2023年12月31日日曜日

年末のご挨拶

今年の振り返りは十分やったので😎近況とご挨拶。早々に年末年始休みに入り、のんびりと過ごしてます。妻帰省で息子の面倒を見つつ。昨日もカップ焼きそばをひっくり返してくれたりして、手間は尽きません😧さっき徹夜朝帰りの初詣でに出掛けて行きました。

🏀ウィンターカップが終わり、年明けの🏐春高バレーに切り替えるべく「ハイキュー‼︎」春高バレー編を一気見してます。全25話?でもじっくり観られてなかなか愉しい。体制十分ですね〜。

プレゼント当たったりなどでいま図書カード的小金持ち。最近出たシャーロッキアン本を買っちゃいました。積読ばかり増えてます。

子供の頃灯油ストーブで焼いたお餅を砂糖しょうゆで食べてたな、と思い出してオーブントースターでやってみたらこれがウマイ!この1袋中身多いなと思いながら買ってきたお餅がたぶんなくなるでしょう。休み中食べてそう😋

年越しそばは温玉そばにしてみました。そばのパックに作り方があって簡単そうだったからパッと作ってさっと2人で食べたんだけれども付け合わせのつもりで買ってきた天ぷらを食べるの忘れて明日どこかのおかずになりまする。

今年改装工事からようやく姿を現した神戸の象徴ポートタワー、営業は春から。やっぱり神戸はこのビジュアルっす。もうコンサートや舞台のチケットは春のものを買っていて、読む本も来年の予感をすでに発してます。2024年だなんてホンマ信じられない。チョー未来は現実に。

また来年も新たに見えるものがあると不安を帯びた期待を心に持って、静かに年越し。

今年もお世話になりました。良いお年をお迎えください。

年間ランキング2023!

【2023年個人的読書ランキング】


毎年恒例、年間の読書ランキングです。今年は167作品を読了しました。特に年の後半イベントが多く、文芸的に新しいチャレンジもして、忙しく楽しい日々でした。一方Xで読書垢なぞ始めてしまい、正直ちょっとスマホ病で特に土日の読書時間が減ってます。


まあそんな状況の中、2023年の1位は・・


⭐︎⭐︎カズオ・イシグロ「クララとお日さま」⭐︎⭐︎


でした。悩むことなく決まりました。


人間ではなくアンドロイドの児童用親友という最底辺の視点から、慌ただしく子どもの心が蔑ろにされがちな社会を描き、またファンタジックな超能力をも創出したことが大きさと深みを感じさせました。強いアンチテーゼと隠喩を含んでいたと思います。胸に迫る喪失と無常感もありました。


では以下、ランキングです。


2位 入江敦彦「テ・鉄輪」

3位 芝木好子「湯葉 青磁砧」

4位 植松三十里「帝国ホテル建築物語」

5位 坂本龍一「音楽は自由にする」


「テ・鉄輪」は能の謡曲で好きなモチーフであることに加え京都の怪異を素晴らしい形、独特のゾクっとする感覚、で表していたと思います。

芝木好子は正統派です。「青磁砧」にはともかく唸りました。半ば狂気と、なんと言っても音の描写が良かった。

「帝国ホテル」世界的建築家フランク・ロイド・ライト大好きで、今年は自由学園明日館を観に行きました。関西の「甲子園ホテル」とのつながりも興味深くて、今年ハマったものの1つです。

坂本龍一死去には凹みました。本も読んだし、テレビの追悼番組も観たし、「戦場のメリークリスマス」も観に行きました。この本、とてもおもしろかった。


6位 二宮敦人「最後の秘境 東京藝大」

7位 梯久美子「サガレン」

8位 永井沙耶子「木挽町のあだ討ち」

9位 ポール・オースター「闇の中の男」

10位 泉鏡花「春昼」「春昼後刻」


今年は宮沢賢治を題材とした「銀河鉄道の父」が映画化されたこともあり、新しくできた古書店の店主さんが宮沢賢治ご専門の先生だったりして知見を深めました。「サガレン」すごく興味深かった。実弟の宮沢清六「兄のトランク」も良かった。泉鏡花の最高傑作、さすがに色彩もおどろおどろしさもサイコーでした。ランクに入らなかったけども樋口一葉「闇桜」もとてもGOODでした。


11位 アーデルベルト・フォン・シャミッソー

  「影をなくした男」

12位 伊与原新「オオルリ流星群」

13位 佐藤ゆき乃「ビボう六」

14位 林望「夕顔の恋」

15位 藤田真央「指先から旅をする」


16位 トルーマン・カポーティ

 「クリスマスの思い出」

17位 山崎豊子「ムッシュ・クラタ」

18位 長野まゆみ「45°」

19位 呉勝浩「爆弾」

20位 桜庭一樹「青年のための読書クラブ」


名建築巡り、京都散歩、クラシックのコンサートもよく行き、夏にはバスケットボールワールドカップを観に沖縄に行きました。思い出深く、よく動いた年。読書もまたこうして見返すと大変興味深い。


来年も、読むぞ〜!







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2023年12月30日土曜日

12月書評の10

あっという間にクリスマスも過ぎ・・年の瀬です。ウィンターカップ決勝は想定外の福岡決戦となり福岡第一が福大大濠を下して2019年以来の優勝。ベスト5は第一から崎浜、山口、世戸、大濠から渡邊伶音、広瀬が選ばれた。

まず準々決勝、インターハイ王者の日本航空が土浦日大に負け、東山を福岡第一が大接戦の末退け、藤枝明誠が開志国際に勝った。大濠を除くシード校3校がこの日に負ける奇跡。決勝は福岡同士、宿命のライバルの激突🔥となった。

両チームが公式戦で戦うのは今季8回めだという。インターハイの中部地区大会、県大会、九州大会、ウィンターカップの地区大会、県大会に日清トップリーグ。新人大会も入ってるのかな。だとしたら数は合う。ともかく第一の6勝1敗。大濠の唯一の勝ちはウィンターカップの県大会で、この時第一はエース崎浜が出ていない。

どこかこの大会、ギアの上げ下げが多く、慎重に試合を進めた第一はこの試合、序盤からギアをトップに入れ福岡第一イズムを前面に押し出してきた。走る、しつこく速く守る、相手のターンオーバーを誘う。常人離れしたスピードの、堅守速攻で大濠はアジャストできず、前半で大差が付き、守り切った。去年は準優勝の第一、今年は笑うことができた。感動の連続。また必ず来年も観る。



◼️ジェイムズ・ラヴグローヴ
「シャーロック・ホームズとミスカトニックの怪」

技巧を駆使した壮大なパロディ。これも楽しみ方の1つ。「緋色の研究」などと同じく2部構成となってます。


近代SFが育んだクトゥルー神に絡むものたちとホームズとの戦いを描く3部作の2作め。私は第1作である

「シャーロック・ホームズとシャドウェルの影」

の書評でこう書きました。

「熱のある力作で引き込まれることは確か。個人的にはいかにぶっとんだ設定であっても、そこにシャーロッキアン的風味をいかに入れていくか、が好みの面白みですね。これは3部作だそうで、次作はその点もう少しよろしくお願いしたい感じです。また、設定は今回1880年の15年後、「空き家の冒険」の翌年になってるとか。最近洋書は文庫本も高いんだけど・・また買っちゃうでしょう」

まあその、実はしばらく敬遠してたんだけれども図書カードの臨時収入があったからやっぱり買っちゃいました^_^

しかし感想はなんか逆でしたね・・

前作、ホームズとワトスンが出会った頃から15年、1895年、40歳を超えても日々この世のものならぬ怪異に対峙するホームズとワトスンに、グレグスン警部を通じて、ルルイエ語を書く精神病棟の患者の話が持ち込まれる。患者はひどい肉体的損傷があり、ホームズは一見して知的な職業に就いていたと見抜く。調べを進めたホームズは、やがてナサニエル・ホウェイトリーという若い科学者に辿り着くが、おりしも、下宿先の大家に予告することなく外出したまま帰っていなかった。やがて、精神病棟の男が、尋常ならざる方法で連れ去られるー。

