2023年3月5日日曜日

3月書評の3

あれもう1回。

◼️「The Adventure of the Devil's Foot
(悪魔の足)」

妹は死に、一緒にいた兄2人は正気を失くしていた。さらに同じような状況で新たな死が。辺境の村に悪魔が舞い降りたー。

第4短編集"His Last Bow"「シャーロック・ホームズ最後の挨拶」より「悪魔の足」。原文読み29作めはおどろおどろしく興味を喚起するタイトル。さてどんな話なのか。

Why not tell them of the Cornish horror – strangest case I have handled.
「コーンウォールの恐怖ー僕が手がけた中で最も奇妙な事件を発表してはどうか」

ホームズから電報を受け取ったワトスン、事件記録の公開を望まないことも多いホームズから、執筆を促す知らせが来たことに驚きます。

ここまでで、ホームズとワトスンは別々に暮らしていることが読み取れます。おそらく晩年、ホームズがサセックス州に隠退してからのことでしょう。

その物語の舞台は、イングランド本土の南西の端、コーンウォール。1897年の春、ホームズは医師に完全休養を言い渡されます。度重なるハードワークで神経衰弱の危険があり、ワトスンとともに、ケルト海に突き出したコーンウォール半島の最先端の地域へ療養に出かけます。岬の上の小さな家で、荒れた海と奇妙な地形のもと、ホームズはコンウォール語の研究に没頭しつつありました。

ホームズとワトスンは当地の考古学に造詣の深い教区牧師のラウンドヘイ氏と牧師館の下宿人、モーティマー・トリジェニス氏と知り合いました。でっぷり太ってよく喋る牧師と痩せて猫背、むっつりとしたトリジェニスは好対照。そしてある日、その2人がホームズたちの仮住まいへ飛び込んできます。

とんでもない事件が起こりました!あなたがいてくれたことは神の御心です、という牧師に、ワトスンは休みに来たんだからやめてくれよと思いますが・・

but Holmes took his pipe from his lips and sat up in his chair like an old hound who hears the view-halloa.

しかしホームズはパイプを取り、老練な猟犬が、獲物が見つかったぞ、という声を聞いたかのごとく身を乗り出した。

本能は抑えらませんねー笑

牧師が言うには、トリジェニスは荒地の古い十字架のそばにある家で2人の兄、ブレンダという妹と昨夜一緒に過ごしていました。食堂のテーブルで楽しくトランプに興じ、トリジェニスは10時ちょっと過ぎに彼らを残して下宿先の牧師館へ帰りました。今朝早くの散歩中、医師の馬車が来てトリジェニスの兄妹の家に呼ばれたと告げ、彼らはともに駆けつけました。

兄2人と妹は別れたときそのままにテーブルを囲んで座り、トランプが広げられていました。
しかし妹は椅子にもたれて死んでおり、2人の兄は完全に正気を失っていたのです。3人は一様に恐怖を味わったような表情をしていました。

侵入者の形跡はなく、別の部屋でぐっすりと眠っていた家政婦は何の物音も聞かなかったと話しました。トリジェニスはすぐ牧師館にとって返し、2人でホームズに相談に来たところでした。

トリジェニスは動揺した態度で、皆と夕食をともにし、やがて9時ごろホイストをしようとテーブルを移った。この上なく陽気な雰囲気で、自分は中座して10時15分ごろ帰った。窓は閉まっていた。

""It's devilish, Mr. Holmes, devilish!"

「悪魔の仕業です、ホームズさん、悪魔の!」

兄妹が襲われる理由は思い当たらないか、と問われたトリジェニスは叫びました。ホームズは冷静に取りなし、離れて住んでいるということは過去諍いがあったと取っていいか、と訊きます。

かつて錫鉱山に関わる投機事業を売り払った際、金の分配をめぐっていざこざがありしこりが残った、しかし過去のことでいまは最高に仲が良いとトリジェニスは説明しました。

何か手掛かりになるようなものは、という問いにしばらく考え込んだ後、トリジェニスは、自分は窓に背を向けていたが、向かいに座った兄が自分の肩越しに目を凝らした。振り返ると、人間か動物かも分からないが何かが動いたように見えた。兄もそう言っていたと答えました。

