◼️遠野遥「浮遊」
ふむふむ。純文学系もたまにはいいかも。
芥川賞作家の130Pくらいの小説。ゲームの続きを読みたくなる。書評で見かけて興味を覚えた。
高校生のふうかはITベンチャー企業のCEO、碧(あお)くんと暮らしている。父親からはときおりLINEのメッセージが届く。心配して、寂しがってはいるものの、かなり気を遣っているようだ。碧くんの部屋、前の恋人が残していったマネキンのある一室でふうかは深夜新しいゲームを始める。
記憶を無くした高校生の女性が、夜の町を彷徨う。ヒントになかなか辿りつかないRPG。悪霊が出てきて首を絞められたらゲームオーバー。なんどもコンティニューして、続ける。到達するのはどこで、どういう状況で、自分は何者なのかー。
どこか壊れた世界ー。優しくてお金持ち、料理も作る年配の成功者は女子高校生を恋人にして同棲している、女子高校生の家庭には問題があったらしく、父親はひどく腰が引けている。病院に行けば延々とおかしなことを喋り続ける女性がいる。穏やかなようでいて、目の前の事象も理解できている中での、ズレはノイズとなって読み手に低く響く。
もう一つの本編、ゲームの世界の成り行きが興味を惹きつける。闇を手探りしてるような感覚、たった1人の協力者もどこか異質。
終わり方にもディストピアもののような空気が漂う。ふむふむ。サクサクと読めた。
どこまでを「出し」て、ほかをそぎ落とし読者に任せるのか、というのはある種永遠のテーマかもしれない。小説にしても映画にしても。観る人、読む人、それぞれ独自の想像を膨らませる楽しみというのも確かにあると思う。
そしてやはり足りない、と思うのか、これがいいと断じるのかもまたバラバラだろうと思う。その時の気分にさえ左右されるものでもある。
本書はタイトルが示す通り確かに浮遊、その意味合いは醸し出されている。スリムで、暗示される、まさに見えないものが大きく思える。
一方でちょっとスケールが小さくもう少し練ることができそうな気もする。よくある日常の些事の描写もやや稚拙かな。謎をすべて説明すべしというわけでは全然ない。
あと塩やしょうゆのちょい足しで、ひと刷毛の彩りで変わりそう・・そのへんもおそらく過去から続いてきた楽しい文学的予感なんじゃないかなということで。。
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