怪奇的、科学的フィクションそのもののホームズ物語。そもそも前提が「ぶっとんで」いる。悪魔のような怪物たちとホンマに命をかけてやり合うし。やがて首謀者、神、とホームズたちは邂逅、対決することになる。

実はホームズ物語は、実はクトゥルー神との戦いを現実の物語に擬したもので、というのが基本。まえがきで「ボール箱」「黄色い顔」「ぶな屋敷」の怪異を匂わせているが、読むとたしかに相性はいいんだな、という新たな面を発見するような気がするから不思議だ。

「ブルース・パーティントン設計書」、サインオブフォー「四人の署名」ほかベイカー・ストリート・イレギュラーズなどの、真実とされることが書いてある。

そして最大の特徴は長編のデビュー作「緋色の研究」、最後の長編「恐怖の谷」のごとく壮大な2部構成になっていること。いやーもう著者のシャーロッキアンぶりとその気概が分かろうかという感じ。

おそらくは新鮮味があった前作よりも、シャーロッキアン風味は増してて嬉しい。挿入される物語は、ドイルの「ロストワールド」のごとくどこか古式ゆかしい風情があってそれを想像させられるだけで楽しくなってくる。しかしこの陰惨な冒険ものはもうひとつ、かなー。月日の流れもあまりないし。

ラストの敵との対決がまたなんとも、展開が単純に見えるきらいもあったなと。逆にシャーロッキアン的にもなんかマイナスめかと思う。その人もっとキレがあるぞ。

3部作最終作「サセックスの海魔」にはアイリーン・アドラーが出演するらしい・・さらに15年後、1910年?56歳の設定か?ホームズはワトスンの3度めと思われる結婚の直後、1903年には南方サセックスに隠退しているはず。若く美しかったプリマドンナ、アイリーンは果たしてどうなっているか?興味深くはある。さらに別の外伝もあるとか?

もう出てるし、やっぱり読んじゃうんだろうな、そうだなきっと。私も背負う宿命ofシャーロッキアン。
( ´•ᴗ•ก )ポリポリʅ(◞‿◟)ʃヤレヤレ

2023年12月23日土曜日

公会堂とクリスマス

クリスマス絵画展。大阪市中央公会堂でのクリスマス絵画展。公会堂が開いてると、トイレもあり暖もとれていいなと^_^

12月書評の9

大阪市中央公会堂のプロジェクションマッピングを観に行って、近く北浜の川沿いレストランで忘年会。眺めよし、料理よし、笑顔よし。めっちゃ盛り上がりました。

◼️Authur Conan Doyle
"The Adventure of the Three Students"
「三人の学生」

ホームズ短編原文読み41作め。残り15です。今回は第3短編集「シャーロック・ホームズの帰還」より大学の学寮での小事件。容疑者は3人。もう少し膨らませて、長編にも出来たかな、そうしたらテレビ・映画向きのストーリーかも、と思っちゃいました。

さて、1895年のこと。日本では明治28年、日清戦争が終結し、伊藤博文・陸奥宗光と李鴻章らの交渉により下関条約で講和が図られた年、シャーロッキアン的には死んだと思われていたがホームズが「空き家の冒険」でベイカー街に帰還を果たした翌年です。この年には「孤独な自転車乗り」「ブラック・ピーター」「ブルース・パーティントン設計書」といった印象深い事件が起こっています。

イギリスの古い勅許状に関する研究のため、ホームズとワトスンはgreat university towns、かの有名な大学街に逗留していました。

いつもながら、熱心なシャーロッキアンの間ではここがケンブリッジかオックスフォードが議論が分かれるところです。シティならオックスフォードでタウンならケンブリッジとのこと。だからケンブリッジか、となるのですが、本文中で中庭のことをquadrangleとホームズが言う場面があり、この呼び方はオックスフォードのものだそう。

今回、大学全体はuniversity、collegeは学寮、という意味で使われています。イギリスの古い大学は全寮制の学寮単位で構成され、学生とtutor、個人指導教師は同じ建物で生活していたとのこと。ちなみに「三人の学生」の2か月後に発表された「スリー・クォーターの失踪」ではオックスフォード、ケンブリッジという実名が出てきて、ホームズはケンブリッジへと赴いています。

さて本編、研究中の下宿へ、旧知の大学寮tutorのソームズが訪ねてきます。

"you are the one man in the world who can help me. I beg you, Mr. Holmes, to do what you can."

「あなたこそが世界で唯一我々を助けてくださる方です。お願いです、力をお貸しください」

ホームズは研究に邪魔が入ったことにイラッとし、とても忙しい、警察の力を借りては?と突っぱねますが、大きなスキャンダルとなりかねない事態でそれは無理だと懇願されます。上記はホームズの断りに対するソームズの必死の言葉です。しぶしぶながら話を聞くことにしました。

明日行われる高額の奨学金試験、その問題用紙の校正刷りをソームズのデスクに置いていたところ、何者かが書き写した形跡があるというものでした。ソームズはスキャンダルを公表して試験を中止にするか、受験者3名から不届きな犯人を見つけ出して残る2名に予定通り試験を行うか板ばさみ状態でした。

その日の午後3時ごろ、問題用紙の校正刷りがソームズのもとに届きました。ソームズは慎重にチェックします。時間がかかり、友人とお茶の約束をしていたので、問題用紙を机上に置いたまま出かけ、1時間ほど留守にしていました。帰ってきてみると、ドアの取っ手に鍵が差さったままになっていました。一瞬自分が抜き忘れたかと思ったソームズ、しかしポケットにはちゃんとあり、使用人のバニスターが持っている合鍵を使いソームズの部屋にお茶の伺いに来て、そのまま忘れて帰っていたことが後に分かりました。

部屋を見てソームズは愕然とします。問題用紙は3枚で、1枚は床に落ち、1枚は窓近くのサイドテーブルに、1枚は机上にありました。

ここでホームズが反応します

"The first page on the floor, the second in the window, the third where you left it,"

「(問題用紙の)1ページめが床に落ち、2ページめは窓のそば、3ページめがあなたの置いていたところにあった」

なななんで分かったんですかー!と驚くソームズにホームズは先を促します。

10年間務めてきた誠実なバニスターは書類を触っていないと言い、となると通りかかった誰かが、差してある鍵を見てソームズの外出を知り試験問題を見るために入ってきたことになります。高額な奨学金、危険を犯すおそれも十分にあり得ます。

バニスターはすっかり動転し、あわや失神という状態で椅子に倒れ込みました。ソームズは軽く手当てをしてやった後、犯人捜査を続けました。窓のそばのテーブルには鉛筆の削りかすがありました。侵入者は急いで書き写そうとして鉛筆の芯を折ってしまい削ることになったと思われました。

exellent‼︎

すっかり機嫌が直り、事件の調査に乗り気のホームズ、すばらしい👍!とソームズを褒めます。

そして、赤い革の表面がなめらかな新品の書き物机には3インチほどのきれいな切り傷が入り、ソームズは

a small ball of black dough or clay

黒パンの生地のような、粘土のような小さな球体を見つけました。球体にはsawdustおがくずのようなものが斑点のように入っていました。犯人と思われる人物がいたことを確信したソームズはホームズのところへ来たというわけでした。すっかり謎に興味が湧いたホームズは捜査を快諾します。

校正刷りが来てからは、ダウラット・ラスというインド人の学生が試験の詳細を確認するためソームズを訪ねてこの部屋に来たこと、その際問題用紙は巻いた状態でデスクの上にあったので、ラスもそれと気付いたかもしれないこと、他にその存在を知っていた者はいないことなどを質問、確認して学寮へと現場検証に向かいます。

古い造りの学舎、ソームズの部屋は1階にありました。ホームズは彼の部屋の窓をつま先だって覗き込みます。この窓枠は開かないとソームズ。それから中へ。ソームズの部屋のカーペットを調べバニスターが倒れ伏したという窓際の椅子を確認します。

犯人は部屋に入り窓際のテーブルに1枚ずつ問題用紙を持ってきた。ソームズが帰ってくるのが見えるからです、と整理するホームズ。ソームズは実際には通用口から入ったと説明します。

