2021年8月28日土曜日

8月書評の4

◼️ ブレイディみかこ
「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」

イギリスもいろいろあるなあと。日本帰省時の話もには唖然。

ベストセラー。ウワサは聞いてたし、書店にしばらく単行本が平積みにされていた。手に取ってみると、同郷の名門公立校出身だとか。帰省時の話も言葉も映像と音が浮かんだ。

アイルランド系の方と結婚して、イギリス南方のブライトンに暮らす著者が綴ったノンフィクションのエッセイ様文章。

息子さんはクリスチャン系で裕福な家庭の子が多い小学校から中学校に上がる際、「元底辺」の学校を選ぶ。

知らないことが多く、は〜と思いつつ読み進む。学校はランキングが公表されていること、息子さんが通う底辺の中学校は文化活動に力を入れてランキングを上げようとしていること、その分予算を貧困家庭対策に費やさないため、教員に持ち出しと労力的な負担がかかっていること等々。

イギリスは移民が多く、白人の子供たちと東欧系、アフリカ系、アジア系の子達が一緒に教育を受けていて、公立中学校間の貧富の格差も大きい。

ヨーロッパに行ったことはほとんどないが、その短い滞在でも、人種差別的なものは感じたしあるんだろうな、といううすぼんやりした想像を現実として追体験した思いだ。日本では想像できない。


著者の実家は福岡市の西の方かと思われる。帰省時、英語がさっぱりなお祖父さんと日本語かが分からない孫との気があって、著者が東京へ行ったりしてても平気、海で遊んだり釣りをしたり、ドームで野球を観たりして楽しむ、というのはシチュエーションもさることながら風景と博多弁が浮かんでよりいっそう微笑ましくなった。

しかしながら親子に対する酔っ払ったおっさんの物言いはヒドい。レンタルビデオ屋の店員もなんで?という感じ。息子と英語で話しているだけで、いきなり故郷が安住の地でなくなっている現実に唖然とする。福岡の恥です。

イギリスの差別的世界もは〜、またEU離脱の大論争でナショナリズムという言葉にかなり敏感になっていたり、どこかアイデンティティ・クライシスを感じるほどの社会状況、というのもかなり、「は〜」。スコットランド離脱などの論争と相まって、かなり煮詰まっている様相も醸し出されている。

ハーフ、オリエンタル、というのが使用を憚られるという風潮もびっくり、当地ではMIXEDにも論争があるとか。LGBTと合わせ、今後は世の中さらに混沌としてくるのではと予感させる。

それにしても・・若い頃から女性に対する言葉、態度の暴力は聞いていた。我々が経験したことのない、信じられない態度も弱者には向かう。生きにくさの現実。息子さんがたくましく面倒見が良いのは明るい光だ。本書の魅力の一つだろう。


◼️ 伊坂幸太郎「首折り男のための協奏曲」

消化できないのが個性。不思議なのが持ち味。

伊坂幸太郎はたまに読みたくなる。この世界から独特の距離感がある異常な世界への跳躍、オチがあるのかないのか微妙な会話。その中で際立つ妙なぬくもり。予測のできないストーリー展開の面白さ。奇妙なタイトルで気になっていたこの作品もまた、ああ、伊坂だなあ、と思わせる本だった。

本書は冒頭作「首折り男の周辺」から始まり、伊坂作品ではおなじみのヘンな空き巣・黒澤が活躍する短編を挟み、またラスト近くで首折り男が出てくる作品に戻る。

それぞれの短編は、直接的な関連もあり、もっと目を凝らせば発見できるかもしれない薄い繋がりもあるかも、という様相を帯びている。

そう思わせたまま放置することが著者の大きな特徴なのも確か。ふつうの、まあこの言葉も定義もあいまいだけれど、私が読む作家は伏線を敷いて散らして、ちゃんと回収する。その手際の見事さは作品の評価に直結することも多い。

ところが、伊坂幸太郎は、上手に書いていながらも、おそらくはさらに巧妙に、この常識を外れた書き方をする。意味があるのかないのか、伏線をあからさまに回収しないイメージも強い。

最初は正直、うわっと思った。周囲に苦手なんですわ、という者もいたりした。でも今や慣れてしまって、また独特の面白さもなじんできて、これこれ、という気になってしまっている。

首折り殺人は最初多発して、生々しい事後の現場もあり、後段も出てくる。犯人も出てくる。でも総じてユーモラスな物語集で、やっぱり伊坂はエンターテイナーだなあと思ってしまうのでした。

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