2023年3月26日日曜日

3月書評の12

日展神戸展では、日本画、洋画、彫刻、工芸、書と膨大な数の入選作品の展示に圧倒され、芸術の発想と表現の数に唖然としました。巨匠の展覧会とは違う現代的なモチーフにみずみずしい感性を堪能できました。

日本画から洋画ゾーンに入ると、女性モデルの絵が増えてましたね。

絵画編でら以下の絵たちがお気に入り。長い髪の女性の絵は文部科学大臣賞。楽しかった。



◼️ 今村翔吾「童の神」

圧倒的エネルギー。京人と、鬼と呼ばれた民との闘い。大江山・酒呑童子伝説の新解釈。

粛慎、みしはせという言葉は馬場あき子さんの名著「鬼の研究」で知っていた。蝦夷、夷、童、土蜘蛛、さまざまな蔑称で呼ばれた民たち。朝廷に反抗する彼らは人外の者、鬼と呼ばれ恐れられた。

流れ着いた異人を母に持ち、緑色の瞳を持つ桜暁丸(おうぎまる)は朝廷に追われる身となり、やがて各地で抵抗する民たちと手を組んで闘う。朝廷軍の戦闘部隊では源頼光を主とした頼光四天王、渡辺綱、坂田金時、卜部季武、碓井貞光といった猛将たちがいて、大江山討伐に参加した藤原保昌はまた特殊な立ち位置にいる。

冒頭は安倍晴明や平将門の娘、皐月が登場する。また、母親が山姥という説のある坂田金時、金太郎の、鬼の民に対する想いも描かれ、史実と童話のエッセンスが取り入れられている。

後に大江山に大同団結し、頼光たちと闘う流れとなる畿内の民たち。リーダー格は金熊童子、女性という説のある茨木童子、そして桜暁丸は酒呑童子と呼ばれる。

「たとて首だけになっても喰らいついてやる。鬼とはそういうものだろう?」

激しい戦闘の中の桜暁丸の言葉は、大江山伝説で頼光が酒呑童子の首を切り落とした時、首が空を飛び、頼光の兜に噛みつかんとしたというくだりから派生している。

高橋克彦「火怨」では北の蝦夷たちを集めて坂上田村麻呂率いる朝廷軍と闘った英雄アテルイのドラマを感慨深く読んだ。京人が差別し従わせようとした者たちを主人公とする物語は、歴史のおもしろさと同時に、深く考えさせるものを問いかけてくる。その感覚が好ましい。

圧倒的エネルギーで、鬼退治の英雄とされる者たちと、抵抗し必死に生きる者たちの壮大な闘いと人間模様を描いたこの作品は、様々な要素を上手に取り込み、鬼好きの私を悦ばせてくれた。著者によればこの闘いの前後の時期をそれぞれ3部作としてまた小説にするという。

楽しみが増えた。

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