2022年5月20日金曜日

5月書評の5

鎌倉紅谷のクルミッ子。妻が梅田のフェアで買ってきた。有名なんだね〜知らなかった。

ここのところちょっとスイーツ充実やね。

暑くなってきた。でもまだ湿度が低くて乾燥注意報まで出ているから、朝晩は少し寒い。寝る時は暑めで朝は寒いからよく起きてしまう。

◼️泉鏡花「紫陽花」

強烈な暑さと草いきれ、氷と美少年と貴女、そして紫陽花。

先日テレビで、美人画の鏑木清方は泉鏡花の挿絵画家だった、というのを観て、そういえば泉鏡花の紫陽花読みたかった、と青空文庫をのぞいた。 

にじんだような、フォーカスが甘いような幻想の世界。ごく短い話だが、なかなか気になる要素をうまく散らして、えっと思う耽美的な色合いで締めくくっている。

暑い日、まだ幼い美少年が氷を売り歩いている。黒髪の神様がいたという社の裏の木陰から貴女とその腰元の2人の女が現れる。

「あの、少しばかり」
注文を受けた少年はノコギリで氷を切るが、なんと真っ黒に。意地悪な継母が炭を挽いたノコギリをそのまま持たせたのだ。何度切っても、氷は黒い。

「お母様(おっかさん)に叱られる」
半泣きの美少年を腰元は可哀想に思うが、貴女は
「さ、おくれよ。いいのを、いいのを」
と強く促し、しまいに切っていない氷をぜんぶあげる、と差し出した少年の手を振り払う。氷は砕けてしまう。

頬を紅潮させた少年は、氷を拾い、強引に貴女の手を引いて小川のあるところまで連れて行く。貴女は細腰を柳のように捩れさせつつされるがまま。

少年は氷を小川で洗い、大きな豆粒くらいになった氷、水晶のように透きとおった氷を差し出し震える声で
「これでいいかえ」

貴女は具合が悪くなり、みるみるうちに衰える。
「堪忍おし、坊や、坊や」
少年は貴女の口に氷を含ませる。氷はゴクリと喉を通り、その笑顔に紫陽花が映った。

もしも誤訳があったらすみません。何せ文章が古文風。正しく意味がとれてないところがあるかも。

暑く草いきれのする中で清々しい氷に美少年。社は昔黒髪の神がいたと言われるところ。少年を理不尽にいじめる貴女。そして手を引かれたときよろめきながらも好きにさせてやんなさい、と腰元をとどめる。なぜかいきなり体調が悪化して緊迫感を高め、氷が「がつくりと喉を通りて」物語は終わる。

この美しさ、妖しさはなんだろう。氷や小川、黒さと頬の赤さ、紫陽花。堪忍、ということばや体調の悪化には実の子に出会ったことに気がついたのでは?という憶測も胸をかすめる。

貴女の腰が柳のように捩れたり、ゴクリと飲み干す喉の動きが耽美的でもある。

短い話だが雄弁、色彩的、心地よいホラー感を抱かせ想像力を刺激する。泉鏡花の短編を、だんだん好きになってきた。

◼️ 髙田郁
「あきない世傳 金と銀十二 出帆篇」

物事のおおもとについて考えることは大切と再認識する巻。

7年前、江戸の仲間組合を除名され絹の呉服商いが出来なくなった五鈴屋。綿を中心とする太物仲間に加わり商いを続けてきた。藍染の技術を共有し、仲間の店たちと一斉売り出しが出来る体制を整えて、前巻では勧進相撲興行に合わせた、力士の名や手形入りの浴衣のセールスで成功を収めた。

今巻では難題を解決し、仲間の店たちと共に再び呉服の商いが出来るようになる。五鈴屋の評判が上がるとともに武家の利用も増え、高価な嫁荷などの発注も出てきた。また人手が追いつかないほどの繁盛となり、吉原から衣装競べ参加の声もかかる。

呉服商がぜひとも食い込みたい高貴な武家、吉原との関係が発生し商売は好調すぎるほどだったが、格差のため一般庶民が店に入りにくい雰囲気も生まれていた。

五鈴屋の女店主・幸は、吉原の大掛かりな衣装競べに声がかかったことをきっかけに、今の商売のあり方について深く考えるー。

髙田郁は「みをつくし料理帖」の頃から愛読している。このシリーズも商売そのものがそんなに上手く転がるわけはないと思いつつ、仮想敵がちと一方的とも感じつつ、やはり時代の考証から言葉、知識、ストーリーの成り行きまで芳醇なものを思わせる巻だった。

太物を扱うようになったことで、庶民の喜びを深く知り、再び呉服を扱い、店の名が上がって別の悦びと格差を目の当たりにする。波のような時間の経過の中で立ち止まって考える姿にどこか共感が湧く。

日食や女ならではの生きにくさなども散らして、五鈴屋の商売のみならず充実の巻となっているような。

幸も四十路を迎えた。また今後の展開を楽しみに。

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