2025年2月12日水曜日

2月書評の2

◼️ ドリアン助川「確かなリスの不確かさ」

少し哲学のスパイスをまぶしたさまざまな児童用動物短編。生態も物語も興味深い、おもしろい。

興味津々で最初の方を少し読んでまず思ったのは、そうだ、この人は悲しい物語を書く人だったかな、と。「カラスのジョンソン」のイメージが蘇った。かつてシートン動物記で「野生の動物が自然死を迎えることは少なく、なんらかの悲しい最期となる」という意味の文章を読んだことを思い出す。

ただ、それも大いなる自然の法則だ。その中でこそ、著者は今回、生態、特徴を辿ったりする中で主人公の動物に考えさせる。各話タイトルにワクワク心が刺激される。各話最初のページにその動物の解説と銅版画が挿入されている。

「確かなリスの不確かさ」タイワンリス
「ボスも木から落ちる」ニホンザル
「コウモリの倒置君」ニホンウサギコウモリ
「モグラの限界状況」モグラ
「バクの茫漠たる夢」アメリカバク
「転がる小さな禅僧」ミツオビアルマジロ
「飛べない理由」コウテイペンギン

ほかで計21話。ツキノワグマやキツネといった日本にも生息する身近な動物からウルグアイのウルグアイの森のオオアリクイやアンデスの高原に住むラクダ科のビクーニャ、ガラパゴスのゾウガメなど世界サイズ。

物語は独創的。グループが過ごす森が高速道路に面しており転落、事故に遭うことを防ごうと「木に登ってゆするな」というルールを厳格に守らせようとする新ボスのボツ、どんぐりが落ちていく場所と落ちる範囲から「不確かさから成る確かさ」を考えるリスのQ青年、暗い洞窟を出て、初めて見たきれいな昼の世界に幸せについて考えるコウモリのトーチくん、バクの夢と悩み・・時折哲学的な要素がからむ。

我が子を探して浅瀬に迷い込んだ母クジラと少年、ネズミとアリクイのユーモラスなコンビ、100歳を超えるゾウガメと人間の世界の時間ー、アルマジロも良かった。冒頭に書いたように大半は喪失ー悲しい死が描かれている。

よく思うが、人間には言葉がある。何かを残せる可能性がある。しかし動物が主人公の時、自然の摂理の前ではその個体の事情などは顧みられないし、遺らない。だからこうして物語となった時に際立つ特殊性を持っている、のかも知れない。

動物たちの会話に突然フランス語や焼き鳥のタレと塩の例えが入ってきたりとクスリとなるのも好ましい。

そして人間たちの脅威と愚かさも多くの篇に表されている。さまざま、楽しめて、知的好奇心をくすぐられ、ん?と考えさせられたり、ああ・・と哀しくなったり。児童用とはいえ、著者の奥深さを感じたのでした。

良い読書でした。

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