縁遠い様子、大きな丸眼鏡、風変わりではあっても親しみやすく好奇心の旺盛さを感じさせる人物でした。


部屋はまるで博物館。地質学上、解剖学上の標本があらゆる戸棚にぎっしり、入り口の両側には蝶と蛾の標本、古代のコイン、化石の骨、ネアンデルタール人やクロマニョン人の石膏頭蓋骨・・興味は広範囲にわたっていました。


"My doctor lectures me about never going out, but why should I go out when I have so much to hold me here? "


「医者は私が外出しないことにお説教しますが、私を引き止めるものがこんなにあるのになんで外出しなきゃならないんでしょう?」


こりゃ相当のもの、ほんまもんです。別世界へ飛んでっちゃってますね。しかし、実はこれは大事な点なのです。


ジョン・ガリデブは、私がアレックス氏の土地を手にしたら、すぐに売ってしてくれると保証した、


"There are a dozen specimens in the market at the present moment which fill gaps in my collection, and which I am unable to purchase for want of a few hundred pounds. Just think what I could do with five million dollars. "


「いま現在も、私のコレクションに欠けているたくさんの標本が市場に出てるんです。私は数百ポンドのお金がないために買うことができないんです。500万ドルあれば何ができるか考えてみてくださいよ!」


・・借金とかじゃなくて、差し迫った動機があり、降ってわいた儲け話に目がくらんでいるようです。


最近までジョン氏を知らなかった?

こないだの火曜日にやってくるまでは、


とのやりとり。ホームズに今日会うことを話したらすぐ来て、とても怒っていた。その後電話でのアポも話した、とのこと。彼から金銭の要求はない。


さらに、このコレクション自体に値打ちはなく、盗難の心配はない、ここに住んで5年、ということを確かめます。そこへ、ジョン氏が飛び込んできました。


"Here you are"「見つけたぞ!」


ミスター・ネイサン・ガリデブ、おめでとうございます、大金持ちですよ!


ジョン氏の手にはチラシがありました。


HOWARD GARRIDEB

CONSTRUCTOR OF AGRICULTURAL MACHINERY


ハワード・ガリデブ 農機具製作


Binders, reapers, steam and hand plows, drills, harrows, farmers' carts, buckboards, and all other appliances.

Estimates for Artesian Wells

Apply Grosvenor Buildings, Aston


『刈取ったものを束にする機械、刈り取り機、蒸気駆動および手動の鋤、ドリル、まぐわ、農作業用荷車、荷馬車、その他全ての製品


井戸の深掘り見積もります。

アストンのグローブナービルまでお申し込みを』


すばらしい!3人が揃った!とネイサン氏も大喜び。バーミンガムの調査を始めたところ、代理人がこれを送って来たとジョン氏。


ところが、


"I have written to this man and told him that you will see him in his office to-morrow afternoon at four o'clock."


「私はこのガリデブ氏に、あすの午後4時、あなたが事務所に会いにいくと手紙を出しました」


"You want me to see him?"

「私が?私に行ってほしいのですか?」


とネイサン。そりゃまあめったに外出しない人です。


だって、私はフラフラしてるアメリカ人で信用されないでしょ、あなたは身元もしっかりしてるし、一緒には行きたいけど私は忙しいんです、宣誓供述書をもらって来てください、とジョン。なおもしぶるネイサン氏を説得しているところへホームズが割り込みます。


"I think what this gentleman says is very true."


「この紳士のおっしゃる通りですよ」


話は決まりました。もう行かなくては、また明日来ますよ、とアメリカ人は陽気に帰ります。


ホームズは、ネイサンに、あなたの家は宝庫です。きょうは時間がないのですが、明日あなたが留守の時に来て見てっていいですか?と依頼します。コレクションを褒められたネイサンは大きなメガネの奥の瞳を輝かせ、管理人さんに言っておきますよ、どうぞ、と応じます。ホームズはこの家を扱う不動産屋の名前を聞いて帰ります。


さて、ワトスンとホームズだけになって捜査会議の会話。チラシではplowとなっていたのはアメリカ英語で、イギリスではploughだと看破してホームズに褒められるワトスン。さらにbuckboardsartesian wells もアメリカなら一般的だ、とホームズ。ジョン・ガリデブが自ら作ったのではと思われました。


ジョンは明らかに、ネイサンをバーミンガムに行かせたかった、ホームズは行っても無駄骨だとわかりつつ、その方がいいと判断し、賛成したのでした。


"To-morrow, Watson – well, to-morrow will speak for itself."