そしてロウソクは何時間も前に燃え尽き、彼らは暗闇の中座っていたはずだと、暴力の形跡はなく、妹は椅子の肘掛けに身を持たせ掛けて死んでおり、医師の話では死後6時間は経過しているとのことだった。兄たちは歌の断片を口ずさみ、わけのわからないことを言っていた。恐ろしい光景で医師は一瞬気を失って椅子に倒れ込んだほどだったと。

ホームズはさっそく現場へ。途中トリジェニスの兄たちを乗せた馬車とすれ違います。歯を剥き出して目をギラギラさせていました。大きな広い家に着いたホームズはなにか考え込むふうで、小道でジョウロをひっくり返してしまい、一行の足と小道をびしょびしょにしてしまいます。

家政婦のポーター夫人は明快でした。朝部屋に入ったとたん恐怖で失神。気がついてすぐ窓を開け、少年に医者を呼びに走らせたとのこと。まだ寝室に安置されていたブレンダ・トリジェニスはとても美しい女性でしたが、顔には恐怖の色が残っていました。

まだ警察は来ていませんでした。暖炉には燃え残りがあり、テーブルには蝋がたれて燃え尽きた4本のロウソクの跡がありました。テーブルにはカードが散らばっていました。現場の部屋で、ホームズは精力的に動きます。それぞれの椅子に座って位置と、庭が見通せるかを確かめました。床、天井、暖炉を調べましたが、はかばかしい手がかりはないようにワトスンには見えました。春なのに暖炉に火を?という質問にトリジェニスは昨夜は寒く湿度も高かったからと説明します。だいたい日本の冬は寒いと湿度が低いものですが、ヨーロッパではそうなのかなと。

散歩しながら、ホームズはワトスンに事実を整理しようと話します。

"when did this occur? Evidently, assuming his narrative to be true, it was immediately after Mr. Mortimer Tregennis had left the room. That is a very important point. "

「それはいつ起きたか?彼(トリジェニス)の話が正しいとしたら、モーティマー・トリジェニスが部屋を出た直後だ。これはとても重要な点だ」

現場はカードをしていたそのままでしたね。ここでホームズは、ジョウロをひっくり返したのはトリジェニスの足跡を得るためわざとだったと明かします。彼の足跡は急ぎ足で教会区へ、つまり自分の下宿へ向かっていたと。

また、トリジェニスの何かが動く姿を兄と見たという証言は、雨模様で真っ暗な外を、間に花壇のある距離で室内から視認するという状況から疑わしいとします。材料がなく、散歩は古代ケルトの研究、鏃やじりの捜索に費やされました。帰ってきてみるとー

アフリカのライオンハンターとしてロンドンでも有名な探検家、レオン・スタンデール博士が訪ねて来ていました。大きな体躯、激しい眼と鷹のような鼻のあるいかつい顔、白髪混じりの豪毛の髪という迫力のある人物。実は見かけてはいましたが、孤独を愛する人柄とのことで、ホームズたちも声はかけなかったのでした。

スタンデールはトリジェニス家とは親しくしていて、アフリカへ向けてプリマスまで行っていたが、急報を受けて急いで引き返してきたと言いました。荷物の一部は船に積んだままでした。ホームズは船に乗らずに引き返したことに驚きながらも、プリマスの新聞には載ってなかったはず、と突っ込んだ質問をします。確かに、3時間ほど前、警察が来てないうちに捜査をしてきたばかりの事でした。

"You are very inquisitive, Mr. Holmes."

「根掘り葉掘り聞くんだね、ホームズさん」

"It is my business."

「それが仕事ですから」

嫌な顔を見せつつもラウンドヘイ牧師に電報をもらった、とスタンデールは答えます。

捜査の状況と犯人の目星について知りたがったもののホームズにお答えできないと告げられたスタンデールは不機嫌にその場を去ります。ホームズはなんとすぐ尾行、さらにプリマスに電報を打って確認、しかし成果はなく、スタンデールの話した行動は本当でした。しかし、新たな要因の出来を喜んでいるようでした。

翌朝、ことは急激に動きます。牧師がホームズたちの滞在先に泡をくって駆け込んできたのです。

"We are devil-ridden, Mr. Holmes! My poor parish is devil-ridden!" he cried. "Satan himself is loose in it!"

