肝心の書評を上げてなかった〜。100円ショップで買ったところ美味い!となったベイクチョコ。愛器のクロマティックハーモニカと吹けないオカリナ😅
◼️ フョードル・ドストエフスキー
「やさしい女 白夜」
うむむ。男女の微妙な距離感と悲劇
ドストエフスキーとトルストイは読んだことがない。図書館で目に入ったので借りてみた。ある意味対照的な2篇。
【やさしい女】
41歳の質屋は、最近よく店に来る魅惑的な16歳の女が窮地にいることを知り、結婚してともに住む。最初は明るくふるまう女だったが、沈黙を好む質屋の男との暮らしに、次第に反抗的、情緒不安定になっていく。
女も男も誠実な心根はあり、光も見えそうになるのだが、悲しいカタストロフィが訪れる。男女双方にも人間的なネガティブな部分が現れていて、緊張感を生む仕掛けもある。沈黙と心のうち。100年以上も前の小説で、一歩引いてストーリーに横たわるものを見つめた時、妙に現実感を覚えた。
【白夜】
サンクトペテルブルクに住む友だちのいない青年はある夜、男に絡まれたのを助けた縁で17歳のナースチェンカと親しくなる。「私に恋しないで」釘を刺すナースチェンカは、ある男の帰還を待っている、と話し出す。
「やさしい女」が重い沈黙とすれば、こちらはもう言葉の洪水笑。孤独で夢見がちな男はしゃべるしゃべる。ナースチェンカも明るく感情豊か。ラストは予想通り。予定調和。夜のシーンが多く、白夜を想像して読むと異国的な雰囲気が広がる、かな。喜劇的でもある。
ロシア文学には疎い。おそらく多分に戯曲的で、名作とはまた書き方が違うのだろう。映画でブレッソン監督の「やさしい女」デジタルリマスター版は見送ってしまったけども、どんな作りをしたんだろうと、物語を読んだ後いまさらながら考えてしまった。
◼️ 多和田葉子「地球にちりばめられて」
言語が著者の重要なモチーフなのかと。発見だった。興味をかきたてられる。
献本でいただいた「日本文学の見取り図」に多和田葉子が取り上げてあり、この作品が詳しめに紹介してあった。
「乗り間違いが新しい展開を生み、聞き間違いが新しい言語を生み出す。言葉に秘められていた過去の記憶や未来の可能性が、偶然によって取り出される」
多和田葉子はドイツ在住でドイツ語で作品を書く。母語ではない言葉で小説を書くこと、また多言語が入り乱れるヨーロッパでの生活経験に裏打ちされたある種の思考感覚がにじんでいる気がする。実際エッセイにも言語意識について述べられているようだ。さて、このお話はどういうものか?
デンマーク・コペンハーゲンの大学で言語学を研究しているクヌートは、留学中に故郷の島国が消滅してしまい、自力で独自の言語「パンスカ」を作り出したという女性Hirukoをテレビで観て興味を持ち、テレビ局に電話してHirukoに承諾をもらい会うことに。
聞けばHirukoは同じ島国の言葉である「ウマミ」という言葉のついたイベントがあり、実演会場に行けば同じ母語の人に会える可能性があるので、翌日ドイツの歴史ある都市・トリアーへ行く予定だという。クヌートは一緒に行く約束をする。
まずクヌートがHirukoのことをアイスランド出身の歌姫、ビョークの若い頃に似ていると描写し、さらにテレビ局でデンマーク出身の映画監督、ラース・フォン・トリアーとすれ違う、というのが充分な面白みだ。
ラース・フォン・トリアーはビョークを主役に据えてミュージカル的な要素を取り入れた「ダンサー・イン・ザ・ダーク」という作品でカンヌの最高賞パルム・ドールを獲得している。ふふっと笑ってしまう。
Hirukoは新潟の出身だと自分で言う。なぜ日本が消滅してしまったのかは描かれていない。トリアーでは、クヌートを気に入った女装のインド人男性・アカッシュやイベントに出演する予定だったテンゾという男性の恋人、ノラと出会い、皆でテンゾが居るというノルウェーのオスロに向かう。
つながりつながりの旅。言語はどんどんとつながっていき、Hirukoが同郷の人と母語で話すことを達成するためのチームらしいものができる。なんかにぎにぎしくて楽しい。
言葉を取り巻く国際的なチームではデンマークとグリーンランドの関係やカースト制度にまで話が及ぶ。知的で創作的だと思う。
多和田葉子はシロクマが主人公の「雪の練習生」、全米図書賞をとった「献灯使」とも、茫洋とした、何かを秘めているがあまりハッキリとは言わない、みたいな小説だった。そんな人なのかなと思っていた。
しかし、今作は人間の若者が主役で、得意の非現実の設定で、Hirukoを中心としたパーティーが出来上がり、ちょっとヘンではあるけれどふつうの人間世界で、成り行きにも工夫が凝らしてあり面白い。
章ごとに視点が変わり、クヌートからHiruko、ノラらがモノローグを展開していく。それらから微妙なすれ違いと偶然の構図が見える。どんどんと各地へ移動していくのも楽しい。またアルルのカルメンという女にひっかかって、なんてくだりにもまた微笑み。なんてまあ洒落っ気の強い。
ハルキっぽさも感じつつ、これらのワクワク、くすくすするようなミックス具合がまたいい感じで刺激的。もどかしさも、性格設定も。ちょっとヘンな加減もGOODである。
多和田葉子の新しい、大きな特徴、側面を見出した経験となった。意外で新たな魅力の発見だった。途中で、これは、おもしろい!と嬉しくなった。
続編もあるようなので、ぜひ読もうと思う。
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