◼️ポール・オースター「偶然の音楽」
日本人に受けているタイトルだという。ふむ。やはりアメリカンなオースター・スタイル。
追悼ポール・オースター。いくつも読んだけれど、殊に日本人に愛されている、と聞いたこの作品は未読。おいおい、という物語が転がっていく、ちょっと壊れたような構造。例に漏れず、である。さて今回のドラマはー。
30代前半の消防士のジム・ナッシュは妻に出ていかれ、可愛い盛りの娘を姉夫婦に預けている。離れて暮らしていた父の遺産が突然入り、仕事をやめて旅に出る。そして小柄なトランプ勝負師、ジャック・ポッツィと偶然出逢い、彼の大勝負に持ち金を賭けてみる気になるー。
ポッツィとの出会いから、ポーカーで勝負する相手、2人の大金持ちの男たちのどうもうさんくさい言動や、囚われの身となりひたすらおかしな造形をする日々などは偶然性の非常に高い、ちょっと、いや、かなり突飛なエピソード。先の見えない不可解な状況を現出させ、ころころ転がしていくのがオースター流ではないかと思っている。そしてその、突飛で謎めいたシチュエーションは読み手に対し実に蠱惑的で吸引力が強い。
主人公は家族や生活に関するありふれた悩み、問題を抱えている。行きずりの人間関係と場面場面で、どうでもよさそうなことまで悩みながら判断を下す。特殊な状況、限られた条件の中で、人間性、プライドというものがあぶり出されている感覚。
釉薬を塗られた陶磁器が窯変するように、形を整えられた物語が特殊な状況を与えられ、変わっていってどのような姿を見せるか。ストーリー構成というのは一般的にも料理のようなものかと思うが、勝負する味なり陶磁器の焼成の結果はそれぞれで、物語の醍醐味とも言える。
オースターの小説を読んでいると、そんなことを考える。それにしてもホント突飛でヘンだよな、こういうのがアメリカン?とおかしみがこみあげたりする。壁、石・・と意味ありげ、象徴的な素材をまた効果的に持ってきている。
結末がはっきりせずにクローズとなった部分もあり、答えへの渇望を抱かせるのも小説かな、でも知りたかったなと、なんか術中にハマった気分で読了した。
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