くだんの問題用紙の実物の調査です。彼は窓のテーブルへ1枚ずつ持ってきて書き写した、おそらく15分はかかる、終わった後1枚めを投げ捨てて2枚めをつかんだ。2枚めを写している最中に想定外の通用口から突然ソームズが帰ってきたので、問題用紙を元に戻すことなく立ち去るー。

ホームズは鉛筆の芯と削り屑を調べ、分析します。普通のサイズより大きく、芯は柔らかい、ダークブルーの表面にシルバーのメーカー名。鉛筆の長さは1.5インチくらい。犯人は大きく刃先の鈍いナイフを持っている・・

あっという間に情報で溢れる状況にソームズは戸惑います。ホームズはメーカー名が削り屑にあるということは鉛筆は短いということだと説明します。

デスクの切り傷はソームズの話通りはっきりした裂け目でした。かすり傷から始まって、最後と思われる部分はギザギザの穴になっていました。奥の部屋はソームズの寝室で、ホームズはそこも調べます。人が隠れることの出来そうなカーテンを引くと、人影はなく、しかしソームズのデスクの上にあったものとそっくりな黒いパテ状、ピラミッド型の塊がありました。

"Your visitor seems to have left traces in your bedroom as well as in your sitting-room, Mr. Soames."

「尋ね人は居室だけじゃなく、あなたの寝室にも入った跡を残していますね、ソームズさん」

ソームズはびっくりです。ホームズは、あなたが想定外の方から帰ってきたので慌てて正体が分かってしまうものをひっつかんで寝室に身を隠した、と解説します。個人指導教師は、自分とバニスターが話している時に犯人はすぐそこにいたという状況に呆れ、寝室の窓から逃げたかも知れないと意見しますが、ホームズは否定します。

話は容疑がかかる3人の学生に移ります。一番下の階に住んでいるのがギルクリスト。学寮のラグビー🏉とクリケット🏏チームで活躍し、ハードル走と幅跳びでは大学の正選手、原文ではgot his Blue代表選手になる、という慣用句が使われています、優秀でスポーツマンです。

父親は爵位を持つ悪評高い人物で、競馬で身を持ち崩し、ギルクリストは貧しい家庭環境に置かれていますが、頑張り屋、勤勉、とのことでした。

3階の部屋には、先ほど出てきたインド人学生のダウラット・ラス。無口、謎めいたところがあるが、成績は良く、着実、几帳面。試験科目であるギリシャ語を苦手にしていました。

1番上の階にはマイルズ・マクラーレン。やれば出来る子で大学でも知性的なグループに入る、けれども素行が悪く、トランプを巡る不祥事で危うく退学になりかけたことがあるとのことでした。

次はバニスター、きれいに髭を剃り白髪、50がらみの小男でした。いきなり起きたトラブルに、顔は引き攣り指が震えていました。

ソームズが出ていってまもなくお茶を出そうと入り、いないのを見てすぐに出た、デスクの書類は見ていない、トレイを持っていたから鍵は差したままにして、取りに戻るつもりだったが忘れてしまった、過去にも同じことをしたことはある。こんなことは勤めてだしてから初めてで動転し卒倒しそうになった。

ホームズは手前の椅子ではなく部屋の奥にある椅子に座り込んだのはなぜかと尋ねます。分かりません、とバニスター。ソームズが気分が悪そうだったので覚えていないでしょう、と言い添えました。ホームズはさらにソームズが出て行ってからどれくらいの間ここにいたのか、誰が怪しいと思うか、などバニスターを問い詰めます。1分かそれくらいで、すぐに鍵を閉めて出て行った、この大学にそんな者がいるとは信じられない・・バニスターは答えます。

that will do.結構だ、ホームズは言いつつ、3人の誰とも会ってないし話してないな、と念を押して確認します。

次は彼ら3人の部屋訪問です。外から見た時、それぞれの部屋には灯りが点いて、インド人のラスだけが中で行ったり来たりしている影が見えました。部屋がある建物は大学寮の中でも古く、見学者が多いとのことで、その1人としてホームズの名前を出さずに入ることにします。

長身、亜麻色の髪、細身の青年、ギルクリストは一行を歓迎してくれました。ホームズは部屋を気に入ったようで、手帳に描き写すと言い張ります。そして自分の鉛筆の芯を折ってしまってギルクリストから鉛筆を借り、さらには鉛筆を削るためのナイフを借りました。

そして、次のインド人ラスの部屋でも同じことをしました。こちらは、無口で背の低い、鷲鼻の学生でホームズたちをうさんくさげに見て、出て行く時明らかに嬉しそうにしていました。

"I don't care who you are. You can go to blazes!"
"To-morrow's the exam, and I won't be drawn by anyone."

「おまえが誰でも知ったこっちゃない、とっとと失せろ!明日は試験だ、誰も中には入れんぞ!」

素行不良のマクラーレンの部屋には入れませんでした。追い返された事にソームズ教官は怒りも露わ。しかしホームズは飄々と

"Can you tell me his exact height?"
「彼の正確な身長は分かりますか?」

とソームズに質問。インド人よりは高くてギルクリストよりは小さい、5フィート6インチ、だいたい168cmくらいだという事でした。

非常に重要です、それでは失礼します、とホームズが言った途端、ソームズはええええっっ!となります。

"you are surely not going to leave me in this abrupt fashion!"

「まさかこんな突然に私を放っていくんじゃないでしょうね?!」

試験は明日なんです、今夜中に決めなきゃいけないんです!と慌てるのを、

そのままにして何も変更しないでください、明日の朝早くやって来て、取るべき方針をお伝え出来るでしょう、安心していいですよ、きっと難問を解決できるでしょう、黒い粘土と鉛筆の削りかすを持っていきます、それでは、

となだめて去ります。当地の下宿先に帰るんですね。帰り道、おなじみの捜査会議。誰だと思う?という問いに、ワトスンは一番口の悪い男だな、と。まあそう思いますよね。

ホームズは鉛筆もナイフも納得できたと言いました。しかし・・

"But that fellow does puzzle me."
「しかしあの男だけは謎だ」

使用人のバニスターについて口にします。

ともかく、まだ捜査。街の文具店で鉛筆の削りかすを見せて聞き込み。どの店も発注は可能だが特殊な大きさの鉛筆で在庫はない、とのことでした。ホームズはがっかりしますが、無くても十分に組み立てることができる事件だ。と口にします。終わった頃は9時近くでした。宿のおかみさんはグリーンピースは7時半までって言ってたな、きみの生活態度が悪いから追い出されるんちゃうか、そしたらこっちも道連れだーと軽口を叩いた後、

"not, however, before we have solved the problem of the nervous tutor, the careless servant, and the three enterprising students."

「いや、でも。その前にこの事件を解決する。心配性の教官、うかつな使用人、3人の前途有望な学生たちの事件をね」

翌朝、ワトスンの部屋に来たホームズは、

".Yes, my dear Watson, I have solved the mystery."

「謎は解決した」と告げ、手のひらの黒い塊を見せました。昨日2つだった黒いパン生地のような粘土は3つに増えていました。今朝早くから探したとホームズ。

ソームズは手を差し出して駆け寄ってきました。あと数時間で試験が始まるんですから無理もありません。

ホームズは試験に取り掛かってください、と教官に言います。

"But this rascal?"
「しかし不届き者は?」
He shall not compete.
「試験には参加しないでしょう」

ホームズは指示してソームズとワトスンを両側に座らせ自分は中央の肘掛け椅子に座っていかめしい雰囲気を作ります。そして呼ばれたのは、バニスターでした。震え上がる使用人。

"Now, Bannister, will you please tell us the truth about yesterday's incident?"

「さあ、バニスター、昨日の出来事の真相を話してもらおうか」

次の質問では1つ謎が少し動きます。

"Well, then, I must make some suggestions to you. When you sat down on that chair yesterday, did you do so in order to conceal some object which would have shown who had been in the room?"

