2022年3月8日火曜日

2月書評の7

バレンタインはオレンジペースト入り板チョコと、チョコケーキ。ちょこちょこと、時間かけて食べました。

2月はwebも多くて13作品10冊。そこそこおもしろくて、今年も楽しく読めてるなという感じかなっ。

◼️ 大島真寿美「渦 妹背山婦女庭訓 魂結び」

「渦」の意味。勢いと熱さのある操人形浄瑠璃の創作、大阪は道頓堀の物語。関西弁がにぎにぎしい。

直木賞作品は定期的に読んでいる。今回は人形浄瑠璃の話。私のちょいちょいと知っていた知識も、渦に巻き込まれた感じ、というのは僭越すぎるか。

近松半二、近松門左衛門と姻戚関係はまるでない。父親が人形浄瑠璃座のなじみで、近松門左衛門から贈られたという硯を渡され、近松を勝手に名乗った台本の作者。

幼い頃から芝居小屋が立ち並ぶ道頓堀に父に連れられて通い詰め、好きが高じて学問もせず、母に疎まれて家を出、京都で修行を始める。やがて高名な狂言作者となる同年代の並木正三らと刺激し合い、稀代の人形使い、吉田文三郎に揉まれ、その失脚と死を経て成長する。やがて操人形浄瑠璃は歌舞伎に押されて行き、一座を支えていた半二は、大作「妹背山婦女庭訓」を書き始めるー。

立板に水の関西弁。すばらしいテンポとにぎにぎしさ、関西在住者にはその適切さというか違和感なさすぎるところがまた小憎らしい。

半二の兄との婚約を反故にされ、奈良・三輪の里に嫁いだ幼ななじみのお末を訪ね、その境遇と思い、そして奈良の地に触れ天啓を得る。きっかけはなんと夜に浮かんだ赤いオーロラ。そして「妹背山婦女庭訓」を書いている途上、お末の消息がもたらされ、半二の意識の中に、お三輪という娘が現れる。

「妹背山婦女庭訓」を知ったのは最近で、谷崎潤一郎の「吉野葛」だったかと思う。作中で谷崎と目される男は吉野から熊野の山中を歩き回る。そしてかつてここに来たとき、母から「お前、妹背山の芝居を覚えているだろう?あれがほんとうの妹背山なんだとさ」とささやかれたことを思い出す。吉野は義経千本桜などもあり、歴史上の要地でもあり、多くの芝居の舞台なんだなあと読んだ当時は啓発されたものだった。

お末はまた、ご神体を三輪山とする日本一古い神社、大神(おおみわ)神社の里に嫁いだ。山の辺の道があり、大物主大神(おおものぬしのおおかみ)と倭迹迹日百襲姫(やまとととびももそひめ)の蛇伝説も有名。雰囲気を感じる土地だ。創作者の感覚に訴えるものもきっとあるんだろうと思う。

もうひとつ、「渦」の意味の一環。美人画の上村松園に影響されて能の謡曲を調べた時、あれ、これは歌舞伎や浄瑠璃でも聞いたことあるような?という演目がけっこうあった。そんなもんなのかな、と受け止めていたけれど、芝居小屋立ち並ぶ道頓堀の渦の下りを読んでストンと納得がいった。


にぎにぎしい関西弁、人情や仲間意識、想像できるにぎわしさ。


自分が大阪で社会人を始めた部署は皆でひとつの仕事にかかる所帯で、日常の行動も、老いから若きまでのメンバーが一緒の事が多く、なにかあれば、なんやねん、話してみい、そうなん、待て待て、ホンマか!となる、当時でも珍しいところだった。道頓堀仲間の騒がしさに懐かしい気持ちさえ抱いてしまった。関西の人はクセのある人ともうまあく柔らかく付き合っていく。半二と歳の離れた文三郎との関係にそんなところを見たりする。

「妹背山婦女庭訓」は蘇我入鹿や天智天皇、藤原不比等といった豪華キャストでファンタジーのような大河ドラマが展開され、後段は町娘、お三輪が主役となる。そしてファンタジー完結。なかなか複雑かつ壮大なドラマのようだ。

どこかで見てみたいな、と。また三輪山は訪ね登ったこともあるけれど、吉野はまだ未踏。妹山、背山を見に行こうかという気にさせられる。

奈良・吉野への旅の帰途、半二は道頓堀を自分が帰るところと定め恋しさを募らせる。読み手もそれはどこだろうか、と立ち止まって考える。大きな意味で、人生も渦。今に演じ継がれる作品と、芝居小屋や界隈の雰囲気、ほどよい妖気、なにより半二や正三のエネルギーが勢いがあり、美しくおもしろい。

関西弁で似たような流れの物語はあるが、今回は清々しさまで感じた。そんなひと品でした。

◼️ 椹野道流
「最後の晩ごはん 初恋と鮭の包み焼き」

地元ものラノベとホロリとする私。うまく泣かせてくれる。

このシリーズは若い頃に住んでいた付近が舞台で地理もよく分かるし、実在の店が出てきたりするので気に入っている。が、しばらく離れててストーリーがちょっと飛んじゃっている。シリーズものそういうの多数笑。

元アイドル俳優の五十嵐海里は兵庫・芦屋市の「ばんめし屋」で修行する身。大らかな店主の夏神とメガネの精で英国紳士風の姿に変身し店を手伝うロイドと暮らしている。

地元の先生と朗読劇に取り組む海里は不実な夫という役柄を理解できず悩む。解決のため、「ばんめし屋」の常連で朗読する話を書いた有名作家・淡海の取材に同行させてもらう。その際、ロイドが、淡海の愛する妹・純佳の霊の気配が消えていることに気づく。

料理、愛情、そしてネタは幽霊、というパターンの話。海里の母、兄や義姉も微妙にからむ。

今回は特に純佳が消える理由と淡海の心の持ちようが中心になる。死んだら消える、何もなくなる。基本はコミカルな展開ながらこのシリーズの霊の中にもコミュニケーションじたいが難しい場合もある。淡海はかなり幸せな、読み手には羨ましかったりするケースだったりもする、だが、だからこそ終わりが来る、と。

そのくだりはメロメロのメロドラマだったりするわけなのだけれど、やはりホロリとさせられる。

様々なジャンルの本を読む中で、ラノベにはホッとしちゃう部分もやっぱりあるんだな。豚ロース肉のはちみつ焼きと、地元のスイーツに惹かれたな。買いに行くぞっと。

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