「明日になればすべてがはっきりするさ」


翌日、朝早くから出かけていたホームズはランチタイムに戻って来ましたー深刻な顔をして。


"We are up against a very hard case. I have identified Mr. John Garrideb, Counsellor at Law. He is none other than 'Killer' Evans, of sinister and murderous reputation."


「ぼくたちは手強いやつを相手にしてるんだ。ぼくは弁護士ジョン・ガリデブの正体を突き止めた。『殺し屋エヴァンズ』、残虐な殺人で悪名高いやつさ」


ホームズはスコットランド・ヤードのレストレイド警部に会いに行き、犯罪者の写真台帳を見て、ジョン・ガリデブのchubby faceぽっちゃり顔がこちらに微笑んでいるのを見てきたのです。


ここから少しややこしくなります。44歳のエヴァンズはシカゴ生まれで、アメリカで3人を射殺、1893年にロンドンに現れ、'95年にナイトクラブでトランプが原因で男を射ち殺したとのこと。この時殺されたのはにせ金造りで有名なシカゴのロジャー・プレスコットでした。


エヴァンズは服役、前年に出所したが警察の監視下にあり、分かる限りでは真っ当に暮らしているとのことでした。


"Very dangerous man, usually carries arms and is prepared to use them."


「めっちゃ危険なヤツさ。武器を常に身につけていて、使うのをためらわないんだ」


なんと!ホームズシリーズに危険な犯罪者は他にも出て来ましたが、エヴァンズもやっかいそうな相手です。


ホームズは不動産屋にも行ってきて、ネイサン・ガリデブの前に住んでいたウォードロンという男の人相が、エヴァンズが射殺したプレスコットによく似ていたことを掴んでいました。


ネイサンの前には、有名な紙幣貨幣の贋造犯が住んでいた。エヴァンズはずっと外出しないネイサンを外へ出したかった。そのためにガリデブ探しなんて話をでっち上げたー。さて何が目的なのか?なんか読めてきますね。


ホームズとワトスンはピストルで武装し、ネイサン宅へと出かけます。4時には着き、戸棚の後ろに身を潜めました。


次の時計の鐘が鳴るころ、エヴァンズがそっと入ってきました。部屋を知り尽くしているようで、テーブル椅子を寄せるとカーペットを剥がし、かなてこで床板の一部をずらし、地下へ四角く開いた穴に降りていきました。


ホームズとワトスンが穴へ忍び寄った時、床板がきしんだ音を聞きつけたのかエヴァンズが不安そうな顔を穴の上にのぞかせました。その頭にはホームズとワトスンのピストルが突きつけられていました。


"Well, well!"

"I guess you have been one too many for me, Mr. Holmes. Saw through my game, I suppose, and played me for a sucker from the first. Well, sir, I hand it to you; you have me beat and– –"


「やれやれ!あんたが上手だったようだな。ホームズさんよ。最初から俺の計略をお見通しで、おれは泳がされ、間抜けな芝居をつづけてたってわけだ。やられたよ。あんたはおれを負かしてーー」


エヴァンズは素速く胸からピストルを取り出して2発撃ちました。ワトスンは太ももに焼け付くような痛みを感じて倒れ、ホームズは銃床でエヴァンズの頭を殴りつける、地下から上がってきていたエヴァンズは頭から血を流して床にのびる。一瞬でした。


"You're not hurt, Watson? For God's sake, say that you are not hurt!"