「ふむ、ではヒントをあげよう。きのうあの椅子に倒れ込んだのは、誰が部屋にいたか分かってしまうようなものを隠すためじゃなかったのか?」

バニスターはひどく動揺しながらも決して認めません。ホームズはソームズがホームズに相談するため部屋を出た直後にバニスターが寝室に隠れていた男を逃したと断じます。証明はできないが、と探偵が付け足したからか、バニスターは頑として否定します。

バニスターを部屋に残し、次にホームズが呼んだのはギルクリストでした。不安そうなギルクリストに、ホームズはここでの秘密は漏れない、と前置きして、切り出します。

"We want to know, Mr. Gilchrist, how you, an honourable man, ever came to commit such an action as that of yesterday?"

「我々は知りたい。ギルクリストくん、なぜ君のような立派な男が昨日のようなことをしてしまったのか」

次の瞬間、若者は後ずさりし同時に非難を込めて、バニスターを、見たのです。

"No, no, Mr. Gilchrist, sir, I never said a word – never one word!"

「違う、違います、ギルクリストさん、私は何も、決してひと言も話してません!」

バニスターの悲痛な声。事は露見しました。ホームズが促すと、ギルクリストは膝をついて両手に顔を埋め、泣き出しました。

ホームズは青年をなだめつつ、自分が事の次第を話してみるから、間違いがあれば言ってくれ、と語り出します。

ソームズが友人のところへ行く前に教官の部屋に来たインド人学生ラスには、巻かれた状態の問題用紙は何か分からなかったはず。ソームズがいない時に部屋に入った者には意図があった、つまり問題用紙があることを知っていて押し入った。

身長6フィート、約183cmのホームズは窓の外から部屋を覗いてみた。つま先立ってようやく中が見えた。つまり3人の学生で非常に背が高い者に注目すべきだった。

インド人はラスは小男で、口の悪いマクラーレンは168cm程度だとソームズが言ってましたね。ワトスンはギルクリストが部屋に入って来る時、もう一度tallと描写しています。また、ホームズは彼が幅跳びの選手だと聞いた瞬間全体が見えた、と話しました。

つまり、幅跳びの練習をしていたギルクリストはシューズを持って窓の外を通りかかり、机の上に文書があるのを見て、試験の問題用紙だと推測した。しかも入り口の前に来ると、鍵が差されたままになっていた。入って本当に問題用紙か確かめようと衝動的に思った。もし見つかっても質問のために立ち寄ったと言い訳できる。そして誰もいない部屋でそれが本物だと分かった時、誘惑に負けた。書き写そうとシューズをデスクの上に置いた。

"What was it you put on that chair near the window?"
「窓のところの椅子の上に置いたのは何だったんだ?」

"Gloves" 「手袋です」

ホームズはバニスターに目をやり、続けました。

ギルクリストはソームズが戻ってくるのが見えるように窓際のテーブルで問題を1枚ずつ写していった。しかしこの思惑は外れ、教官は横の通用口から帰ってきた。突然のことに、彼は手袋を置き忘れ、シューズだけを掴んで逃げようとした。この時シューズの鋭いスパイク部分でデスクの表面を傷つけた。裂けた後は寝室側に向かって深くなっていた。スパイクに付いていた土が机の上に残った。土はさらに寝室にも落ちた。

ホームズは朝早くグラウンドへ出向き、jumping-pit、幅跳び用の囲いの中から同じ黒い粘土状の塊を採取してきていた。さらに滑り止め用に撒かれているおが屑のようなものも一緒に。

"Have I told the truth, Mr. Gilchrist?"
「間違いないかね、ギルクリストくん」

学生は立ち上がりました。

"Yes, sir, it is true,"「はい、その通りです」

衝動的にやってしまったものの、態度を改め、ギルクリストはソームズに手紙をしたためてきた、と話しました。その内容はこういった宣言でした。

"I have determined not to go in for the examination. I have been offered a commission in the Rhodesian Police, and I am going out to South Africa at once."

「試験には参加いたしません。私はローデシア警察の招請に応じ、ただちに南アフリカへ向かいます」

ローデシア警察、は南アフリカ常駐の軍隊の通称らしいです。ギルクリストは、自分を正しい道に戻してくれたのはバニスターだ、と話しました。

ホームズは、部屋に残されたバニスターだけがギルクリストを逃し、部屋に鍵をかけることができた、と説明し、バニスターに打ち明けるよう促します。

"with all your cleverness, it was impossible that you could know."

「いくらあなたが賢くても、こればかりは分かりますまい」

バニスターはかつてギルクリストの父、ジャベスの執事だった。彼が競馬で没落した時、この学寮に使用人としてやってきた。そして主人の子が居るのを知り、在りし日のことを思ってできる限り気を配っていた。今回のことが発覚した際、ヤングギルクリストのよく知っている手袋を椅子の上に見つけて、何があったかを悟った。手袋を隠すためにその椅子に倒れ込んで、誰もいなくなるまで決して動かないつもりだった。

そしてソームズはホームズのもとへと去り、寝室からかつての坊やが現れた。過ちを犯し逃げ惑った哀れなさまで。彼はすべてを告白した。

"Wasn't it natural, sir, that I should save him, and wasn't it natural also that I should try to speak to him as his dead father would have done, and make him understand that he could not profit by such a deed? Could you blame me, sir?"

「彼を救おうとするのは当然ではないでしょうか。そして、亡くなった彼のお父上がきっとそうするように、私がこんな行いはあなたのためになりません、と諭したのはこれも自然なことでしょう。私を非難されますか?」

No、と言ってホームズはさっと立ち上がり、ギルクリスト青年に声をかけます。

"I trust that a bright future awaits you in Rhodesia. For once you have fallen low. Let us see, in the future, how high you can rise."

「きっとローデシアで君に明るい未来が待っている。一旦は間違いを犯した君が、先々高みに向かってでき得る限り羽ばたくところを見せてくれたまえ」

いかがでしたでしょうか。最後の方はちょっと感動しますね。このお話は古い大学街、その学寮、という舞台の感動的な小事件、という色合いがホームズの短編の中でも良い印象を醸し出しています。謎に舞台立ては大きな役割を果たしますよね。

ただ言ってみれば物足りなく思えるところもないではないですね。3人の学生について膨らませ方が足りないので謎が深まらずもったいない気がしますし、証拠と推理に意外性は、あんまりないような気もしますし。

ただ物語としては秀逸だと感じます。ギルクリストは父の没落で貧しく、奨学金が欲しかった、というのが匂わされ、過去の悲劇の雰囲気の中、バニスターの仕掛けは秀逸で、イノセントで微笑ましい。加えて言えばホームズものの特徴である帝国主義時代の国際性も、最後に表れていますね。

時折しもクリスマス、寛容になる季節に読了。暖まるお話でした。

2023年12月19日火曜日

12月書評の8

◼️遠野遥「浮遊」

ふむふむ。純文学系もたまにはいいかも。

芥川賞作家の130Pくらいの小説。ゲームの続きを読みたくなる。書評で見かけて興味を覚えた。

高校生のふうかはITベンチャー企業のCEO、碧(あお)くんと暮らしている。父親からはときおりLINEのメッセージが届く。心配して、寂しがってはいるものの、かなり気を遣っているようだ。碧くんの部屋、前の恋人が残していったマネキンのある一室でふうかは深夜新しいゲームを始める。

記憶を無くした高校生の女性が、夜の町を彷徨う。ヒントになかなか辿りつかないRPG。悪霊が出てきて首を絞められたらゲームオーバー。なんどもコンティニューして、続ける。到達するのはどこで、どういう状況で、自分は何者なのかー。

どこか壊れた世界ー。優しくてお金持ち、料理も作る年配の成功者は女子高校生を恋人にして同棲している、女子高校生の家庭には問題があったらしく、父親はひどく腰が引けている。病院に行けば延々とおかしなことを喋り続ける女性がいる。穏やかなようでいて、目の前の事象も理解できている中での、ズレはノイズとなって読み手に低く響く。

