◼️ 斉藤倫「ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集」
爽やかで、詩が持つ大きななにかを感じさせる作品。イケてます。
先日今年上半期のランキング各賞をまとめたとき、後輩女子が「私の『タイトル賞』です」と紹介してくれた本。児童書だけれど、心にナチュラルに染み込むような連作短編です。
活字中毒で詩をよく知る「ぼく」と小学生の男の子「きみ」の心温まる交流がベース。「きみ」のお母さんと「ぼく」はどうやらよく知る間柄らしい。
一篇に2つの詩が挟まれる。自然あり、抒情的なものあり、戦争ものもある。1つも知らなかったけれども新鮮で、ことばの使い方も琴線に触れてくる感覚がある。
「いみの、手まえで」で「ぼく」は「それぞれのことばには、それぞれのひびきやリズムがある。」と語り、まど・みちおの「きりん」を「きみ」に読ませる。
きょうも空においた
小さなその耳に
地球のうらがわから
しんきろうのくにから
ふるさとの風がひびいてくるの?
きりん
きりん
きりりりん
(抜粋)
また「くりかえし、くりかえし」では
デジャブの話をした後で、松岡政則「痛点まで」へ導く。
子供の自分は
八月の底力を信じていた
いいや八月の底力に何度も助けられた
何を謝りたいというのではない
草まで戻って
ただ深深と叩頭がしたい
夜がくるまでじっと動かずにそこに立って
青い青い歩くを見てみたい
(抜粋)
「きりん」のことばの響きには爽やかさ、遠大さと活力を感じ、「八月の底力」には懐かしい夏の日々を一瞬で思い出す。「青い青い歩くだ」という文法にかなってない部分に何ともいえない魅力を感じる。若さ、幼さ、憧憬、もどかしさ、月日が進む無常さと懐慕。
表現できない想いや一瞬のうちに消えてしまう情景、書けないオノマトペ的な音。詩と、その前のことば。心地よい関係性に浸ることができる。
「ぼく」と「きみ」の微笑ましい交流と、なにやら文豪の青春のような雰囲気と謎めいたひと味。そのベースに厳選された現代詩が小粋に散らされる。
いやーこういう本いいね。興味を持ってた児童本。楽しく気持ちよい読書でした。
◼️ 井手口孝「走らんか!-福岡第一高校・男子バスケットボール部の流儀-」
福岡県高校バスケットの話です。思い出す青春と感じる時代の変化。
前置き長くなりますが、福岡県は男子バスケットが強く、福岡第一高校は2018年、2019年と河村勇輝を擁しウィンターカップ連覇、2019年の決勝戦は福岡大学大濠高校との同県対決でした。大濠はかつて八村塁のいた宮城の明成高校とウィンターカップの決勝で接戦を繰り広げました。
んで、福岡第一と大濠のいる福岡県中部地区で、私は高校バスケットをしていました。当時の福岡は強豪校はあったものの、優勝は大濠が県内絶対王者状態。背の高い、うまい選手を集め、もう超人たちの次元としか言いようのないバスケットを展開してました。その頃、我が校に近いところにあった、チャゲ&飛鳥らの母校・福岡第一高校には、男子バスケット部はなかったのです。
女子はよく練習試合に来てましたし、後に全国大会にも行ったようですが、男子バスケ部が立ち上がったのは1994年でした。立ち上げたのが、著者の井手口孝先生です。いまも監督です。
福岡中部地区のバスケはずっとそうなのですが、走るバスケです。大濠も、そうでした。福岡第一はマンツーマンディフェンス、ファーストブレイク、つまりカウンター的速攻が得意で武器です。走らんか!はもはや福岡第一のバスケットを表す言葉なのですね。
日体大バスケ部3軍出身の井手口先生は最初女子を指導していたものの、福岡第一で男子バスケ部を作って創部5年目には絶対王者、大濠に勝ってしまう。インターハイにも出場した。
やはりものすごい熱量だと思う。確かな指導を求めて、部員たちを連れてロサンゼルスのクリニックに行ったり、多くの有力な指導者に教えを乞うたり・・日本代表ポイントガードの富樫勇樹のお父さんで強豪開志国際高校の富樫監督とは大学の同期だそうだ。
リクルートにも励み、強くなってくると頼られることも多くなってたくさんの選手の面倒を見た。なかにはやんちゃなキャラや評判のワルもいた。そんな選手を含め、多くの部員と向き合い、観察し、頭を働かせて人間教育をも施す。
福岡第一は2004年、インターハイで初優勝したが、後にセネガルからの留学生に年齢詐称疑惑が持ち上がる。インターハイの優勝は抹消された。その騒動が起きたのは2011年。ほんの10年ほど前には、留学生には批判的な雰囲気が強かったということだ。短い期間で強くなったチームにはなおさら風当たりが強かっただろう。いまでは男女問わず強豪校に留学生は珍しくないのだが。
この件については詳しく書いてある。福岡第一はどういう主張をしたのか、どういった土壌があったのか、そして反対勢力は、などなど。気になっていただけに興味深く読んだ。
「ハイキュー!!」や「ダイヤのA」などは強豪校の設備などを取材してモデルにしている。強豪としての、私学としての矜持は読んでいて面白い。
琉球の並里成、宇都宮の鵤(いかるが)誠司といった強いBリーグチームのPGについて、数々の指導者についても取り上げてある。Bリーグ、高校バスケットの現状、指導者層への危機感など直言しているのも印象的。
「バスケ沼にハマる」という言い方をNHKさんがしてはるが、われわれ高校バスケット部の同期男女でグループを作り、ウィンターカップやBリーグなどことあるごとにライブを観ながら盛り上がっている。福岡出身の選手推しだ。
まったく沼にハマっている。この週末は日本代表戦に加え、U-19ワールドカップ、河村のいる東海大なとが参加する関東大学バスケットスプリングトーナメント、1日試合観てみんな集まってわやわや言ってた。応援すべき福岡出身の選手たち。U19の選手にもウィンターカップで活躍した選手もいる。その子たちを観ながらわやわや言う。愛すべし沼の住人たち。本書もそのグループで話題に上ったもの。
福岡第一は去年のウィンターカップ、準々決勝でゾーンディフェンスの明成に敗れた。伝統と流儀のマンツーマンで挑み勝つことが出来るのか。オリンピックも本当に楽しみだ。
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