「ケガをしてないよな、ワトスン?お願いだからそうだと言ってくれ!」


ワトスンは、いつも冷淡で皮肉屋のホームズがこれほどまでに熱い情を見せたことに感激したようです。まさに生命の危機の中で訪れた瞬間でした。


For the one and only time I caught a glimpse of a great heart as well as of a great brain. All my years of humble but single-minded service culminated in that moment of revelation.


「たった一度だけ、その頭脳と同じくらい、偉大な心情が現れた瞬間を私はとらえていた。ささやかだが一心にホームズに尽くしてきたこと、それが一瞬の発露をもたらしたのだ」


"It's nothing, Holmes. It's a mere scratch."


「だいじょうぶだ、ホームズ。かすり傷さ」


"By the Lord, it is as well for you. If you had killed Watson, you would not have got out of this room alive. Now, sir, what have you to say for yourself?"


「おい、お前にとっても良かったな。もしワトスンを殺してたら、お前も生きてここを出られなかったところだぞ。さあ、言うことがあるか?」


ホームズの腕に寄りかかったまま、ワトスンは一緒に地下室を見下ろしました。錆びた大きな機械、紙束などが見えました。偽札製造の一式だ、とホームズ。椅子に倒れ込んだエヴァンズがその後を引き取ります。武器はすでにホームズが取り上げていました。


ロンドンにはなかった出来栄えの偽札さ。プレスコットの印刷機と、2000枚の100ポンド紙幣。持ってっていいぜ、


"Call it a deal and let me beat it."

「その代わりおれを逃す。取引しようぜ?」


ホームズは笑って、もちろん取り合いません。エヴァンズの述懐は続きます。意訳・省略してます。


プレスコットを撃って懲役5年もくらった、向こうが撃ってきたのにだ。もしおれがやつを殺してなかったらこの精巧な偽ポンドがロンドン中にばら撒かれてたんだから、スープ皿くらいの勲章メダルをもらっても良かったってのに。やつがどこで偽札を作ってるかおれだけが知っていた。おかしな昆虫野郎が居座って部屋を出ようともしないから出来る限りのことをしなきゃならなかった。始末すれば簡単だったが、おれは優しいもんだから、相手も銃を持ってなきゃ撃たないのさ。俺は別に老いぼれのネイサンを傷つけちゃいない。何の罪があるんだ?ホームズさんよ。


"Only attempted murder, so far as I can see,"

"Please give the Yard a call, Watson."


「まあ分かる限り、殺人未遂だけだな。

ヤードに電話をかけてくれ、ワトスン」


エピローグ。警察はエヴァンズを逮捕したうえ、見つけることができなかったプレスコットの偽札製造一式を発見した。それこそエヴァンズにスープ皿大のメダルを、喜んで進呈するくらいに値した。


哀れなネイサン・ガリデブはこのショックから立ち直れなかったようだった。エヴァンズは出てきたばかりの刑務所へ戻った。


さて、どうでしたでしょうか。私は本筋に関係なく、ハンプティ・ダンプティみたいなガリデブが3人オタオタしている、という変なイメージがあって、タイトルを見ただけで微笑んでしまいます。


誰かをいるべき場所から遠ざけるために儲け話をでっち上げる、という手法は、ホームズシリーズで繰り返し使われています。「赤毛組合」がそうですね。「株式仲買店員」も同じ範疇です。また家を買う際、家具だけでなくあらゆる調度品、持ち物まで買い上げる、という変な契約をさせようとした「三破風館」、これも家のどこかにあるスキャンダル原稿を入手するためでした。


この話はでっちあげ感がハンパない。んなアホな、と聞いただけで思います。ガリデブ、という名前も響きがコミカルです。日本語にしたら何さんなんでしょうね。またちょっとおかしな研究者のキャラも、どこかバック・トゥ・ザ・フューチャーのドクみたいです。


問答無用で発砲する危険な相手、こういうのもホームズものには珍しい。実際ワトスンは至近距離から撃たれてしまいます。待ち伏せの時に警察に知らせるべきだったかともチラッと思う話です。


でっち上げ感、登場人物のキャラクターと仕掛け、二重になっている犯罪と露見の結果、などなどの噛み合いがよく、私はさすがドイルだな、なんて思ってしまうのでした。




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