2023年3月4日土曜日

3月書評の2

ひなまつりと、大接近の金星と木星。じっと見てらした年配のご婦人と星トーク。

◼ 寺地はるな「ビオレタ」

春立ちぬいまの季節に、駆け出したくなってくるような読後感。たまには、いいな。

青山美智子、町田そのこ、一穂ミチ・・Twitterで読書垢の方々の読了本を見ていると、やはり本屋大賞ノミネート作品が多い。そして等身大の女性を描いた作品が多いような気がする。名前は知っているけれど、青山美智子「青と赤のエスキース」くらいしか最近読んでいない。ノミネート作品は安藤美緒「ラブカは静かに弓を持つ」を読書友の好意で読んだというとこ。

かつては宮下奈都や森絵都、柚木麻子らの作品をよく読んでいたこともあり、寺地はるなのポプラ社小説新人賞を取ったという初期作品を手にしてみた。寺地はるなは今回の本屋大賞に「川のほとりに立つ者は」でノミネートされている。

婚約者に突然別れを告げられ、雨の中しゃがみ込んで泣いていた妙(たえ)は菫(すみれさん)に声をかけられ、彼女の小さな雑貨屋で働くことになる。菫さんは20歳の息子・蓮太郎がいるシングルマザーで、そっけなく厳しくはあるもの揺るぎない強さを持っていそうな人だった。店では小さな「棺桶」を売っていて、お客さんの意向に合わせてそれに何かを入れ、庭に埋葬するという不思議なサービスをしていた。

やがて妙はおつかい先のボタン屋店主、千歳さんと、つなぎのつもりで付き合い始める。そして彼が菫さんの元夫で蓮太郎の父親だと知るー。

婚約したことで辞めた会社で受けた傷、フラれたショック、心の底に深いコンプレックスとストレスを抱える妙。少しおかしな関係の暮らしの中で鬱積は溜まり、イラつき、意味がよく分からない暴言を吐く。一方でその感じ方は人間味があり、まさに等身大。

確かに、自分の出し方って難しいし、小さなことがずっと棘のように刺さっていたりするし、理由のわからない不満も口に出してみたらうまく言えないことってあるよなあ、と共感できる物語。

意外にこうすればいいのにと周りから思われていても、ガンコに耳を塞いでしまったりする。自分のヒントは他人の対処に現れていたりもする。自分や相手の性質が男女として付き合って初めて分かることもあると思う。

読んでると自分にも投影して、意外に人間のいろんなところを衝いてるな、なんて思う。

世間は厳しいけど、捨てたもんじゃない、コミカルで、濃くないのがいい。成長と明るさが見えるナラティブでした。

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