2017年12月1日金曜日

11月書評の1

11月は、長くて色んなことがあって、すごくたくさん読んだ。おそらく単月新記録。

11月3日は息子の中体連の新人戦について行き、尼崎の公園で「アドラー心理学」読んでたな。


ウィリアム・シェイクスピア「リア王」


人の心は食い違う。親と娘、娘とその夫、王と臣下。悲劇の決定版。


ブリテンのリア王は3人の娘に領地と権力を分け与えようとする。しかし美辞麗句を述べた長女ゴネリル、次女リーガンに比べ、言葉の端を繕えなかった三女コーディーリアに激怒、勘当し、諌めに入ったケント伯爵を追放してしまう。一方、グロスター伯爵の庶子エドマンドは、後継の地位を手に入れようと、嫡子エドガーを陥れようとする。


で、全てを失ったコーディーリアは、それでも結婚を申し込んで来たフランス王に嫁ぐ。2人の姉はそれぞれ公爵に嫁いでいたが、財産と権力を委譲された後、王に冷たくなり、王は正気を失って彷徨う。さまざまな展開があった後、やがてフランスはブリテンに攻め入る、という流れである。


入り組んだ陰謀の網を上手く組み上げてるな、と感じた。ここまでそれなりに読んできて、陰謀と行き違いがベースというシェイクスピアのパターンはなんとなく掴んでいるが、単体、という感じのしたマクベスやオセローに比べ、だいぶ複合的で、俗人的だ。悲劇の要素が昇華している作品かなと思う。


狂気の王の彷徨と、エドガー、グロスター、ケント、エドマンドら脇役の動きと台詞が終息へ向かって緻密な演出を施しているかのようである。大衆演劇だが文芸的で、物語を超えたものが感じられる。


解説では、文豪トルストイがシェイクスピアの作品を嫌いだったという興味深い事実が述べてあり、トルストイに反論する形で分析がなされてある。


個人的に今年はシェイクスピアと太宰治を読み進めたが、世界とドメスティックというスケールの違いこそあれ、クセと天才性に、どっか似てるな、と思ったのでした。


望月麻衣「京都寺町三条のホームズ6

                             新緑のサスペンス」


いつもは短編がいくつか、という感じなのだが、今回は長編もの。謎の美術品盗難と女子高生誘拐事件。相変わらず、あっという間に読める。ラノベは文化だな。


京都寺町三条の骨董品店「蔵」オーナーの孫で鋭い観察眼を持つホームズこと家頭清貴と、アルバイトの女子高生の真城葵は晴れて交際することになった。そんな折、「仏」に絡んだ美術品の窃盗が相次ぐ。また探偵の小松が「蔵」を訪れ、娘の失踪の捜索をホームズに依頼するー。


ホームズ、小松、利休の探偵チームが大活躍、アクションもあって楽しめる。オトナの事情も絡み、カルトな団体も出てきて、あとがきに書いてあるような土ワイの世界。

全てが明らかになったのか、この先も何かあるのか、という感もあるが、まあエンタメでしょう。


以前からだが、基本は葵のモノローグだが、場面に応じて3人称だったり、他の人の1人称だったりを使い分けている。ちょっと興味深いかな。


まだまだ既刊があるから、楽しめそうだ。また京都観光の面も期待している。



アルフレッド・アドラー「個人心理学講義」


アドラー心理学の入門書的な本らしい。1929年の作品。ふむふむと読み込んだ。いくつか独特のキーワードがある。


10ページほどの章が13あり、劣等コンプレックスと優越コンプレックス、ライフスタイル、早期回想、共同体感覚という言葉を使い、さらに症例も引きながらアドラーが確立した個人心理学について説明がなされている。


幼児期の体験から、人のライフスタイルの原因を読み解いている部分が多い。主に人が人生の大きな三つの課題、すなわち交友、仕事、愛及び結婚に直面した時、それらを共同体感覚を持って適応しクリアして行けるかどうかをポイントとしている。正しいかどうか自信ないけど^_^。


ウィーン生まれのユダヤ人アドラーはフロイトと活動を共にしていた時期もあったが、後に袂を分かつ。ナチスの台頭によりアメリカへ活動の場を移した。この本はその頃の講義や講義ノートをまとめたもののようだが、編集者も作品成立の背景も分かっていない。しかし訳者によれば内容は『きわめて明晰なものである』とのことだ。


器官に劣等のある子どもの、興味の抱き方は興味深かった。また個人的には序盤の方にある『自分の行動や表現を信頼しないタイプの人がある。そのような人は、できる限り、他の人から遠ざかっていたいと思う。新しい状況に直面するところには行こうとはせず、自信が持てる小さな集まりに留まりたいと思う。』がちと効いた。なんか自分のこと言われているみたいーと(笑)。


実は心理学の本というのは初めてだが、子どもが図書館で借りて来たのでチャレンジ。人間の行動を分析、類型化するのも、症例もなかなか面白い。ちょっと小難しくて飲み込むのに時間もかかったが、ユングも読んでみようかな。


あさのあつこ「弥勒の月」


やばい、面白い。「バッテリー」のあさのあつこ、全くテイストを変えた時代小説。クセがあって、アダルト。


小間物問屋・遠野屋のおかみ、おりんの水死体が見つかった。身投げと思われたが、死体を確認に来た亭主の遠野屋清之介に、同心小暮信次郎と岡っ引きの伊佐治はただならぬ気配を感じ取るー。


謎の男・清之介と、向こう見ずだがデキる男・信次郎、年老いた常識人の伊佐治。この3人の絡みで話は進んでいく。


いやー、まず少年の小説のイメージにきっぱりと線を引くように、ややアダルトな出だし。そして、緊迫感あふれる清之介と信次郎のやりとり、間に挟まる伊佐治の演出がいい。息苦しいような、闇と光の演出の中、謎は深まっていく。


ミステリーとしてのプロットは、やや突飛な気もしたが、全編に流れる重い雰囲気と、やがて明かされる清之介と信次郎の思いが熱い。ある意味男臭いストーリー。


しかし、物語の底流を成すものは、女性らしいな、と思ってしまった。実は。


どこかであさのあつこは時代物もイイ、と聞いて読んでみたが大いに納得。シリーズで何冊か出ているらしいので、この閃きがどう展開するか、楽しみだ。




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