2024年7月14日日曜日

7月書評の3

◼️ 津村記久子「サキの忘れ物」

出逢い、目覚めに、非日常。短編集は小説の楽しみを考えさせる。

津村記久子はよく目にする名前。芥川賞はじめ、賞を多く取っているイメージ。読んだことはない。今回手に取る気になったのはサキが、たぶん「サキ短編集」だろうと思ったから。

好きでない友人と離れるため高校を辞めた千春は病院の喫茶店でアルバイトをしている。何事にもやる気が湧かず、両親は自分に関心がない。ある日、常連の初老の婦人が置き忘れた本、「サキ短編集」を家に持ち帰り、読んでみるー。(表題作)

あまり括ってしまえるものでもないけれど、"成長"は小説の1つのテーマだと思う。読み手は主人公に思い入れを持ち、その成長、現状からの脱出、に心を動かされる。よくあります。だからつまり小説の醍醐味は成長というゴールに向かい、HOW、いかに、どんなふうに感じさせるか、かな〜などと考えた。

直接的におもしろいのも、意外性を出すのも、すべてに理屈がつくわけではなくて、なにかほんのりと漂うものがあるのも全部正解だろうと思う。

で、今回重要なアイテムが「サキ短編集」。取り上げられている「肥った牝牛」「開いた窓」「ビザンチン風オムレツ」を読み返した。ヘンな設定で、でもそれぞれ狙ったクスリという面白さがあり変幻自在。やっぱり好ましい。

表題作の短編は現状と出逢いに重きを置き、結果で大きくジャンプしている。うん、もひとつ欲しかったかも、とも思うしスッキリしてる、とも考えた。短編はホンマ色々思いを巡らすのが良さのひとつかな。

ほかは、それこそ微笑を誘うような、短編らしい作品が並ぶ。
「王国」
「ペチュニアフォールを知る二十の名所」
「喫茶店の周波数」
「Sさんの再訪」

そして星新一のような「行列」、どこかで読んだような清々しさを覚える「河川敷のガゼル」、なかなか遊べる「真夜中のゲームブック」とバリエーションもある。

最後の「隣のビル」は日常が非日常に変わる瞬間が明瞭だ。これでこの人異常さ確定、になってしまう場面。小説らしいな、と思う。そして深刻にならないおおらかさが心地よい感じがして、大ごとにならず気持ちよく終わる。

全体としてあまり心を動かされるわけではなかったかも、と読了直後には思ったけれど、こうして反芻してみると結構工夫が目について好感を残す。他の作品も読んでみようかな。

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