「悪魔が取り憑きました、ホームズさん、悪魔が哀れなこの教会区に!魔王サタンが放たれたのです!」

牧師は動揺、混乱の極みです。

"Mr. Mortimer Tregennis died during the night, and with exactly the same symptoms as the rest of his family."

「モーティマー・トリジェニスさんが夜のうちに死にました。家族と全く同じ状況で!」

ホームズは牧師とともに現場に急行します。トリジェニスは司祭館の一角、上下の2部屋を借りており上は寝室、1階の居間でトリジェニスは言切れていました。

窓は使用人によって開け放たれていました。それでもなおひどくムッとする室内、テーブルではランプが燃えて煙を出していました。

トリジェニスはテーブルそばの椅子にもたれて座った状態で、顔は恐怖に歪み、手足は引きつって指がねじ曲がっていました。ベッドには寝た後があり、慌てて服を着た形跡がありました。

目を輝かせ、ホームズは活発に動きます。ベッドルームの窓から身体を突き出し、歓声を上げたかと思うと駆け下りていったん外へ出てすぐ戻り、ありふれたタイプのランプを入念に調べます。油壺の高さを測り、覆いを拡大鏡で見て上の方の表面に付着した灰をこそげ落として封筒へ入れました。

警察が来た時、ほくほくと牧師を呼び、3人で外へ出ました。そして警察に寝室の窓と居間のランプへ注意を促すよう、詳しい話が聞きたい場合はホームズのところへ来るよう、牧師に言付けると帰ります。

それからまる2日、結局警察から音沙汰はありませんでした。珍しいことですね。ここは物語の成り行きに関係があります。

ホームズは牧師館のトリジェニスの部屋で燃えていたものと同じランプを買ってきて、同じ油を入れ燃え尽きる時間を計ったりしていました。

"You will remember, Watson," he remarked one afternoon,
"that there is a single common point of resemblance in the varying reports which have reached us. This concerns the effect of the atmosphere of the room in each case upon those who had first entered it. "

「ワトスン、覚えているだろう」ある日の午後、ホームズが言います。

「僕たちに届いたさまざまな報告の中に、1つ、よく似た共通点があることにさ。それは2つの事件で、それぞれ最初に部屋に入った者に対する、中の空気の影響が関係している」

最初の事件では、最初に部屋に入ったポーター夫人は失神しました。次に駆けつけた医者も椅子に倒れ込みました。次の事件でも窓を開けた使用人がその後寝込んだことをホームズはつかんでいました。通気してもなお部屋が息苦しいのは体験済みです。

最初の事件には暖炉の火があり、第2の事件にはランプがありました。ホームズがランプの油の量を考慮に入れ実験したところ、このランプは明るくなってから灯されていました。

燃焼と部屋の息苦しさ、そして死と狂気、この3つに相関関係があるとホームズは結論付けます。なにか毒性があるものが燃やされた。暖炉は煙を屋外に逃すので毒性はおそらく多少弱まった。それは2人の男が死ななかったことで裏付けられています。

こう考えるに至り、ホームズはランプから燃えた後の灰と、その周辺部にあったまだ燃えていない茶色い粉を回収したというわけでした。

では、ここから何が始まるか。

"Now, Watson, we will light our lamp"
「さて、ワトスン、僕らのランプに火をつける時だ」

これはつまり、ホームズが証拠としてこそげ落とした粉末を燃やしてみようということでした。窓を半分開け、向かって座り、ランプの火の上に粉の燃え残りを置くと、すぐにジャコウのようなむかつく臭いがしました。そしてー意識が制御不能な領域にー。

A thick, black cloud swirled before my eyes, and my mind told me that in this cloud, unseen as yet, but about to spring out upon my appalled senses, lurked all that was vaguely horrible, all that was monstrous and inconceivably wicked in the universe.

