◼️ 泉鏡花「二、三羽――十二、三羽」
小さく可愛い小鳥との触れ合い、愛らしさが余すことなく描かれているが、泉鏡花、それだけでは終わらない。
webで本の情報を拾っているうちに泉鏡花に行き着いた。どうもこの話は佳作らしい。さっそくどれどれとのぞき込むー。
庭の飛び石をふよふよと歩いていた仔雀を捕まえ、ざるで囲った。すると親雀がエサを口に飛び回り、かといって与えるでもなく、出ておいで、とでも言うようにざるの周りをチョコチョコする。仔雀はキイと鳴き縋って、胸毛を震わせ抱きつこうとする。主人公夫婦はしみじみ、いとしく可愛く思う。もちろんざるは開けて放してやった。さらには後日つつじの枝の籠ったところに仔雀が独りでいるのを見つけ、野良猫なんぞに襲われないよう、夜通し見張ってやった。
気にかけて過ごすうちに、やがて仔雀は成長し、群れに紛れて、見分けがつかなくなったがその後も心根優しく雀を観察、幾組もの親子を見る。
「仔雀が、チイチイと、ありッたけ嘴を赤く開けて、クリスマスに貰ったマントのように小羽を動かし、胸毛をふよふよと揺ゆるがせて、こう仰向いて強請(ねだ)ると、あいよ、と言った顔色(かおつき)で、チチッ、チチッと幾度もお飯粒(まんまつぶ)を嘴から含めて遣る」
雀たちに日がなご飯粒を置いておくようになった家は当然雀の出入りが多くなり、時に手で捕まえて、ぐったりしたのをすわ、ケガしたかと心配すると、居眠りしてただけで飛んで行ったりする。図々しく屋内まで入ってくるのに、明るい色の花が咲いたり、雪が降ったりすると何かを恐れて寄ってこない。仔雀が独りで飛べるようになると親雀がどこかへ姿を消すことに気づく主人。
さて炎天下の季節、散歩に出かけ、語り手の主人が「スズメの蝋燭」と心中で称し子どものころよく摘んだ「ごんごんごま」(ヤブガラシか)を探しに出かけ、でっぷり太った男が住む谷間の一軒家に迷い込む。若くきゃしゃで色白の女もいた。
紅い糸、針、白い肌ー。ここからは鏡花特有の妖の世界。前半の観察眼、描写力もさすが。でもそれだけでは終わらない。いいねえこの組み合わせ。そして関東大震災・・
泉鏡花はおもしろい。題材は足元にいくらでも転がってるよ、と言わんばかりの展開と、ファンタジックを混ぜエロチシズムまで覗かせる。まだまだ楽しめそうだ。
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