2017年12月1日金曜日

11月書評の2


だいたい11月の中旬には、夏物スーツコートなしじゃ寒いわそろそろ、となるものだが、今年は寒くなるのが早く、ダウンを早々に着た。中旬には美術展行った。北斎展ではえらい目にあった。歌川広重もかなーり良かった。


彩瀬まる「骨を彩る」


最後の短編には掴まえられてしまった。やっぱ女子系だなあと再認識。解説があさのあつこというのも不思議な偶然。


不動産事務所を営み、10年前に妻を亡くした津村成久は中学生の娘・小春と2人暮し。実家の弁当屋を手伝っているバツ1の相川光恵とたまにデートしている。成久は最近よく妻・朝子の夢を見る。夢のに出てくる朝子は、なぜか手の指が欠けているのだった。

(「指のたより」)


こう書くとグロそうだが、全くそんなことはない。成久、光恵、その学生時代の友人玲子、成久の事務所に勤める浩太郎、そして小春をそれぞれ主人公にした短編集。


それぞれにどこか鬱屈したものを抱え、日常の現実に向き合う。もちろん展開に波はあるが、いわば普通の人たちのエピソードを淡々と描いている。最初はその穏やかさに読みやすさを感じたがそこまで強いものは感じていなかった。タイトル通り「骨」を意識させる要素がさりげなく散らされている。


しかし、小春が主人公の「やわらかい骨」は、その抑えていたものが一気に解放されて、普通すぎるのが逆に説得力となって、もどかしさがリアルで、心を攫われた。ほろり。ラストもきれいだった。


巻末のあさのあつこの解説が、まるで緩やかな小説集のひとつのピースとなる事まで意識してか(笑)、めっちゃ熱かった。


デボラ・インストール

「ロボット・イン・ザ・ガーデン」


本屋でよく見かけるな、というのを貸してもらった。う~ん、そこそこってなとこか。


家事などの仕事にアンドロイドが就く風潮のイギリス。獣医志望だが親が遺した家で漫然と暮らすベンと、弁護士のエイミー夫婦の庭に、ある日レトロなロボット、タングが座っていた。タングを気に入り世話を焼くベンに、エイミーはいらいらし、やがて離婚を切り出し去ってしまう。失意のベンは出所不明のタングを修理すべく長い旅に出る。


だらしないベンが、幼児並みの知能を持ったタングと世界をあちこち放浪しながら成長する、という物語だ。タングも成長してかわいく見えてくる。


サクサクと読んだが、ややまだるっこしい感があるのと、微笑ましい雰囲気には浸れるが、新しいものはあまり感じられなかったな。


タングの愛らしさは人気を集め、諸国にも翻訳されているらしい。やがて続編や映画が出るか、といったところらしい。


ふむふむ、これが新たなトレンド?と思いながら読了した。トレンドって言葉も古いな(笑)。


島本理生「七緒のために」


14歳、女子の友情。危うく、理屈どおりではない感情。解説は村田沙耶香ってのがマッチしてるな。


神奈川の私立中学で孤立し、東京の中学に転向してきた雪子は、同級生でやはり浮いている七緒と仲良くなるが、やがてその言動に振り回されるようになるー。


中学生の「七緒のために」と、高校生の友情もので短い「水の花火」を収録した一冊。


あとがきで本人が「女の子同士の濃密な友情を書くことは、ほとんどありませんでした。」としている通り、島本理生と言えばあまり成熟していない世代の恋愛小説に特徴がある。


女性作家であればどこかで書くテーマではあるが、「七緒のために」はちょっと読んでいて痛く、救いがない。我が身を振り返っても、中学生の時は色んなことがあったけど、そう理屈どおりに解決したかと言われればかなり違う。でも、この「寄り添うほどに互いを救えない少女たちの物語」(あとがきより)はまた、小説的リアルさを肌で感じさせる。


んー、暗くなるしあんま好きではなかったかな。でも痛いということは響いたということか。表現もあまり今回は好きではなかった。


「水の花火」は痛いんだけど穏やかなベースで好ましいので、この組み合わせはいいかも知れない。高校生デビューを果たした当時の作品らしく、みずみずしい。


天才・島本理生の作品は、これまで「リトル・バイ・リトル」「シルエット」「生まれる森」「ナラタージュ」と読んできた。映画で話題の「ナラタージュ」はまた違ったが、他の3作は好みだった。今回は、ちょっと異質だったかな。


阿刀田高「旧約聖書を知っていますか」


大学で「ドイツ語の最初歩」というテキストがあったが、阿刀田氏のこのシリーズはまさに最初歩だ。


旧約聖書の、アブラハムの旅から、その孫で子だくさんのヤコブ、さらにその子のヨセフの話、モーセの出エジプト、ダビデとソロモンなどの話を阿刀田流に、優しく、オモロかしく解釈している。サムソンとデリラ、ダビデとゴリアテ、そして創世記ではアダムとエバ、カインとアベル、ノアの方舟にバベルの塔も出てくる。


聞きかじってはいたものの、体系的な知識がなかったので、ほおほお、ふーんと読み込んだ。サムソンとデリラなんて古い映画のタイトルにあったけど、なんの話か知らなかった。


改めて時代の古さにも驚いた。アブラハムが旅を始めたのは紀元前18世紀。いやーすごいですね。


ひとつ告白すると、旧約聖書と新約聖書って何が違うのか今説明せよ、と言われたら・・ってなとこだったんで、故事とともにユダヤ教徒とキリスト教の立ち位置も再認識できた。


絵画を見ていると、色んな場面で聖書に基づ

くモチーフがある。よく描かれている、スザンナの水浴と2人の老人の話も出て来てへー、と思った。


阿刀田高は「ギリシア神話を知っていますか」「コーランを知っていますか」と来て、これがシリーズ3冊め。また読んでみよう。




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