「目の前に厚く黒雲が渦巻き、頭の中で自分の声を聞いた。まだ見えないが、いまにも襲いかかってきそうな何ががいるぞ、正体不明の恐ろしいもの、想像を絶するようなありとあらゆる邪悪が潜んでいるぞと告げていた」

声を出そうにもうまく出ません。凍りつくような恐怖が心を支配します。しかしホームズの蒼白な顔がチラリと見えた時、ワトスンは覚醒し行動します。椅子から飛び出し、ホームズを抱き抱えるようにして外に出ました。

陽光が降り注ぎ、やがて平静が2人の心に戻って来ました。

"Upon my word, Watson!" said Holmes at last with an unsteady voice, "I owe you both my thanks and an apology. It was an unjustifiable experiment even for one's self, and doubly so for a friend. I am really very sorry."

「なんてことだ、ワトスン!」ホームズはついにおぼつかない声で言った。
「助けてくれてありがとう。そして謝らなくてはね。1人でもこんな実験をすべきじゃなかった。友だちと一緒ならなおさらだ。本当にすまなかった」

何カ所かホームズシリーズで出て来ますが、ワトスンはいつも冷淡で皮肉屋のホームズに思いやりを示されると弱い。今回も大いにエモかったようです。

ホームズは火のついたランプを腕をいっぱいに伸ばして持ち、外へ出しました。ホームズたちは東屋に腰を落ち着けます。

さて犯罪の方法は分かった。第一の事件の犯人に関しては全ての証拠がモーティマー・トリジェニスを指している、とホームズは話します。彼が帰ってから犯罪はすぐに行われたはずで、コーンウォールで夜10時を過ぎて客はない、誰か来たならトリジェニスの兄妹は立ち上がっていたはずだ、過去いさかいがあって、仲直りしたのはうわべだけかも知れない、と。

しかしそのトリジェニスは同じ手口で死にました。良心の呵責で自殺したのか?ないことではない。他に犯人がいるのか?ホームズは重要な人物を呼んでいました。その時、彼、スタンデール博士が姿を現します。不機嫌です。

"You sent for me, Mr. Holmes. I had your note about an hour ago, and I have come, though I really do not know why I should obey your summons."

「来たよ、ホームズくん。1時間ほど前に手紙を受け取って。でもどうして招きに応じねばならんのか分からないのだが」

"Perhaps we can clear the point up before we separate,"

「お帰りになるまでにははっきりさせられることでしょう」

"Perhaps, since the matters which we have to discuss will affect you personally in a very intimate fashion, it is as well that we should talk where there can be no eavesdropping."

「われわれが話すことは、あなたご自身に深く関わることになるでしょうから、立ち聞きされない場所で話すのもいいでしょう」

迫力を込めて、探検家はねめつけます。

"I am at a loss to know, sir," he said, "what you can have to speak about which affects me personally in a very intimate fashion."

「さっぱり分からないな」
「わたし自身に深く関わる話、というのが、なんなのか、ね」

"The killing of Mortimer Tregennis,"

「モーティマー・トリジェニスを殺した、ことですよ」

瞬間的に巨大な探検家は激昂し、拳を固めてホームズに襲いかからんばかりになりますが、なんとか踏みとどまり、ケガはさせたくない、と言います。ホームズは、僕もそうですよ、証拠は明白です。だから警察に知らせずにお呼びしたのです、と応じます。

ホームズの揺るぎない態度に、うめき声を上げて座り込む博士。

どういう意味だ?ハッタリなら相手を間違えてるぞ。

ホームズはまあ、自白を促すのですが虚勢を張り続けるスタンデール。ホームズはやむなく、先日こちらに来た後、牧師館へ向かい、しばらく様子を見て帰った、と話します。ホームズは尾行してましたよね。さらにー、

スダンデールはトリジェニスが殺された朝、夜明けに家を出て、滞在先の門にある赤砂利をポケットに入れた。そして牧師館まで歩いた。ホームズは足跡を把握していました。果樹園から生垣を通りトリジェニスの部屋の下に着きます。明るくはなっていたが、まだ寝静まっています。ポケットからひと握り砂利を出して、トリジェニスの寝室がある2階の窓めがけて投げた、と。

"I believe that you are the devil himself!"

