◼️ エマニュエル・ボーヴ「ぼくのともだち」
不器用、瞬時の感情、思い込み、されどロマンス。マイナス部分は読み手に染み入る。
書評を見て興味を持った。フランスで人気ある作品だそうだ。1924年に出版されている。主人公は第一次世界大戦に兵として出征、腕にけがを負って恩給をもらっている。仕事はない。
国は違えど、シャーロック・ホームズと出会う前のワトソンも軍医として駐留していたアフガニスタンで負傷し帰国、軍からの支給金で暮らしていた。生活が苦しく、部屋をシェアする相手を探していたところ、ホームズに行き着いたことを自然思い出す。短いながらもその際のワトスンくんの孤独感、人生これからといった時の負傷で、寄る辺なき寂寥感が印象深かった。
横道にそれた。彼、主人公のヴィクトール・バトンは貧乏であることに引け目を感じている。万事おとなしい性質ではあるが、心の中では友だちを熱烈に欲している。
やじ馬の人だかりで見ただけのボヤールという男と友人になるべくあれこれと考えて動く。しかし結局はうまくいかない。
裕福な実業家に気に入られたり、自殺志願者の面倒をみたりする。良い結末は来ない。さらには全編に渡って、良きにつけ悪しきにつけ、女が絡んでいる。バトンは惚れっぽくて思い込みが激しく自分を意識していると思い込んですぐ動く。これが長くはない劇中でも意外やロマンスも生まれる。しかしながらこのあだな性質が大失敗の主因になったりする。逆に説得力があるな、という気になる。
全体としては変な考え方、性格、不器用のためにだいじなところでうまくいかないふうな物語ではある。しかし彼のプライド、高慢、そして少しその深淵も見える。見限って立ち去ったり、うまくいっているのに自ら離れたり、食事をおごってマウントをとりたがる。
しかしというか、だからというか、読み手はこのおかしな男を突き放してしまえない。えーこんなふうに思う?どうしてこう動く?なんでかなー?しょーもない、と文面を目で追ってすぐ心で頭をかかえるけれど、独りで行動してるとき、突飛な考えにとらわれて、後で考えれば無駄の多い動きだったな、ヘンなことにこだわってたな、とか恥ずかしくなることも現実でやっぱりある。
そして善良で控えめと強く信じ、しかし社会の下層にあえいでいるバトンのなけなしの自意識には、眉をひそめながらも自分や周囲に投影してしまう感覚を抱かせる。訓戒めいた寓話のようなメッセージをも放つ物語。
ヘミングウェイは「日はまた昇る」で第一次大戦後の若者の退廃感を描いた。この時代のパリにはそんな空気もあったのだろうか、サッカーの日本代表ゴールキーパーに関する記事で、たとえば買い物に行くときでもふだんから判断が妥当で、無駄や迷いがない、という評があったな、なかなかそうはいかないよな、
なんてあちこちに空想を飛ばしているうちにバス停乗り過ごしそうになって慌てて降りた笑。
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