2023年3月11日土曜日

3月書評の5

先週天気の良かった土日、Bリーグもないし、ゆっくり本を読みたくて午後はのんびりと、だいたい思い通りに書いたり読んだりできた。

読んだ単行本がやや細めの珍しい形で、ミュシャの
展覧会リーフレットを折ってブックカバー作ったら図柄がうまく表裏ともハマって気分がいい。まあこの本にしか使えないんだけど。

積読解消のため図書館では本借りず。

気温は上がれどまだ風が冷たく朝晩寒い、
中を薄めにして上着はダウン。今週さらに最高気温が上がるというけど、どうなるかな。

◼️ ジャン・コクトー「山師トマ」

虚無の匂いも漂うトマ。コクトーは詩人っぽいのかな。

コクトーといえばイメージは詩人だが、物語も書いているし、絵を描いたり映画監督までしたりというマルチな人だったらしい。よく言えば描写を超えたものを感じる小説かも。ヘミングウェイは初の長編小説「陽はまた昇る」で第一次世界大戦中に青春を過ごした若者たちの虚無感漂う姿を描いてみせたが、ちょっと関係あるかも、なんて思った。

少年ギョム・トマは、入院している将軍の甥だと嘘をつき、軍隊に潜り込む。ラ・ボルム公爵の未亡人クレマンスやその娘アンリエット、ヴァリッシュ夫人の信頼を得る。一行は負傷兵を助けるべく輜重隊として戦線に出るが激しい砲撃を受け、逃げ帰る。アンリエットやクレマンスに愛されるギョム。しかし彼は希望してフランス北部ベルギー国境付近の部隊で職を得る。未亡人が希望し、彼女の気を引きたい新聞社社長の手により、アンリエットも含めた一行は北部戦線への芝居の巡業という名目でギョムの元へやってくるー。

まずもって最初から理解させるようなくだりがないために誰が何をしているのか、どんな意味があるのか把握するのに苦労する。

戦争のそばにいながら、現実感のない人々、そこへ容赦なく注ぐ砲撃、渦巻く思惑と陰謀などどこかコミカルで前衛的な舞台のような感じで話は進む。

詩的な表現が多くて、容姿などの描写がない。まあ、こんなふうだ。

「海上では、沖の方で、探照灯が接吻したり、離れたり、手真似で話したりしていた。時として彼らが、踊子たちのように足を揃えると、その爪先に人々は、ロンドンへの途上にあるツェッペリンの白い腹を見るのであった」


ギョムに目的や、大金や立場を得たい、という願望はないように見える。あえて言えばすぐそこの戦争に参加して、リアルを感じてみたいのかとも思える。決して品が良いというわけでもなく、偽るために偽る、それを旨としているようにも見える。

実際に北部戦線に従軍したコクトーが描いたさまざまな国の部隊や塹壕、病院の姿は生々しく興味深い。そしてまたギョムは好んで危険に飛び込んでいく。

120ページ程度で短く、読書の肥やしとしては良かったかな。どこかこう、時代の心理的なものを浮かび上がらせているようなそうでないような。パリでピカソらと集い、モディリアニの絵のモデルにもなっているコクトー、芸術っぽい肌合いでした。

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