2023年12月9日土曜日

12月書評の2

◼️ トルーマン・カポーティ
   「クリスマスの思い出」

無垢な日々と喪失の哀しみ。胸を衝かれる。

昨夜寝る前に読み始め、朝の電車で読み終わった。ダメだよ、朝からこんなにツーンとさせちゃ。哀しい。

7歳の僕は、60歳を過ぎている遠縁のいとこのおばあちゃんと、ラット・テリアのクイーニーと、親戚の大きな屋敷の片隅の小屋で、蔑まれながら暮らしている。

11月になると楽しみがやってくる。毎年おばあちゃんは30個のフルーツケーキを焼くのだ。貧しい中、がらくた市や懸賞応募、手作りのジャムや詰んだ花を売ってなんとかこのためにお金を作る。そして乳母車を押して買い出しに行き、禁制のウイスキーも入手する。今年は代金はいらないからフルーツケーキを1つくれ、と怖い密売人に注文を受けた。

クリスマス前になると野生の七面鳥やビーバーがいる秘密の森へクリスマスツリー用のモミノキを切り出しに行って運んでくる。

町の人たちも目を見張る木を引きずってきて、手作りの飾り付け。クリスマス当日は親戚の人からのなけなしのクリスマスプレゼント、そしておばあちゃんと僕のプレゼント交換、クイーニーへのプレゼント。

晩秋から冬の、心暖まる物語。周囲には悪意が見え隠れする。カポーティ自身幼い頃に遠縁の親戚をたらい回しにされ、同居人の中には高齢者らもいたという。寒い世界の片隅で、まるでオレンジの灯りの中に浮かび上がる幻想は、やがて少年が寄宿舎に入れられて終わりを告げる。もうエピローグは哀しすぎてかなわない。

心に持っている幼い頃の幸せな風景と、喪失と、哀しみ。誰しも一生背負っていくものかもしれない。ここまでの苦労をしていない者にも共通するだろう。私の場合は曽祖母、祖母、祖父、母。自分のことを気にかけてくれる、温かい時間を過ごした人たちを失う遠い哀しみが胸に迫る。

名作だと思います。

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