「お、お前は悪魔そのものだ・・!」

かなりな意訳かなと思います。手品ですよね。誰も見ていなかったはずなのに。

Holmes smiled at the compliment.
ホームズは、この賛辞に微笑んだ。

2回か、もしかすると3回、小石を投げた。

そこまで分かるか、といったところですね。捜査の際、寝室の窓から身を乗り出して歓声を上げていたのがこの発見、窓枠に石があったのでしょう。

顔を出したトリジェニスに手招きした。下宿人は急いで着替えて降りてきた。会っている間スダンデールは部屋を行ったり来たりした。それから外に出て、葉巻を吸いながら何が起きるか見ていた、とホームズは語ります。ホームズシリーズを読み慣れている者にはどうして分かったか予測がつきますね。足跡や葉巻の灰もしくは吸い差しでしょう。

動機の告白を迫られた時、ついにスダンデールは一葉の写真を出します。そこには、ブレンダ・トリジェニスが写っていました。

"That is why I have done it,"
「わたしがこんなことをしたわけは、それだよ」

ブレンダとレオン・スタンデールは愛し合っていたのです。しかし探検家には妻がいて、すでに何年も別居していましたが、イギリスの法律では離婚ができませんでした。

"The vicar knew. He was in our confidence. He would tell you that she was an angel upon earth."

「牧師様はわれわれの関係をご存じだった。秘密を打ち明けていたのだ。彼はブレンダのことを地上に降りた天使のようだった、と言うだろう」

博士はポケットから紙包みを取り出しました。それには

"Radix pedis diaboli"「悪魔の足の根」

と書いてあり、毒物を示す赤いラベルが貼ってありました。

ヨーロッパにはサンプルが1つあるきりで、どの文献にも載っていないものでした。アフリカ西部のある地方で罪のあるなしを試すために呪術師が使う毒だとのこと。

スダンデールはブレンダと愛し合い、だから兄たちとも付き合っていましたが、モーティマーのことはうさんくさく思っていたようです。2、3週間前に森の小屋へモーティマーが顔を出した時、この毒の根を見せてやって、神官の手で裁かれる現地人の運命は狂気か死かだ、ということ、ヨーロッパの科学では毒を検出できないことも話したのでした。モーティマーはやたら効果や効くまでの時間をしつこく聞いてきたそうで、どこかで盗んだはずだ、とスタンデールは言いました。

モーティマーは、悪魔の足の根を使ってブレンダを殺した。財産を独り占めするために。それは明らかでした。犯罪の証明をするのは困難です。

スダンデールは決心し、ホームズが言った通り夜明けに牧師館に行き、砂利を投げて起こし、ピストルを突きつけて、出て来たら撃つ、と脅し、部屋のランプに火をつけ毒の根を燃やしたのでした。

"What were your plans?"

「この先、どうするおつもりだったのですか?」

"I had intended to bury myself in central Africa. My work there is but half finished."

「中央アフリカに骨を埋めるつもりだった。現地での仕事がまだ半分しか終わっていない」

"Go and do the other half," said Holmes. "I, at least, am not prepared to prevent you."

「では行って、残りの半分をおやりなさい」
「少なくとも僕は、邪魔をするつもりはありません」

巨体の探検家は静かに去ります。ホームズが警察に知らせずに犯人を許したことは、思い出す限り3件、「青いガーネット」、「アビ農園」とこの事件です。

さて、植民地全盛時代、アフリカの不思議な猛毒で殺す、というのはいかにもホームズシリーズらしい話です。警察と距離を置いているのも珍しいですが、こんな理由があったのですね。

要素が出るとわかってくる物語。やはり芯は男女の愛情でした。それと、この回、おそらくは演出としてやたら「悪魔」「天使」といったセリフが出てくることが特徴です。また、毒物をホームズ&ワトスンが体験するという、シリーズ中唯一の回となっています。

おどろおどろしいタイトルにふさわしい事件。記憶に残る短編でした。なお、悪魔の足の根、という植物、薬物はいまもって分かってないそうです。

さて、第4短編集「シャーロック・ホームズ最後の挨拶」残るはまさに「最後の挨拶」だけとなりました。こればっかりは後に回したいので、短編の最終回でお話しすることにします。

0 件のコメント:

コメントを投稿