◼️ 長野まゆみ「野川」
作家に求めるものって、と考える。ヘンだけどヘンじゃない長野まゆみの青春モノに考えた。
長野まゆみサンとの付き合いも長くなってきた。いまのようなペースで読み始めたのは15年くらい前で、長野まゆみを知ったのはその数年後。「鳩の栖」で魅了され「少年アリス」に感嘆し「天体議会」で美少年たちのSFチックな日常と冒険に酔い「カンパネルラ」の完成度に目を瞠りとまあその他にも好きな作品はいろいろ。小難しい漢字、鉱石に植物の知識と好ましくバラエティ豊か。その少年ものは教科書にも採用され、娘ので読んだと読書友から聞いた。
最近は少年同士の葛藤という、以前とはだいぶ違うテイストの、やっぱり少し変わった、しかし特徴的にこなれた語り口の物語などを書いてもいる。
「野川」のヘンさ、というか独特の部分は東京郊外の地理を、鳩の視点で立体的に見ているところかと思う。ストーリーに忍ばせた芯は興味深い。教師役の説明はやや冗長でくどいかな。風景の表現は清々しさも感じさせるもののやはり長め。
で、両親が離婚し、社長からチラシ配りをするようになった父とぼろアパートで暮らすようになった中2の音和少年の、葛藤と成長のストーリー。歩き、地勢を見る音和。温かく周囲を取り巻く、鳩を飼い訓練する新聞部員たち。
親子と、少年の心と、鳩。サラサラと読めたし、都内の自然と地形、成り立ちは興味深くもあった。物語としての3次元的な部分と森の緑、俯瞰的なビジョンは興味深くもあった。
作家の抽斗と、いまの姿勢。以前友人と、自分がしたいことと求められることが違うのはよくあること、という話をした。読者はぜいたくで経験則にも引きずられる。あの頃、のちょっとヘンだけど、抜群の吸引力と独自の世界、小説、ということを感じる深い力に満ちたキレキレの作品をステレオタイプに求めてしまっている。
そういう目で見ると、純粋な青春もの、というストーリーがヘンじゃなくてヘン、計算された、立体的なサイト、視界はヘンで興味深い、という感じだ。スイマセンわがままです。
ただ、結局のところ長野まゆみは一筋縄ではいかない、という結論に落ち着きほくそ笑んだりもする。まだまだ未読の作品も多いし楽しみだ。
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