◼️劉慈欣「三体」
壮大な序章。名作は内容が細かく、概要がシンプル。なるほど、と。
SFの超大作として、アジアの作品として初めてヒューゴー賞を取り、世界で売れ続けている「三体」3部作。中華系のSFってケン・リュウ氏もいて、最近元気なイメージ。
この小説、中国誌での連載が2006年にスタート、2008年に単行本化、中国全土に渡る人気作となった。2015年にケン・リュウ氏(中華系アメリカ人)が英訳したものがヒューゴー賞を受賞したとか。
この1巻めは壮大な序章にすぎないというのがよく分かった。人によっては最初に出てくる文化大革命時のなまなましい実力行使が読むにたえないということもあるらしい。私は天安門事件など興味があったし、歴史的な歩みは映画ほかの影響もあって少し分かるからあまり苦ではなかった。えぐかったけど。
文化大革命時に大学教授の父を紅衛兵に殺された葉文潔(イ・ウェンジェ)は反乱分子として扱われるが、父の教え子楊衛寧(ヤン・ウェイニン)や政治委員雷志成(レイ・ジーチョン)の導きで、彼女は最先端の技術により宇宙を監視する業務に就くようになる。
一方、現代において、髪の毛より細い線でありながら自動車や船までも切断するという物質、ナノマテリアルを研究する汪淼(ワン・ミャオ)は、ある日自国の陸軍少将、NATOやアメリカ軍の軍関係者らと科学者が出席する会議に呼び出され「科学フロンティア」という団体につながりのある高名な学者が2か月足らずのうちに次々と自殺していることを知らされる。既知の1人の遺書には「物理学は存在しない」と書かれていた。
汪淼が独自に調べを進めるうちに、Vスーツを装着しゴーグルをかけて参加する、あるゲームを知り自分もやってみる。そこは過酷な気候の「乱紀」と安定している「恒紀」に分かれる世界で、3つの太陽があり、日の出と日没の時期が入り乱れていた。そのゲームの名は「三体」ーーー。
著者はエンジニアで発電所等のコンピューター管理をしていたとか。中身は完全な理系小説で割り切って読んでいくもの。そして提示された謎が解けた時、そこにはスケールの大きな仕掛けがあった。
見出しで触れたのが感想で、三体ゲームは時代考証も本文に触れている通り雑めということもあり笑、設定の謎を少しずつ紐解いていく過程が楽しめる。キャラ付けその他もなかなかおもしろい。ただ科学的な部分は、特にラスト近くはさっぱり分からないので目で追うだけで割り切って読む。まあSFにはよくあることだ。
私はほぼまったく予備知識なく読み、その方がおもしろいと思うので大ネタは秘すけれど、大人向けから児童用まで、もう数え切れないくらいのSFエンタテインメントで前提となっているポピュラーな題材。ある意味この大作にはふさわしいのかもしれない。
ミステリ仕立ての不可解現象、バーチャル・リアリティと三体世界の設定、ナノマテリアルの利用へ持っていく構成など、序章と言いつつ見どころも満載で、それらを駆使して大きな設定を為している。この後どう動いていくのか。今作も610ページで科学もの。それなりに時間がかかった。シリーズ2も3も上下巻。な、長そうだな・・。
「次元」についての説明が詳しめに織り込まれている部分が、知的好奇心を刺激されて興味深かったかな。
ちょうどというか、時はアルテミス計画をはじめとする月の探査と、月を足がかりにして行う方向の火星有人探査へ、宇宙に興味がある人々の興が湧き立っているというタイミング。宇宙への挑戦、その最前線は新たなステージに辿り着く寸前まで進んでいる実感が敷衍していると思われる時期。かつての宇宙ものSFから、新たな時代のメルクマールとなる作品の出現が求められていた気すらする。微妙な影響がないとは言えないだろう。まだ言うの早いかな。3部作通読してからかな。いつになるかな〜。
中国の社会情勢を踏まえている部分は緊張感と現実感を含む強い制約を生み出している。この点ヒューゴー賞の理由になったのだろうか。もしも欧米の社会と価値観に斬り込む内容だったらどうだろう。いや、制約自体は色々考えられるかな、それもおもしろいかも、なんて考えてしまった。
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