2023年6月13日火曜日

6月書評の7

いつもあいさつするおじいちゃんの家は種々の紫陽花が色あざやかでホンマにキレイ。雨はそんなに降ってないけど曇りが多くてムシムシしてきた〜。

◼️ 吉田篤弘「流星シネマ」

この既視感はなんだっただろう、と考えるような作品。伝説の鯨が、町に現れる。ほのぼのした好ましい長編です。

300ページをすらっと1日で読めてしまった。読み出した朝はいつも乗ってるJRが事故で止まって、JRの向こう側にある並行した路線の私鉄駅へバス5分余計に乗って、さらに特急急行が激混みでええいと各停で座って行き、いつもよりアディショナルタイムがトータル20分ほどあったのは確かだけども、それにしても早い。

さて、クラフト・エヴィング商會の本にはお世話になったことがあるけど著作はお初の吉田篤弘。こちらやTwitterでよく見かけたので気になった。連作短編のような長編です。


町には、いまは暗渠になっている川に200年前、大きな鯨が出現したという伝説があり、実際25年前にも一頭迷い込んでいた。

その町のタウン紙「流星新聞」を製作している30歳の太郎が主人公。長年編集長をしていたアルフレッドがアメリカへ帰国することになり、太郎は彼の愛犬モカを預かり、1人残される。いつも編集室のピアノを弾きに来る外国人・パジ、実家の洋食屋を継ぐべく帰ってきた1学年上のミユキさん、同級生のステーキ屋2代め、「しんどいわ」が口グセのゴーくんと流し目が魅惑的な店員ハルミさん、カレーとロシアンコーヒーの店「バイカル」の店主椋本さん、崖上の古い洋館に暮らす詩人のカナさん・・町の人たちとの交流が太郎のモノローグで記される。

中学生の時、いなくなってしまったアキヤマくんの思い出が胸をよぎる。ヴァイオリンを持ってステーキ屋によく来る怪しい男、ミユキさんにつきまとっているらしいストーカー、アルフレッドが昔撮影した8ミリフィルム・・不思議な要素がラストに交差、昇華する。

住んでいる町のなじみの顔、ちょっとヘンな、でも憎めないキャラクター、トゲのように残っている記憶、失われた街並み、そして伝説。どこか既視感があるな、誰の作品で読んだんだっけ・・というのが先に来た。つまりこれは町ドラマの王道、なのだろうと思う。

微笑ましいような人間関係の中、少しずつ物語は進む。そして終盤、大物が出現してから先はなかなか魅力的。小さな謎、心に引っかかっていたことを上手に持って行ってるなと。ムリなくスイスイ読めるコミカルな人情ものだ。

ああ読んでて気持ちいいな、という物語に久しぶりに会った気がする。今年もそれなりに興味深い読書になっているけども、一種オアシスのような感覚。たまには、いいな。

続編もあるようだし、吉田篤弘作品、もう少し読んでみようかという気になる。ほのぼの系の話は特に最近多い気がしているけど、やっぱり夢がなくっちゃね。

0 件のコメント:

コメントを投稿