もう一つの本編、ゲームの世界の成り行きが興味を惹きつける。闇を手探りしてるような感覚、たった1人の協力者もどこか異質。

終わり方にもディストピアもののような空気が漂う。ふむふむ。サクサクと読めた。

どこまでを「出し」て、ほかをそぎ落とし読者に任せるのか、というのはある種永遠のテーマかもしれない。小説にしても映画にしても。観る人、読む人、それぞれ独自の想像を膨らませる楽しみというのも確かにあると思う。

そしてやはり足りない、と思うのか、これがいいと断じるのかもまたバラバラだろうと思う。その時の気分にさえ左右されるものでもある。

本書はタイトルが示す通り確かに浮遊、その意味合いは醸し出されている。スリムで、暗示される、まさに見えないものが大きく思える。

一方でちょっとスケールが小さくもう少し練ることができそうな気もする。よくある日常の些事の描写もやや稚拙かな。謎をすべて説明すべしというわけでは全然ない。

あと塩やしょうゆのちょい足しで、ひと刷毛の彩りで変わりそう・・そのへんもおそらく過去から続いてきた楽しい文学的予感なんじゃないかなということで。。

2023年12月17日日曜日

ピア🍐とダック🐤

ふたご座流星群・・今年は少々気温が高すぎる日もある暖冬だからか、例年3日間のうち2日は晴れるのだが、今年のチャンスはほとんどなしで曇り雨。1年でもダントツに数が見え、しかも流れ方がゆっくりの流星群が今年はなしだった・・小呆然・・年間でもイベント数が多い年だったから調整されたかも笑で諦めよう。

大好きなピアは箱買い、恒例の光の祭典も始まり、巨大ダックも来て、年末の風情。来週は・・

M-1グランプリだー😆

スカイビル

映画館が入っている新梅田シティのスカイビルは2008年にイギリス🇬🇧のTIMES紙の記事で世界の建築TOP20の1つと取り上げられてから観光客が絶えない。今朝も9時30分の展望台開業前から外国人観光客の姿が。

ふたご座流星群・・今年は少々気温が高すぎる日もある暖冬だからか、例年3日間のうち2日は晴れるのだが、今年のチャンスはほとんどなしで曇り雨。1年でもダントツに数が見え、しかも流れ方がゆっくりの流星群が今年はなしだった・・小呆然・・年間でもイベント数が多い年だったから調整されたかも笑で諦めよう。

ポトフとナン

新梅田シティへ朝イチ、トラン・アン・ユン監督の新作「ポトフ」を観に行きました。料理とジュリエット・ビノシュが美しい映画。クリーム煮のパイ詰めとかデザートとかすごく美味しそう。お昼に差し掛かる時間の終盤、盛大にお腹が鳴りました😆

終わってからのランチはインド料理屋でミックスベジタブルカレーを大きなナンで。ラッシーが付くと最強。ナン大好き✨😎これで890円安いぞ梅田👍

12月書評の7

◼️ 永井沙耶子「木挽町のあだ討ち」

白に血飛沫の赤。舞台立ての見事さと人情、そしてアガサ的仕掛け。

読んでしまってから直木賞だったんだ、と気づいた。および山本周五郎賞も受賞。

小説の魅力とは、と考えた時にいくつか説明できるものがあると思う。ストーリーがどんな印象を読み手に与えるか、どんな構成要素で成り立っているか、二重三重に良いところがあり、相互に効果的か、つまりあるいは被り、或いは別のところで支えているか、いわゆる行間・・書いてある事以上のものが漂うことを感じるか。

悪い印象から言うと、最初は関係者の口から事件を語らせるよくある手か、と思った。やはり直木賞作品、松井今朝子の「吉原手引草」など思い浮かべながら。もう一つ、読み終わりで、仕掛けが出来すぎている、キレイすぎる、と。

白皙の美少年武士、菊之助が父を殺したやくざな博徒の作兵衛を討ち取り、仇討ちを果たした。

雪の中芝居小屋の裏路地、唐傘をさした赤い振袖がのぞく人影は役者と逢引をするお嬢かという姿。そこへ博徒の作兵衛がやって来て邪心をあらわに声をかけた。すると赤い衣をひらりと脱ぎ、作兵衛に投げつけたのは白装束を着た色白、元服前の美少年。刀を持っている作兵衛と斬り合いとなり、激戦で息が切れた作兵衛へ向かい若者が太刀を振り下ろすと、ぶわっと真っ赤な血飛沫が。少年・菊之助は作兵衛に馬乗りとなり首級を上げ、走り去ったー。

若き武士が菊之助の仇討ちを訊き歩く。世話になっていた芝居小屋の森田座、元は吉原の幇間の呼び込み一八、武家の出で菊之助に剣を教えて立師の与三郎、孤児で蔭間となっていた裁縫師で女形のほたる、菊之助を家に住まわせていた小道具職人・久蔵とお与根の夫婦に、旗本の次男坊で苦労知らずだった戯作者・金治。

それぞれが仇討ち前後、菊之助の様子を話し、さらに自身の身の上を語るー。

白い傘に赤い振袖、白装束に赤い血の飛沫。

色彩の鮮烈さ、衆人の中で首を取ったというショッキングな出だし。

目撃者おのおのが何があったのか語っていく。ミステリーのように明らかな謎はないようにも思える。そして意外と言うか、逸れたようにも感じるが、語り手の来し方へと移っていく。最初は幇間出のよく喋る男の調子に、このままずっとだったら飽きちゃうな、となった。でもどうしてどうして、語り手は立場を変えて移り変わり、その人生談が、陰がありそして味のある人情もの、といった風情で読み応え抜群。引き込まれていく。

やがて仇討ちそのものは少しずつ最初の印象からずれてくる。なかったはずの謎が、浮かび上がってくる。どう展開するのかも見えない。可愛らしく苦しみ悩む姿、愛される菊之助。

各章の人情話では、身の上話だけではなく、それぞれ魅力的な人物だ、という印象付けと同時にその職能と言えるものが伏線になっている。なるほどおもしろい。

木挽町はいまの歌舞伎座の辺りだという。東京在住時の行動エリアの中心。かつては芝居小屋があって悪所と呼ばれ、しかし独特の活気、熱気があったのかと想像する。

出来すぎクンな話は全体の構想に気づくとその様相を変えたように思える。全てが芝居なのだ、最初の印象から。そうか。納得した事でハードルは一気に下がるどころか姿を消す。また小憎らしい構想だ。

読者に満足感を与えるよく出来た作品だと言えるだろう。全体のバランスもほどよく、江戸ものらしくテンポもいいと感じた。そして人情にコンポジション。語りはそれぞれ長いとは言えない、でも、軽そうで、読後でも深いところで効いてきている気がする。

作品名を言うとトリックが分かってしまう、というのはミステリー文豪の楽しい罪だと思ったりする。個人的に、この小説はですね、まあ流行語大賞的にはアガサの「アレ」を視野に入れているのは間違いないと思います。

巷の評判通りの作品でした。直木賞も納得です。

12月書評の6

◼️夢枕獏/村上豊「陰陽師 鉄輪」

謡曲の鉄輪(かなわ)を元にした物語。丑の刻参りに頭にろうそく。女は、鬼と化すー。

夢枕獏の鉄腕の話に、ふんだんに挿絵を用いた本。鬼ものは好きで、能の謡曲にある物語はけっこう読んでいる。先日も京都に紅葉狩りに行って、鬼は出ないな、と思ったりした笑。能にそんな演目があるのです。この本は図書館を渉猟していて目に入りパッと借りてきた。シリーズになっているようだ。

かなわ、である。時は平安、女に捨てられた女が、鞍馬山近くの貴船神社に丑の刻参りをしたところ、顔に朱を塗り、3本の脚に火を灯した五徳(鉄輪)を頭にいただけば鬼になれる、という神託が下る。

都では女の元夫が呪いを受けて苦しんでいた。相談が源博雅を通じて安倍晴明にもたらされる。博雅は笛の名手であり、深夜笛を奏でていたところ牛車に乗った高位らしい夫人と知り合いになったという。

晴明は茅で人形を造り、鬼になりかけ、生成りの状態の女を謀る作戦を立てる。果たして女は元夫の寝所に現れたー。

恨む相手の藁人形に名前を書きつけた紙を付し、頭部に釘を打ちつける。有名な丑の刻参り。私はこの鉄輪の、五徳を頭にいただく、という発想に感心した。やがて五徳の脚は鬼の角と化すのではなかったかな。

