同級生や読書友の薦めにより映画「PERFECT DAYS」を観に行きました。
人にはそれぞれ快い生活のルーティンがある。一定の行動様式、好きな食べ物、ほっとしたり知的好奇心を満たす場所、記憶に残したくなる風景を持っている。そして長く生きていると、どこかに変えようのない葛藤も抱えていたりする。
長い期間の1日1日にはインシデントによるさざなみ、何かを喪失してしまう現実が連なる。
ドイツの巨匠ヴィム・ヴェンダースが人生の美しさを描いた作品。主演のトイレ清掃人・平山を演じた役所広司はカンヌの最優秀男優賞に輝いた。
テレビで、役所広司が東京のトイレ清掃人の日常を描く映画、くらいの紹介を観たことがあったが、あまり気にしていなかった😅私としたことが。
平山が掃除をするトイレが建築的に興味深く、東京スカイツリー近くの下町の切り取り方が素晴らしい。また、アキ・カウリスマキもそうだが、名監督は音楽を有効に、楽しく使う。居酒屋のおかみ役が石川さゆりで実にしっとりしてチャーミング、歌まで披露する。カンヌの人々はどう感じたのだろうか。
平山が熱心に読み込むのが幸田文の「木」。幸田文は私の中でベスト・エッセイストで、この本は木に対する思い入れ、研究、行動が綴られている佳作だと思う。
人生の蹉跌と、日常の美しさ。誰もが持っているもの、そして日々の移り変わり。演出は小粋、ストーリーは淡々。観客が胸の奥で受け止めるような虚しさと希望を放ってくる。
滋味掬すべき映画ですね。観た後、少し心持ちが変わった気がする。これが表現の目的の1つだよね、としみじみ。映画って、やっぱりおもしろい。
◼️ 藤井旭「月と暮らす」
円でなく、球体と見ると想像が広がる月。その姿、月のある風景、ちょっと科学。暮らしの中の月をまとめた本。
月って何かの象徴だったり、幻惑のもとだったり、神秘的だったり、あはれを誘うものだったりしますよね。月の知識を整理したり、また啓発されたりするのが愉しい作品でした。
山の月光、海の月、月の道、夕暮れの月、惑星と月、三日月の地球照と、カラー写真の多い構成、まずはさまざまな月のシーン。次は満ち欠けを月齢0、新月から次の新月まで、朔望月の期間月齢ごとに見て、様々な知識を散りばめていきます。三日月は本来月齢2の細い細い月のこと、春の三日月は高く秋の三日月は低い。弦月、片割月、月の弓、月の舟などと呼ばれる上弦の半月。
コペルニクス・クレーターに北寄り虹の入江のムーン・レディ、満月の少し前の十三夜は栗名月、黒っぽい玄武岩質だから月全体での反射率はわずか7%だそう。満月は半月の10倍以上明るい、十六夜いざよいに立待月、居待月、だんだん月の出が遅くなると寝待月、臥待月、月齢20、午後10時ごろの月の出で更待月、やがて有明けの月、暁月。月齢22で下弦の半月。特定の月齢に対応する神様をその月の出を待って拝む月待ち信仰。二十六夜の三日月を待ってオールで宴会するのが江戸時代に大流行、ついにお上の取り締まりの対象になったとか。晦日は月ごもり、陰暦から来ている、などなど。
この1月は未明から早暁に水星が見ごろ、私もこの稿を書いている日の朝に目視観測、スマホで写真を撮った。宵の明星が細く鋭い三日月とランデヴー、いやなんかSFチックで地球以外の星にいるような気分でした。
月齢の後もまだまだ続きます。月の光で出る虹、月虹、ムーンボウ。雨を呼ぶ月暈(げつうん)、日食金環食月食に星食。月のことば、月に叢雲、花に風、鏡花水月、ブルー・ムーン、ゲーテ「ファウスト」のワルプルギスの夜、魔女の酒宴には血のように赤い片割月。
そうそう、星月夜、とはそもそも星づく夜のことで月がなく、星が明るく輝く夜のことだとか。ゴッホの絵には月が皓々としてますよね。あれ?😆
奥の細道、西行に徒然草の花はさかりに、月はくまなきをのみ、みるものかは。私の好きな宮沢賢治「月夜のでんしんばしら」、竹取物語に源氏物語、枕草子の月、月はありあけ。
月の観察、知識、月にまつわる文学など様々に取り上げている。
私的には、なぜ太陽と反対に、月は冬は高く、夏は低く昇るんだろう。地球に対する軌道面が変わるわけでもないのに、という長年の疑問に、月の公転面もまた地球の赤道面に対して23.5度傾いていると知りなんか納得した。
月は太陽系で6番めに大きい衛星。火星には2つの小さい衛星があるものの、やはり巨大惑星に圧倒的に多い。中で地球という小型の惑星の1/4サイズの月は、つまりは異例なくらい大きい。だから地球が安定していることも復習、文芸的にはいつも、月より少し大きい、いわるゆガリレオ衛星たちから見た巨大な母天体、空一面を覆い尽くすような、インディペンデンスデイの侵略戦艦のような光景を想像する。確かオールタイムベストSF「星を継ぐもの」で描写があったような。それが土星だったらどうなんだろう。タイタンから土星はどう見えるんだろうか。あ、大気が厚かったっけ。
だらだら書いて来ましたが、良寛さんの歌で締めたく思います。とても興味深い本でした。
ひさかたの月の光のきよければ
照らしぬきけり唐も大和も
今も昔も 嘘も誠も
気がつけば鬼束ちひろ「月光」を口ずさんでいた。気分やね。
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