2024年7月14日日曜日

7月書評の5

◼️ 絲山秋子「袋小路の男」

妙に、読ませる作品。ドラスティックさのない、男と女の微妙な関係。川端康成文学賞。

このなんとなく日常な風味、過激さが全くないわけではないが、緩く日常が展開していくドラマ気質とでもいうもの。絲山秋子は「イッツ・オンリー・トーク」「逃亡くそたわけ」そして芥川賞の「沖で待つ」を読んできた。今回久しぶりに触れて、また絲山色というのを感じた。

高校の先輩、小田切孝に恋した大谷日向子。手も握らないまま12年間もズルズルと恋し続ける。小田切は2浪して大学に入り、作家を目指して執筆活動に入るが売れない。日向子は現役で大学に進み企業の法務部に勤める。2人は毎夜のようにバーで会ったりたまに食事したりするものの進展せず、日向子は浮気と称して彼氏を作ったり、上司と一夜の関係を持ったりする。でも、やはり好きなのは小田切なのだったー。

ノーベル賞を受賞したアニー・エルノーの「シンプルな情熱」という作品を思い出す。本当に恋した相手に、女はどういう行動をするか。ひたすら我慢して尽くすその果てとストレス。

今作では、まあだらだらと、煮え切らない、プライドの高い男と、他の男にも走るものの純粋に恋する女の姿を描く。大人の日常プラスα、という感じだ。どちらもあまりまじめな高校生ではなかった先で道が分かれ、その設定の中の人間的な感情もまた歪みを含んだものになっていく。そしてある意味純粋でまっすぐな恋心は、どうなるのか、小説はどう終わるのか。

ヨーロッパあたりの単館系の映画みたいだ。素っ気なさもある。冗長。でも読ませる。そこにたゆたう間、やもどかしいを通り越す微妙さ、が現実の生活に妙にマッチするから、かも知れない。日常の積み重ねと違和感と人間的なヘンな部分。小説的だ、と思わせる。

トルコのノーベル賞作家オルハン・パムクは自著の中で「これが人生だ、と感じさせる」ことが純文学の要諦、というようなことを書いていた。そこまで大きな仕掛けではないものの、人生振り返ってみれば色々起きたことが微妙に重なる気がする。

私的な絲山秋子の色は、そんな感じだ。また読むだろう。

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