改めて今月はよく読んだ。19作品19冊。東京にいたころ、初めて単月10冊を超えて驚いたことが嘘のよう。トータルもおそらく新記録。来月末には年間ランキング!
あさのあつこ「夜叉桜」
時代劇シリーズ第2弾。鬱屈しているが、キレが素晴らしい。探して揃えようと思ってたら、文芸仲間の後輩が全部持ってますよ、と。めっちゃありがたい。
女郎が立て続けに殺された。喉を一斬りの手口で、同一犯と思われた。同心木暮信次郎と岡っ引の伊佐治は、新たな犠牲者が遠野屋の簪(かんざし)を持っていたことから、遠野屋の主人でもと武士の清之介を訪ねる。
いつもながら、世を倦み鬱屈した感情を暴走させがちな信次郎と、かつて人を殺めた凄腕の遠野屋清之介、そして間に入る伊佐治のバランスは素晴らしい。そして人の世の複雑さとやりきれない業の中にうごめく闇を正面から見つめた構成は息をもつかせぬ筆致を見せる。いやーアダルトで魅力的なエンタテインメントである。
貸してくれた後輩は、救いがないと、あまりいい感触を持ってないようにも見えたが、私はその部分に惹かれ、物語世界に入り込む。不思議な感覚だ。全体に暗いが、ただ予定調和で終わるものではない残滓があり、たまから、最後の光は、よく考えられた、よき展開だと思った。
いいですね。
鎮勝也「君は山口高志を見たか」
輝いた時期は短い。しかしちょうど記憶に残る豪速球。あのころの阪急はホントに強かった。
阪急ブレーブスに1975年から82年まで在籍した剛球投手、山口高志。プロ入り後、導入されたばかりのスピードガンでは153キロだった。しかし最も早かったという大学生時代は160キロは出ていたのでは、というくらい早かったという。
生い立ち、経歴を追った内容になっている。高校時代、ブレイクした関大時代、今でいえばドラフトの目玉的存在だったのに大学卒業時にはプロ入りを拒否したこと、社会人からの遅いプロ野球入り、それからの目覚ましい活躍、引退、指導者への転身。折々の出来事について、山口から聞いた短い一言とともに綴られる。滲み出るのは、良き人柄だ。そういう構成にして、伝えたいことを分かりやすく出している。
私は長嶋巨人1年目からプロ野球に興味が出て、阪急ブレーブスが日本シリーズで広島、巨人を倒すのをテレビで見て、その強さに感嘆していた。役者が揃っている。盗塁王福本、大熊、加藤、マルカーノ、DHの印象が強い高井、長池、ヒゲの森本、キャッチャー中沢、ショート守備職人大橋。投手も、足立、山田久志の両アンダースローに憧れ、山口には、なんて速い球を投げるんだと驚いた覚えがある。
1976年の日本シリーズで出て来たばかりの簑田が、上手いスライディングで生還したシーンはよく覚えている。そんな、昔の思い出が詰まった本でもある。
豪速球投手は見てみたいものだ。私が見たかったのは、最速時代の江夏や鈴木啓示、栃木大会5試合でヒットをほとんど打たれなかったという高校時代の江川卓。山口の記憶があるのは喜ばしいと思う。
語ってると長くなる(笑)。ともかく、先発、リリーフにフル回転という当時の風潮、当時のプロ野球チーム、選手たちも含めて楽しめる本だ。福岡人としては、平和台が荒れていた、という感想も懐かしい。小学生の頃観に行った試合では、ヤジが汚くて、ロッテの金田監督に、観客が水をかけて言い合いのケンカになっていた。
ちょっと記録偏重な感じや、切り口がまっすぐ過ぎるところ、新聞表記の野球用語(「左越え」とか)なんかはんーと思うが、全体として楽しめた本だった。
望月麻衣「京都寺町三条のホームズ7
贋作師と声なき依頼」
今回はひとつの区切りの巻。ラノベは文化。引き込まれて読んでしまった。
寺町三条の骨董品店「蔵」のホームズこと家頭清貴とその彼女で蔵のバイト女子高生・真城葵。ある日蔵に、贋作師でホームズの仇敵・円生が訪ねてくる。かれは白磁の香合を出してホームズに鑑定してほしい、と頼んだがー。
かつて何度も真贋を見極める「対決」をし、犯罪にも手を染める仇敵。2人の間には厳しい緊張感が漂い、時には身体で闘う。そんな2人は似た者同士で互いに嫉妬している。その両人の関係性に変化のある巻。
ちょっと一方的観点かもしれない。円生が妙に弱気でもあるし。ただ謎解きは面白く、グイグイと読む者を引き込む。いやーラノベは文化だなあ。栞子さんも面白かったし。
今回も高桐院行きたくなったし、松風食べてみたくなった。
区切りとはいえシリーズはまだ続く。まだまだ楽しめそうだ。

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