◼️ 吉村昭「島抜け」
種子島に遠島刑となった講釈師の数奇な運命。
吉村昭氏の著作はたしか「プリズンの満月」が最初だったと思う。事実の詳細な記録をもとに淡々と述べていくそのスタイルはまさしく大きな特徴をなし、人を惹きつける。
大阪で売れっ子の講釈師だった瑞龍は、反幕府的な講釈をした科で捕らわれ、水野忠邦の改革の余波を受けた形で遠島という重い刑に処せられる。流刑地は種子島。重労働や飢え、厳しい監視もなく、ただこの地で果てるのを待つだけの日々。ある日、受刑者だけの4人で海岸の小舟に乗って釣りをしているうちに逃亡を決意、嵐に遭ってはるか異国・清に流れ着く。
幕府と交易のある清は瑞龍らを丁重に扱い、ついに日本への帰還に希望が開けるが・・
流刑の話はいくつか読んだ。おおむね締め付けは厳しくなく、ただ恩赦などがない限り死ぬまでそこにいなければならない。タイミングの悪さに掛かってしまった瑞龍は逃亡、また逃亡の日々を送る。運命の歯車が噛みちがえた時から数奇な後半生に踏み入ってしまった。たまたまのチャンスが何度も転がってくる。縋って当座うまくいっても、ついて回るものがすでにできてしまっていた。
世相、流刑人の境遇、島の生活から点々と異国の島を回りついに通詞のいる場所へ。著者は記録と取材をもとに詳しく、そしてやはり淡々と語る。もちろん遠い過去のことではあるけれど、このそこはかとなく迫るものはなんだろう。ただリアルさとも違うような、独特のものを感じる。大仰さが微塵もないからか、読み手は信じる、信頼する気にさせられる。
「羆嵐」「破獄」「アメリカ彦蔵」「戦艦武蔵」「高熱隧道」・・もっと読んだかな。それでもまだまだ楽しみがたくさんある。
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