2022年5月2日月曜日

4月書評の7

もはや趣味のブックカバー作り。工夫も少しすることもあるがだいたい10分以内でできる。この手軽さもいいね。

◼️ 小谷野敦「川端康成と女たち」

うーん、川端の見方の曖昧なとこを刺してくる感じかな。うむむ。

私は川端康成シンドロームで、物語で印象的な女性キャラを読んできて、

「美しい人とは」と考えるようになってしまった、実は。川端の文章は美しく、そこで表現されている女性を想像するのは、人間の捉え方にも通じそうだから。

マネ「すみれ色のブーケをつけたベルト・モリゾ」という絵の、モデル本人とは少し違う、知的好奇心にあふれる表情を好ましいと思う、そんな捉え方、表現のしかた、に興味があるとでも言えばいいか。

で、そんな私にこのタイトルは魅力的すぎたわけだが、だが・・思ってたのとはちょっと違った。

描かれた女性の分析、つまりどんな女で、という、外見、性格、研究、というよりは女性を通して作品性を述べる感覚か。しかも女性が中心には見えず、「雪国」「伊豆の踊り子」「山の音」「千羽鶴」「みづうみ」「眠れる美女」「片腕」といった代表的な作品の評論と周辺情報が中心だった。私がピュアすぎたのかも笑。

それはそれで興味がないこともない。ただ、筋立てが下手、代作、所業、議論とまあマイナス情報も多くってなんかディスり気味でもある。


「雪国」の物語としての筋とは、という論点があった。確かに考える点ではある。登場人物の背景はどこかぼやけてて、ストーリーの伏線ぽいものは回収されてないと言えるだろう。主人公が芸者なのは外国から見ればジャポニズム的興味を惹いただろう。分割して連載し、改訂し、で出来上がったものは偶然の産物と言えるかもしれない。

しかし私はそれでも「雪国」は名作だと思う。当該作の書評でも書いた。演出がすばらしい物語。全てを説明するような小説ではないが、さまざまな要素が結びつき、美しさときらめきを感じさせると思う。このようなテイストは他にいくらでもあるし、マジメに考えるのもどうだかなと思う。「古都」もそうかな。

ただまあ、リテラシーにはなった。批評はあってしかるべき。もちろん文芸作品は読む人によって受け取り方は違う。どうも川端はクセも強くて、ただ尊敬崇拝の対象にはなりにくいようだし。

それにしても、知識を盛りたいのか、情報の脱線が多いし、どこそこの誰がこう言ってるのは間違ってる、というような、学者ものによくある、明らかに説明不足の文章も多い。

そもそも読み手的には作品そのものが全てであってそこまで文壇村の情報は関係ない。

少し整えては、と正直思う。

女性のモデルには興味は確かにある。好きである以上作家の生い立ちや作品の背景を知りたいのは当然の興味だ。ただ今回はかなり穿った見方が多いなと受け止めた。

ファンだから、少々感情を害されたのも認めてやぶさかではない。なんだけども、この類はしばらく敬遠したくなった一冊だった。はあ。



◼️ 桑原水菜「遺跡発掘師は笑わない
出雲王のみささぎ」

今回も特盛り。出雲、神話、そして南北朝。


映画にしても長いだろうな、と思う展開。専門的な知識に怪しさ、アクション、絶体絶命の危機などいっぱい。

宝物発掘師、トレジャー・デイガーとして名を馳せる22歳の西原無量は遺跡発掘のコーディネイト事務所の永田萌絵とともに出雲の発掘現場へ。その土地では降矢家と八頭家という2つの名門があり不穏なものを感じさせた。やがて青銅でできた髑髏を掘り出した無量は深夜に偽の電話で呼び出され、バットを持った暴漢に襲われる。ほどなく、八頭家、降矢家それぞれの男が殺されるー。

出雲といえば神話。高層造りの古代神殿、スサノオと八岐大蛇、大国主の国譲りと事欠かない。またそこから南北朝時代の南朝の落胤、さらに戦時のGHQの発掘、大量死も絡む。

旧家による横溝正史のような雰囲気、古い蔵に大掛かりな水牢。ボーガン、謎の脅迫。そして三種の神器まで。

専門的知識と多すぎる人間関係。相変わらず途中でちょっとこんがらがるし、ここでどうしてこんな派手すぎる行動を?とか、そこひっかかる?とかツッコみたくもなるが、そこは古代歴史アクションサスペンスちょっとだけラブコメもの。濃厚に楽しむべきでしょう。

古代史、発掘に対する想いにちょっとだけじわっとしたりする。奈良に特別な空気があるように、出雲にも神話的な、動かせない雰囲気があるのだろうか。

むかあし出雲大社に行ったきりなのでまた訪ねてみたくなる。

表紙はやはり美少年になっているけども、西原無量は私の場合サッカー日本代表の守田英正をイメージしてしまうな。ガテン系。次は島原キリシタン。一気に時代が新しくなる。

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