◼️ 髙田郁「あきない世傳 金と銀 碧流編」
シリーズ第7弾。想像するだに美しい、新たな衣。あてられる。熱が出そうだ笑
久々に読んだシリーズの続きもの。幼少の頃奉公で入った呉服の「五十鈴屋」で5代目、6代目の妻となり、やがて女名前で7代目と認められた主人公・幸は新規出店した江戸店で、新たな売り物を作り出す。恍惚と不安が同居する、快作の巻。
念願の江戸店を出してしばらく、如月にはパタリと客足が途絶えた。時期的なものとはいえ、軌道に乗っているとは言えない商売に、なんとか看板商品をと考える五十鈴屋の面々。
幸は顔なじみになったお才の夫力造の生業が染め物で、かつては小紋染もしていた型付師だと知る。また、大阪本店に居た時、かつての夫で故人の智蔵の縁で知り合った人形遣いの亀三に会いに行くよう勧められた歌舞伎役者の菊次郎を訪ねる。やがて人気役者の富五郎が五十鈴屋に来訪するようになる。
いろんな仕事と人の縁、アイディアを少しずつ積み重ねて、大きなものが産み出される前夜。
希望を胸に保ちつつも、女名前の期限が迫り、これというヒット商品もない現状をゆっくりと進めるのは冗長な感覚に囚われなくもない。
しかし、特に今巻は、想像力を掻き立てられた。染め、型紙、小紋、色・・最後に仕上がった品に神々しいまでの輝きを感じ、お披露目の時、その後の注文殺到はあるのか、恍惚と不安を味わった。
品ができるまでの過程もそうだが、最後に、富五郎のこだわりとその理由が仕掛けとして本当に良いと思う。しかもことさら取り上げすぎないのも好みだ。
反物や帯を扱う五十鈴屋。いつも肌触りや組合せの妙とともに惹かれるのがその、色。日本の伝統色はさまざまあり、着物だと特有の呼び方が多くある。それを知るのがとても楽しい。
この巻だけでも
江戸紫、仙斎茶、白群(びゃくぐん)、承和色(そがいろ)、薄花色、青白橡(つるばみ)などなど。調べるのが楽しい。
江戸の特徴の一つとして、奢侈を禁じる法で厳しく取り締まられる、ということがある。先日観た映画「HOKUSAI」でもそんな場面があった。そうか、だから江戸は渋好みで、町人が多くともすれば治外法権エリアだった大阪はいまでも派手な色好きなのか、と思ったりするが、巻中には、そういった理由だけではない、との記述もあった。
たしかに、お上と近かったのは現実だけれど、もっとなにか味わいがなければ感性的ではないよね。
次の巻もすでに持っている。他の本を挟んで、すこうし間を置いて、また新鮮な感動を感じ取れたらと思っている。次はどうなる?^_^
◼️ 中島京子「花桃実桃」
和歌やことわざの言葉と四十路の想い。コミカルで軽い。結構好きです。
読書友から買った、と聞かされた直後に見かけ、購入。あ、借りればよかった、なんて半分くらい読んだころ思った^_^
43歳の花村茜は父の遺産のアパート「花桃館」を譲り受け、会社で肩たたきに遭ったここともあり、管理人として住み込むことにする。
早くに妻、つまり茜の母を亡くした父は、子供たちに構うなと言い、ずっと1人暮らしだった。築20年の花桃館で茜は、父の元愛人で歳のわりに韋駄天走りをする李華、探偵の槌田、雑誌記者の父に3人の男の子の妙蓮寺家、整形好きの高岡日名子、ウクレレを弾く失恋小僧のハルオら個性的な住人と知り合う。
高校の同級生でバーを営むことわざ好きの尾木や、新しい居住者で日本の和歌を愛するクロアチア人のイヴァン、住人たちが巻き起こすさまざまな騒ぎに巻き込まれつつ、折々に自分の来し方行く先を考えるー。
ことわざに百人一首。茜は決して頭が切れるキャラではなく、とんでもなく面白い誤訳やイメージを連発しながら日々を過ごす。幽霊ありどろぼうありとにぎやかだ。
コミカルでありながらも、肩の力の抜けた軽やかな40代、という色彩も漂うし、茜がそこそこ感情的なのもなんかリアルだな、と思ったりする。
直木賞を取った「小さいおうち」に近い時期に執筆されたそうで、サラサラと流れるような筆致に、教養と、自ら想うところも混ぜているような作品。
微笑ましく軽く読み切った。たまにはこんなのもいいなと。
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