2021年8月28日土曜日

7月書評の1

◼️辻村深月「かがみの孤城」

予感があって、その通りのことが出てきて、感動する。これも読書の醍醐味か、など考えた。サイン本!

本屋大賞、人に薦められたこともあり、読みたいと思っていた。ひさびさにブックオフでのんびり選んでいたら入っていたので迷いなく文庫上下巻買ってきた。パラっと開けてびっくり、なんと著者のサイン本。やっぱりテンション上がるな^_^サイン本をブックオフする人もいるんだね。


辻村深月はデビュー作「冷たい校舎の時は止まる」で興味を抱き、佳作「凍りのくじら」、「太陽の坐る場所」、直木賞「鍵のない夢を見る」、「島はぼくらと」、「朝が来る」と読んできて、最近は間遠になっていた。さて本屋大賞、どんな仕上がりになってるのかー。

中学1年生のこころは、クラスの中心的な存在の美織に目をつけられていじめられ、不登校となった。ある日、自宅の鏡が光りだし、手をふれてみると吸い込まれ、異世界の城に出る。そこには見ず知らずの男女の中学生、7人が集められていた。

城では狼の面を被った小学生のような女の子がこころたちに城の掟を伝える。城のどこかに1つだけ隠されている「鍵」を見つけたら願いを叶えることができること、城は3月末までの間開いていること、17時までに鏡を通って家に帰ること。帰らなければオオカミに食べられることなどなど。

城にはそれぞれの個室もあり、こころたちはこの孤城へと通うようになる。やがて少しずつ互いへの理解が進み、特別なものを憶えるようになるー。

ゲーム好きでぶっきらぼうなマサムネ、背が高くて穏やか、ハリポタのロン似のスバル、小太りで惚れっぽいウレシノ、イケメンでサッカー選手のリオンといった男子たち。ポニーテールで活発なタイプのアキ、眼鏡でアニメ声、そっけないフウカに、こころの女子たち。

集まっているのは、どうやら不登校の子たちらしい。物語が進むにつれ、彼らの関係性が進み、破綻し、修復される。そして元の世界でのこころの進歩、進展。フリースクールの先生との出会い。

ファンタジーであり、それぞれ事情を抱えた7人もの子どもたち。主人公の2つの世界。解かれるべき謎はたくさん。上巻での仕込みは面白かったが下巻の解決編が萎み気味、という小説はいくつも読んだ。さて果たして、と下巻へ。

構築は巧妙にして細大漏らさず。クライマックスはある童話をキーにして一気に動く。私も子どもが好きで、繰り返し読み聞かせした話だったこともあり、かなりの吸引力を感じた。

ここまでいくと、残りの謎と先ざきの展開もどこか予想がつく。先読みができるのはどちらかというと良くないことと思ってきた。ただ今回は、なんとなく考えていた手品のタネが文章の形になり眼を通して意味が認識された時、ああ、やっぱりだ、良かったなあ、という感慨に貫かれた。児童小説だからだろうか。


正直、少々絶対悪の作り方がどこか甘い気もする。ただ、そもそも本格推理小説に造詣の深い著者により精密に組み上げられた謎の骨組み、魔性を感じさせる鏡を出入り口とするゴシックホラーのようなファンタジー世界のマッチングが見事。自分が2つの世界をもつという本能的な甘美さ、その憧れを揺り起こされる感覚に陥る。

大人でも日常にどこか逃避というかホッとできる場所、会社でも自宅でもない人々の輪が求められる気がしている。それは私が知っているもので言えば同窓会のLINEグループだったり、子どもの学校の親たちの会がサークル化したものであったりだ。親戚の付き合いが薄くなったせいもあるのか、どうもそういう風潮を意識したのではないかとも勘ぐってしまう。

読み手にとってはたいへん魅力的な作品でした。

◼️ あさのあつこ「雲の果(はたて)」

相変わらず黒くてアダルト。関係者が近すぎるのも面白い。

あさのあつこの「弥勒シリーズ」も8作め。これねえ、ハマるんです。「バッテリー」等々、少年青春グリーンエイジのイメージがのっけからガラガラと気持ちよく崩れます。


口が悪く性格は歪んでいるが抜群の探偵力を持つ同心・小暮信次郎。ワトソン役は先代からの岡っ引にして常識人の町人・伊佐治。さらに元は武家の殺し屋で、今は小間物問屋・遠野屋の若き主、清之介。この3人が絡み合い、謎を追っていく話。


女の死体が焼け跡から見つかった。殺されてから放火されたと思われた。女は仕舞屋にいたらしいが、周囲の誰も女のことを知らない。仕舞屋の持ち主は最近亡くなった米問屋・阿波屋の先代で、惣領息子はなにも知らされていなかった。清之介は死んだ女がしていた帯の手触りに何かを感じる。信次郎と伊佐治は阿波屋を訪れ、惣領息子の内儀で、美貌のやり手、お芳と出会う。

時代劇らしく、大きな陰謀が裏に潜む。

それにしても、信次郎のハナの良さで次々と関係者が繋がっていく。いつもながら闇は深く、人と人との関係性は一筋縄ではいかず、つやのある蠱惑的な黒さを放っている。

もちろんノワールという前提ではある。

「弥勒」シリーズでは繰り返し主演3人の間、特に伊佐治と清之介が、小暮との関係性を再定義する場面が描かれる。

どこか甘くて、非現実的。しかし正直さ、きれいなばかりではない人間っぽさも垣間見えるこの述懐が、シリーズの根幹のような気がしてならない。今作で言えば、殺される女の心のうち、さらに信次郎の愛人、おしのの心情も生々しい。

いややねえ、信次郎。ワトソンは「最後の事件」でホームズの死に際し、

「私がこの世で知る最も善良で最も賢明な人間」

とホームズを評しているが、伊佐治の親分は、清之介はどんな言葉を思い浮かべるのか、なんて想像してしまった。

人間性の告白、最近で言えば藤沢周「武曲(むこく)」にも自分に潜む残忍な獣性に悩み苦しむ剣道の剣士の姿が描かれていて、どこか共通点を感じたりした。

殺害方法も実行犯も華麗にして残忍。あさのあつこ絶好調!次もホントに楽しみだ。

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