物語の後に、同じ話から著者が脚本を書いた舞踊劇「鉄輪恋鬼孔雀舞(かなわぬこいはるのパヴァーヌ)」も収録されている。こちらでは博雅の笛である葉ニ(はふたつ)の役割がより重要だ。

ちなみに葉二は古典にその名が見え、鬼との関連が深いとされる。小説やライトノベル等でもキーアイテムとして出てきたりする天下随一の横笛という位置付け。

鮮やかで妖しく、ちょっと可愛らしい昔話風の色絵が入ることで想像広がり楽しめるようになっている。

シリーズいつかまた読んでみようかな。

12月書評の5

◼️ 藤田真央「指先から旅をする」

世界を駆け上がる若き数年間。とても芳醇な音楽の旅。豊かです。

藤田真央のコンサートは2回行っている。1回は一昨年ラフマニノフの3番を、そして今年はリサイタル、ショパンのポロネーズ全曲とリストのソナタ。後者はこの本でも2023-24シーズンのメインとなるプログラム、と語られている。出たばかりの本、さすがにリアルタイムに近い。

いま最もチケットが取りにくいうちの1人ではないだろうか。ここ数年様々なピアニストのチケットをよく買っている感触からしてそう思ってしまう。

この本は藤田真央が、まさに世界へと駆け上がった過程と、特にこの2年間の音楽の旅の軌跡を自ら綴ったもの。音楽について思うことから尊敬する音楽家たちとの思い出、インタビュー、「蜜蜂と遠雷」恩田陸との対談、コンサートも国内海外盛り沢山、モリモリだ。

藤田真央は2017年、19歳の時クララ・ハスキル国際ピアノコンクールで優勝、さらに2019年のチャイコフスキーコンクールで2位となり、大物音楽プロデューサーのマーティン・エングストロームの提案で世界最大のヴァルビエ音楽祭でモーツァルトピアノソナタを全曲演奏した。それが2021年、おととしの夏のこと。

さらに翌22年、つまり去年の3月、ミラノのスカラ座で協奏曲を弾く予定だったところ、ロシアの指揮者がウクライナ侵攻に絡み欠席、代役として組んだ世界的指揮者、リッカルド・シャイーに見込まれ、ルツェルン音楽祭で共演しようとオファーされる。

NHKでも放送されたルツェルン音楽祭でのラフマニノフの2番には感嘆した。こんなにメロディアスで強く叩かない演奏は他に知らない。裏には、こんな動きがあったのだ。ワクワクする。

去年夏のヨーロッパの音楽祭ではマルタ・アルゲリッチやアンドラーシュ・シフ、ユジャ・ワンというとんでもない巨匠たちの代打を務めて「ジャンパー(代演家?)・マオ」と呼ばれ、10月にはモーツァルトのソナタ全集がベルリンのソニークラシカルからワールドワイドに発売された。

そして今年、カーネギーホールからヨーロッパ各地、間に日本と慌ただしく濃密な1年間の記録ー。なんかホントにまさに走り続けた、というイメージだ。言い方が合っているか分からないが、ドメスティックから世界へと跳ぶ過程が見える、胸踊る作品だと思う。多少中身を書いたけれども、いや、まだまだ。なにせ盛り盛りなので、十分すぎるほど楽しめます。恩田陸先生はそれにしても本当にすごいクラシックファンです。熱い!笑

プロになれるピアニストはひと握り。どのピアニストもものすごい練習をこなしていると思う。その中でも藤田真央はヒラメキ型ではなく徹底的に楽譜を研究・分析するタイプのようだ。それを面白い、楽しいと捉え前向きに探究していく。独特のおかしみも加わり、文調がもはや眩しいくらいだ。謙虚にして爛漫。そして意外に計算高い。

ピアノそのものや音楽祭で一緒になるマエストロたちに感じること、日々の音楽に対する姿勢など、興味深いことも多い。スルーしていたピアニストのコンサートも気にしてみようと思わせる。自らのリサイタル、コンサートの準備、前後の動き、いつも心がけていること、など興味深い。そしてヨーロッパでの公演旅行と所感。華々しく、美しく、食べ物も美味しそう。

ショパンコンクールの覇者ブルース・リウやルービンシュタインコンクールを制した年下の俊英ケビン・チェンとも親しいようで微笑ましい。

恩師の死去のダメージを引きずっている部分には少年らしさと律儀さが表され、独特の深い哀しみが記されている。

藤田真央のピアノはメロディアス、明るめ、粒立ちよし。だけでなく、もっと何かあるのではないかと耳を凝らす、確かな技術に裏打ちされた感性が宿っている、なんて考える。

惹かれるピアニズム、なんらかの天啓、なのか光なのか。そして天性の、愛される素養を持っている。世界に認められつつある若きタレント。これを書いているいま、脳内のBGMはリチャード・クレイダーマン「星空のピアニスト」クラシックではないがイメージで^_^

芳醇な本だった。

2023年12月9日土曜日

12月書評の4

先週今週と土日は特にどこへも行かずのんびり。お出かけが重なると、身体に影響が出る。仕事が忙しくなってきた時と同じで鼻がダメになる。鼻水止まらずくしゃみしっぱなし。鼻がダメだと頭痛もしてしんどい。熱は出ないんだけどね。最近はキャパオーバーが多いみたいでエイジングかなあと心配に。

年末いくつかイベントがあるので温存やね。


◼️ 佐藤ゆき乃「ビボう六」

京都文学賞受賞作品。妖しい夜の京都、怪獣の、鵺(ぬえ)への恋心、痛み、図形にひらがな、無垢が詩的に昇華するー。

去年の京都文学賞を取った作品。著者は20代前半、学生時代を過ごした京都への思い入れと感ずるもの、経験がみずみずしく独自の形になっている。好きだよこういうの。

夜が続く京都ー。脚が6本ある土蜘蛛の怪獣エイザノンチュゴンス(ゴンス)が晩に二条城を散歩していたところ、堀で倒れていた小日向さんを助け、自分の部屋に泊めてあげる。背中に大きな羽根がある小日向さんは記憶を失っていて、白いかえるを探している、ということだけ覚えていた。小日向さんに恋したゴンスは白いかえるを探すため、あちこちへ小日向さんを案内する。

小日向さんは、もとは生まれ育ちから不幸で、容姿が良くないばかりにコンプレックスを持ち、不実な達也と同棲しているひなたという女性だった。鵺に、何故なったのか・・?


京都といえば?例えば安倍晴明、京都と言えば、源氏物語などの宮廷文化、本能寺の変、新撰組など歴史的な題材には事欠かない。京都はまた、妖しがよく似合う。

150ページくらいのコンパクトな作品。古典に材料を取り、妖しを主人公とし、さらに図形、女性文字のひらがなをキーポイントとして、立体的な感覚、文字の視覚、という奥行きをうまく与えていると思う。効いてくる、ちょっと賢しい、巧みなエフェクト。小説らしいな、と思う。中心となる場所が二条城の周囲、というのも四角形だ。おもしろい。

昼の京都、夜の京都という異世界を創り出している。人間のひなたがいるのが昼、夜は異形のゴンスが普通に店に入って買い物ができる次元である。祇園を歩き、四条河原町近くの「ソワレ」でゼリーポンチを食べるのも京都らしく、また舞台を動かす仕掛け。ソワレの店内を照らすブルーライトや線香花火も妖しさを増幅する。ソワレは私も好きだ。ゼリーポンチはブルーライトの中で文字通り異彩を放ち、ちょっと違ったカラフルさ。

人が鬼になる、というのは興味あるテーマで、能の「鉄輪」にも見られるように、何らかの仕打ちを受けた人間が怨恨などを抱いて鬼に化す演し物が多い。虐げられた人生に妥協し、盲目的に男に寄りかかり、夜の商売をしているひなた、その中のピュアな心が異世界へ飛び、空を舞う鵺となったのだろうか。

