◼️ 松岡圭祐「écriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅺ 誰が書いたかシャーロック」
ベテランらしい技を効かせたエンタメライトノベルになっている。
「ミッキーマウスの憂鬱」でやるな、と思い、そして「シャーロック・ホームズ対伊藤博文」の2つでシャーロッキアンものもおもしろい、と感じた。あまり数読んでないけども、著者の印象は良い方だ。
この人気シリーズ11巻めはホームズものと聞いて興味を持っていた
初めて書いた純文学作品で直木賞候補となった杉浦李奈25歳。注目度が上がっていた折、英国文学史検証委員会よりある話が舞い込む。ホームズもの長編「バスカヴィルの犬」はドイルと仲の良かった作家フレッチャー・ロビンソンの作ではないかという疑惑がずっとあったが、このほど彼が書いたとされる同作とほぼ同じ内容の、当時の原稿が見つかったという。聖書の次に読まれていると言われるシャーロック・ホームズ。その代表作は丸写しか?海外の研究者が検証を行っている中で、日本では李奈に原稿の真贋を見極める依頼をしたいという。
そして申し出を受けた李奈の前に巨大な犬がー。
最後に実施したのが2012年といささかデータが古いが、日本シャーロック・ホームズ・クラブ会員による過去3回の人気投票で全て1位を獲得しているのが「バスカヴィル家の犬」だ。「四つの署名」も好きだし、短編に好きな作品も多いけども、私も異論はない。荒寥とした土地、古代人の住居遺跡も残る原野のダートムア。殺人に犬の足跡がからむ。途中の盛り上げも良く、クライマックもまあスリル満点だ。
つい前振りが長くなってしまう。さて、実をいうと、ネタはこれか・・という、どちらかというと乗れない気分だった。シャーロッキアンなら耳にする、言ってみれば盗作説。いかにも事実のように書いた人の文章を、私も読んだことがある。ホームズ物語の穴を突くのは楽しいシャーロッキアン遊びだと微笑ましく見守っている。が、時々なあんか悪意を感じることもある。
ともかく、直木賞候補、そして「バスカヴィル家の犬」の著者がひっくり返るかも、という仕掛けから、なんと魔犬が・・当然イギリスへ。だんだん悪は姿を表し、大ピンチ!となる。間に女性同士の友情や李奈の強さ弱さをはさみ、コミカルな部分も入れる。何よりしっかりとした謎解きが待っている。
シャーロッキアン的な知識も小粋に入っている。そして李奈の口からおそらくは全シャーロッキアンが思っているであろう言葉が出てクライマックス締めとなる。アンチも結局はファンだし、そもそも100年以上も前の創作。本質を研究することは大切だが、断定できないものには夢を抱いてもいい。私の乗れない気分をある程度吹き飛ばしてもらった。
たくさんのシリーズをものしている作家さんならでは、熟練の展開、骨組み、という気がする。ラストは凝りすぎです笑読んでのお愉しみ。
大きな流れには関係ないけども、違和感のある部分が。劇中、待て、よし、をしてエサを食べている犬にもう一度待て、で食事を中断させ、エサの入った容器を持って移動するシーンがある。専門的な裏付けはないが何十年も犬を飼った経験で言えば・・犬は現金だ。ご飯のために待てと言われれば飼い主以外の命令も聞くかもしれない。しかしいったんよし、をかけてしまうと食事を中断するのは難しい。待て、もきかないだろう。それこそ飼い主でもない人の命令だし。ましてやエサの容器を動かそうとすると自分のぶんの食べ物を取り上げられまいと攻撃的になることが多いと思う。もちろん私が未熟な飼い主だったからかもしれないからで汗、きちっと訓練された犬には当てはまらない可能性はある。
まあ結局は楽しんでしまうのはやはりホームズもの好きだからでしょう。松岡圭祐の違いをつくる力を、今回も再認識したというところかな。
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