2023年6月22日木曜日

6月書評の11

◼️ 中村真一郎「源氏物語の世界」

源氏物語の位置づけを探る本。書かれた時代を思う。

作家である故・中村真一郎氏が1968年に発表した本のリニューアル発行である。来年の大河ドラマを意識したようだ。

源氏物語の物語の流れやそれぞれ部分、登場する光源氏とつながりのある女たち、などの分析から入って、王朝文学の古典を一通りさらって時代と文学的な流れを述べ、最後に改めて源氏物語を位置付けて終わる。

まずは、学者さんが書いた本かと思っていたので、言い切りが多く、アグレッシブな文調に少々意外な感を持った。途中で50年以上前に書かれた本ということ、作家寄りの方ということを知り、なるほどと少し得心した。どこか川端康成の文芸評論に似ているような気もする。

紫式部、清少納言、「蜻蛉日記」の藤原道綱の母、「更級日記」の菅原孝標女は遠く近くの姻戚関係で、この時期の王朝文学は狭い範囲とその時代的デカダンスの雰囲気の中で創作された一群、という論考には興味を覚える。

さらには多くの妻を持つことを始め、源氏物語や他の王朝作品の、現代との常識の違い、理不尽、性的倒錯性などを取り上げて、文芸的な価値を考察している。

私は与謝野晶子の訳で1回通読、折に触れ関連本を読んだり、舞台を訪れた。見識については修行中、といったところで改めて総論的に捉え直した論を読むのもそれなりにおもしろい。

しかし性質というか、困ったもので、こうだーと言い切られてしまったり、少々大仰だったりすると、読んでて「そ、そうなんだ・・」とちょっと腰引き気味に鼻白んでしまう自分がいる。まあ文学評論はそんなもの、ってとこかな。

ただ、王朝文学のおもしろみを縦横無尽に、語り尽くしている、その熱さには微笑ましいものを覚え、ちょっとシンパシーを感じてしまうのでした。

先日読んだリンボウ先生の「夕顔の恋」も楽しかったし、これから、源氏物語効果や背景、その魅力を解析、紹介する本、番組も増えるだろう。100分de名著でもやらないかななんて思っているきょうこの頃です。

映画チラシで作ったブックカバーに、京都御所横、紫式部が執筆したと言われる住居跡に建つ廬山寺で勝った源氏物語栞セット「蛍」のしおりで読みました。

著者が感銘を受けたという、光源氏の小説観(つまりは紫式部の小説観)が述べられているのがまた蛍の帖ということで、暗合にびっくり。部屋に解き放った蛍の光で浮かび上がる玉鬘の美しさってどんなんでしょうね。

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