たくさんの演出の中、芯のストーリーはシンプル。羽根の生えた天使のような小日向さんへのピュアなゴンスの恋心、そして喪失。夜の空を見上げて走る、想いと情景、工夫を凝らした表現を重ねて畳みかけ、クライマックスを盛り上げている。

なんかこう、心の隅がシビれる感覚がある。佳作だと頭のどこかで妙な音が響いている。

こんな書き方も物語に影響されてるな、と苦笑。若い作家さんの今後の作品を楽しみにしている。

12月書評の3

◼️山﨑圭一
「人生が楽しくなる西洋音楽史入門」

旧約聖書から戦後まで。世界史とクラシック音楽史を並行して解説。題材が広く楽しい。

吹奏楽、オーケストラ経験者である高校のセンセイが書いた、世界史と西洋音楽史。この方、歴史の講義で13万人の登録者を持つユーチューバーであり、本を何冊も出している人で、楽しませ方を知っているなと。

紀元前13世紀の出エジプトからギリシャローマにキリスト教の誕生。ゲルマン人の大移動からフランク王国。世界史で習いました。もちろんこの時期に高名な作曲家はいなかった。けれどもヴェルディがバビロン捕囚を題材にしたり、レスピーギのローマ3部作、またキリストの受難など、古代は音楽のテーマとして取り上げられている。

個人的にはギリシャ悲劇を読んで、こんな遥か紀元前に舞台が成立して、舞台歌謡があったことに感銘を受けた覚えがある。どんな歌だったんだろうと興味津々。歴史に関してはシェイクスピアもギリシャ、ローマもの両方創ってるよね。

この本に音楽自体が現れてくるのは9世紀ごろのグレゴリオ聖歌から。

十字軍を経て、百年戦争ではジャンヌ・ダルクがフランスの危地を救い、ハプスブルク家が台頭してウィーンが音楽の都となる。ロッシーニは「ウィリアム・テル」でハプスブルク家支配からのスイスの独立をオペラにした。

13世紀末からはルネサンスがイタリアで始まる。ミサ曲、カノンやシャンソンが生まれ、後期ルネサンスではシェイクスピアやガリレオの人文科学が発達、そして大航海時代、宗教改革、絶対王政へ。豪華な宮殿ではバロック音楽が花開く17〜18世紀。ソナタ形式やオペラが出てきてバロック音楽が発達する。スカルラッティ、ビバルディと聞いた名前が出てくる。バロックを集大成したのはバッハ。そしてハイドン、モーツァルトの古典派の時期となる。交響曲、弦楽四重奏曲などの室内楽も発展する。古典派からロマン派への架け橋となったのがベートーヴェン。初期は明らかにモーツァルトらの影響を受けているものの、後期は独自の音楽性を発揮したチョー名曲を続々と生み出した。これは第1〜5番のピアノ協奏曲を聴いてても分かる気がする。

・・というように近代まで行くことになる。やがて政治の主役は市民へ、産業革命が起き、中産階級が増え、音楽も大衆向けのものが増えてくる。キラ星のごとく多くの近代の作曲家が出てくる。

歴史について解説しながら、その時代の風潮、世相から音楽の特徴につなげている。確かに、特にヨーロッパの歴史は、断片的な知識はあってもつながらないイメージがしていたので、今回整理でき、作曲家の背景、その流れも一時的に理解できた。

実はこれ、著者は高校の後輩に当たる人。クラシックが好きな私に同窓生が教えてくれた本。頑張ってるな、と感心&尊敬である。

ところどころ「重要」と強調するところが歴史の先生らしいなと思った。生徒は重要、と聞けば集中力を上げてノートを取るからだ。

今年は例年になくコンサートに行った。ブルース・リウ、カミーユ・トマ、ヒラリー・ハーン、中野りな、藤田真央、角野隼斗、小林愛実、内田光子。協奏曲の後交響曲もたくさん聴いた。大阪フィルのシベリウス2番が良かったな〜とクリスマス前のこの季節に思い返す。

チャイコフスキーやラフマニノフといったロシアン・ロマンチシズム、またショパン、ドビュッシー、ドイツ音楽もよく聴く。少しずつ深めたい。各ページに紹介曲のハイライトが聴ける動画ページのQRコードがあるから、タイトルは知ってるけど聴いたことないな・・という作品をいくつか聴いてみようと思う。

次のコンサートでは少し歴史に思いを馳せながら聴くんだろうか。なかなかおもしろい形式の本でした。

12月書評の2

◼️ トルーマン・カポーティ
   「クリスマスの思い出」

無垢な日々と喪失の哀しみ。胸を衝かれる。

昨夜寝る前に読み始め、朝の電車で読み終わった。ダメだよ、朝からこんなにツーンとさせちゃ。哀しい。

7歳の僕は、60歳を過ぎている遠縁のいとこのおばあちゃんと、ラット・テリアのクイーニーと、親戚の大きな屋敷の片隅の小屋で、蔑まれながら暮らしている。

11月になると楽しみがやってくる。毎年おばあちゃんは30個のフルーツケーキを焼くのだ。貧しい中、がらくた市や懸賞応募、手作りのジャムや詰んだ花を売ってなんとかこのためにお金を作る。そして乳母車を押して買い出しに行き、禁制のウイスキーも入手する。今年は代金はいらないからフルーツケーキを1つくれ、と怖い密売人に注文を受けた。

クリスマス前になると野生の七面鳥やビーバーがいる秘密の森へクリスマスツリー用のモミノキを切り出しに行って運んでくる。

町の人たちも目を見張る木を引きずってきて、手作りの飾り付け。クリスマス当日は親戚の人からのなけなしのクリスマスプレゼント、そしておばあちゃんと僕のプレゼント交換、クイーニーへのプレゼント。

晩秋から冬の、心暖まる物語。周囲には悪意が見え隠れする。カポーティ自身幼い頃に遠縁の親戚をたらい回しにされ、同居人の中には高齢者らもいたという。寒い世界の片隅で、まるでオレンジの灯りの中に浮かび上がる幻想は、やがて少年が寄宿舎に入れられて終わりを告げる。もうエピローグは哀しすぎてかなわない。

心に持っている幼い頃の幸せな風景と、喪失と、哀しみ。誰しも一生背負っていくものかもしれない。ここまでの苦労をしていない者にも共通するだろう。私の場合は曽祖母、祖母、祖父、母。自分のことを気にかけてくれる、温かい時間を過ごした人たちを失う遠い哀しみが胸に迫る。

名作だと思います。

2023年12月3日日曜日

12月書評の1

京都西陣めぐり、梅園茶屋さんの空間。リラックスできました。

◼️五十嵐杏南「世界のヘンな研究」

サーフィンの工学、大麻にギャンブル、日本は忍者に温泉。さまざまな研究のいま。

タイトルからはほんとにトンデモ的な研究を想像するが、目次を読むとまああってもおかしくないような気がする。

カリフォルニア州立大学サンマルコス校ではサーフィンのウェットスーツの研究が行われている。かつて既製品の宣伝文句は研究に基づいているどころか効果検証が行われておらず言ったもん勝ちだった、というので逆にトンデモな状況から正当な研究が行われるようになったもの。サーフィン熱の高い土地柄がベースになっているが、やはり採算性のあるメジャースポーツに研究費も寄る、という現状を表している。

おおむねキャッチから地場産業に沿った研究、その現状と課題の説明という流れ。

ホースカントリー・ケンタッキー州では馬の研究、世界最大のディズニー・ワールドのお膝元、フロリダ大学ではテーマパークの研究、オーストラリアの水中考古学、フィンランドの北極圏工学、サウジアラビアでは砂漠農業。 アメリカでは国で禁じていても多くの州で医療目的のみならず娯楽目的でも大麻の使用がOKになっているので大学で大麻の研究、いまやクリーンな統合型リゾートのラスベガスでは依存症対策支援プログラムやイカサマ防止作戦、ドローンを使った新エンタメなどが日々追究、考案されている。

印象に残ったのはインドの伝統医療、アーユルヴェーダの話だった。これは大学で5年半教育課程を受けて学位を取れば国が認めるアーユルヴェーダ医師になれる。薬も処方できる。5000年の歴史を持つと言われるアーユルヴェーダ。インド政府が熱烈に推進していることもあり教育機関が整備され、学生の人気も高いとか。

しかしコロナ期のインドでは患者に対し、鼻の穴にバターを塗る、だとか不適切な臨床試験しか経ていない薬を処方するなどの治療が相次ぎ、西洋医術方面から厳しい批判があったそうだ。そもそも先人の方法を正しく検証することなく適用していたらしい。

しかし現在は、この伝統療法の研究が進んでいるとかで、インタビューしているインド人の教授も、他国、イギリスの助成金を得て研究、合理的な論証に取り組んでいる。むしろインド国内より海外の医療機関の方が熱心なようだ。

なかなか驚きかつ相当前向きな現状。少なくとも日本ではあり得ないのでは。おもしろい。

忍者は仁義忠信を重んじ、陰謀、騙す、私欲に走ることは忍者としてよろしくない、という教えであるとか女忍者くノ一はいなかった、とか流布されているイメージとは違う事実が昭和以降明らかになっている。なにせ秘術の世界なので、忍術書はあるものの代々他人には見せなかったようで、古い文献が最近また多く出てきたらしく、伊賀忍者本場の三重大学で解読が進められている。

アニメはすでに日本発の作品は溢れているものの、学問としては積み上げ段階と言えるだろう。オタクちゃうか、という見られ方からアニメファンはすでに市民権を得ている。私もけっこう好きだ。コスプレも面白いと思う。どんどんやってほしい笑。温泉の効用についての科学的な分析は世界一の源泉数を誇る大分・別府市で行われている。

読む前はもう少し、ええっこんなことが?!的な展開を予想していた。だからかなり抑えていて、淡々と記される文調には好感も抱いた。長く深い論理に基づいて、短くするのには労力が必要だったのではと思わせる。

やや冗長だったかな。それなりに楽しめた本だった。

リサイタルいい席だったー!

小林愛実リサイタルに行ってきました。CD買ってサイン会も。小さくて、落ち着いていて、独特のオーラがありました。

2021年秋のショパンコンクールの2次はピアニッシシモを多用した幻想ポロネーズで入って聴衆を惹きつけ、アンスピで凛と締める構成で、動画ライブで聴いていて鳥肌が立ちました。今回はその2曲を生で。本人、鍵盤、指の動きもよく見えました。これはショパンコンクールの追体験なんだと感慨深いものがありました。

アンコールはシューマンのトロイメライ、ショパンのプレリュードから17番、ノクターン20番「遺作」とても良かった😊

アンコールの最後、つまずいて転びかけてはりました。でも次に出てきたときは愛嬌いっぱい🤭

お隣の単独で来られている方と、反田恭平行った、ブルース・リウ行った、とピアノファン同士の会話も楽しかった。

これで大きいホールのコンサート・リサイタルは今年打ち止めかなたぶん。よく行きました。年末に振り返ろうと思います。

京都西陣巡り

京都西陣探訪、地下鉄をひと駅ちょっと歩いて大徳寺界隈。古い銭湯を改築、マジョリカタイルが特徴の人気店さらさ西陣でガッツリとトルコライス。そのお隣の梅園さんでフランボワーズの羊羹にたっぷりの焙じ茶。

空間も古民家風に小粋に演出されていて、1人だったこともあり、温かいお湯を注ぎ足して茶を飲みつつ本を読んだりちょっとうたた寝したり、気持ち良くまったり。

午後は源氏物語めぐりでコンプリートしてなかった上賀茂神社に立ち寄りました。光源氏の愛人六条御息所と正妻葵上の車争い。

なんとなくブラブラした感覚、行き当たりばったりでしたが、帰ってきて、叡山電鉄乗ればよかったとか、京都マンガミュージアム行きたかった・・なんて後悔したり。でも悪くない京都行でした。

京都で観楓

紅葉狩りには鬼が出る。人に教えられて、地下鉄の鞍馬口駅から歩いて数分の妙覚寺、妙顕寺で観楓。妙覚寺は庭が目に入った瞬間視界が紅くなったような感覚。浮遊感があり隙間のない紅葉の連なり、緑の地面は落ちた紅葉でピンクに見える。作庭の極みでした。織田信長が20数回上洛したうち18回は妙覚寺が宿所だったとか。後に秀吉の命により現在の地に移転している。ちなみに本能寺は3回だそう。本能寺も移ってるよね。

ほど近い妙顕寺は尾形光琳、乾山の菩提寺。光琳の作品も展示されていました。こちらは白砂に映える紅葉。丸窓からは光琳曲水の庭、長い廊下で本堂へも行ける楽しい造りでアーティスティックな感じの寺。無料サービスのホットコーヒーを飲みながら白砂青松紅葉を眺める。人も少なくて、両寺ともずっと座っていたい気にさせるスポット。

バス停では北野天満宮行きのバスが激混みだったので乗らず、しばらく歩くことにしました。京都市内の大通りの銀杏は今が盛り。散策もまた楽し。

11月書評の10

神戸モダン建築祭続き。北野のシュウエケ邸と安藤忠雄初期作品のローズガーデン。

ここまで「10月」書評と銘打っているが、スンマセン11月の間違いでした・・ボケてるもいいところ😅

11月は10作品。泊まり出張や建築祭をはじめとするイベント続きで数少なめだった。だいたい今年の読了作品数が見えてきたかなと。

◼️ 堀辰雄「大和路・信濃路」

今回色は白。読み手に影響を与える堀辰雄の表現。仏像、寺、古典。

堀辰雄は絵画のような表現を、1つではなくそれこそ油絵を描くように多重に塗り込めていく文豪だと思う。その透明性、刺激のなさ、クラシックで言えばシベリウスのような穏やかさは共感を生まないことも多いと思う。堀辰雄はちょっと・・という同年代の者もいる。

一方で後輩の男性は今作収録の「浄瑠璃寺の春」を読んですぐに浄瑠璃寺を訪れたし、女性の友人は堀辰雄が作中でその美に魅了され称賛している、秋篠寺の技芸天女像を観に行った。

堀は夫婦で浄瑠璃寺を訪ねている。白い馬酔木の花が印象的だ。信濃路も雪の白、辛夷こぶしの花の白。もちろん他の色も出てくるけれども大和路と信濃路ではこの白がキーポイントっぽい。

大和路は食い入るように読んだ。どうしてかというと近年奈良はお気に入りで、こちらに書いてある寺などはほとんど行ったことがあるから。法隆寺、中宮寺、唐招提寺に薬師寺、新薬師寺、海竜王寺、飛鳥はこないだ行って、飛鳥京、石舞台古墳、高松塚壁画館にキトラ古墳ほかとサイクリングしてきた。いまや美術展ではチョー人気、アシュラーと呼ばれるファンもいるくらいの興福寺の阿修羅像は「なんというういういしい、しかも切ない目ざし(まなざし)だろう」と評されている。東大寺は三月堂が好みだ。

法隆寺の細身で背がとても高く浮遊感さえある百済観音像は「そのうっとりと下脹れした頬のあたりや、胸のまえで何をそうして持っていったのだかも忘れてしまっているような手つきの神々しいほどのうつつなさ」と褒め、一番好き、と書いている。

ひとつ不思議なのは、海竜王寺から近い法華寺の十一面観音像に関する記述がないこと。東大寺を発願し大仏を造らせた聖武天皇の妻、光明皇后の発願の法華寺にあり、皇后がモデルとされる観音像。奈良で一番いい、という人もいる。私も豊かな髪や色、纏う雰囲気に感銘を受けた1人だ。この時期は注目されてなかったのかな。

ひたすら散策して堀辰雄一流の、メロディアスとでもいったらいいか、若さを感じさせなおかつ全体の一色となるような、薄く慎重めの表現をすること、また「浄瑠璃寺の春」のラストはまさに絵画のような、写真のような美しさ。これは憧れたり感化される気持ちも分かる。

古典や西欧の詩人の話を混ぜてあるのもたいへんいい味。堀辰雄は、おもしろい。