2023年2月19日日曜日

2月書評の7

「崖上のスパイ」名匠チャン・イーモウ監督が初めて手がけたスパイ映画観てきました。雪の満洲、出だしの山岳地帯へのパラシュート降下から列車での格闘、逃亡劇、銃撃戦、カーチェイスとかなり本格派で盛りだくさん。雪の白と着衣・夜の黒は色彩感覚に優れた監督らしさが。フレーミングも素晴らしい。手間と資金を惜しんでないのが見て取れます。

去年の1月に観た「ワン・セカンド 永遠の24フレーム」の主演だった2人、チャン・イーとリウ・ハオツンが今回も起用されてました。リウ・ハオツンはかつてのコン・リーやチャン・ツイィーのようにイーモウ・ガールズになったみたいですね。

破滅=死がまさに目の前にある。緊張感がみなぎる作品でした。かつての満洲、ハルビンの大規模セットには上海のような魔都の雰囲気も漂います。

監督らしいユーモア感覚が入り込む余地はないかと思いきや、映画館のチャップリン、フォーク🍴とパン🥐でダンスを模すシーンの挿入には唸りました。

パンフ探すと結構ありました。「あの子を探して」「はつ恋のきた道」「活きる」良かったな〜「HERO」も観たけどなかったかな?

◼️ ウィリアム・アイリッシュ
   「黒いカーテン」

アイリッシュはつかみが上手い。かつ、時に表現がピリッとハードボイルド。

1941年、「幻の女」の前年に書かれた200Pくらいのサスペンス。アイリッシュといえば、時間的にギリギリ、とか切羽詰まった感、というイメージだけある。この作品も、つかみは上々。

フランク・タウンゼントは崩れた家の下敷きになり救出されて目が覚める。意識が朦朧としていた。幸い身体は大事なかったが、違和感を感じながら自宅に帰ってみると、無人の部屋となっていた。大家に住所を聞いて訪ねた妻には驚愕され、3年半行方不明だったと聞く。やがて、怪しい男が彼を尾行し始める、地下鉄でまこうと電車に飛び乗った時、男はピストルを抜いたー。

よくあるパターンなのかも知れないが、記憶をなくした男がその間別人になって、というのはポンっと提示されると興味を惹かれ、グイッと引っ張られる感じがする。主人公が自分に起きていることを辿る最初の時間は、読者への引きとともに説明になっている。


不可思議な状況と怪しいサスペンスを突きつけるのはウマい。そして空白の3年半を探る間はひとつずつ、少しずつ明らかになっていく、じりじり感を楽しめるようになっている。

「幻の女」の冒頭、夜は若く、彼らも若かったが、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった、という出だしが有名。この作品も地下鉄で男を振り切った場面の

「照明のきらめくプラットホームは、トンネルの闇に変わって、電車はスピードを増していった」

という表現だったり、過去に向き合うと決めて妻といったん別れるシーンの、胸に響いてくるような車の警笛音だったりと、さりげなく光や闇、音を使って巧みに効果を織り交ぜていると思う。

後半はついにネタバレ、自らに降りかかった嫌疑を晴らそうとするフランク。そして罠がー。

読み終わってみれば、お手軽にドキドキできるサスペンス、という感じで後半はオチが読めてしまうかも。男が記憶をなくした原因もその間の詳細も明かされないで終了。現代ものとは違うなあと。でも語られなくてもその方がいいかな、という気になってくるから不思議だ。

技巧が際立つアイリッシュ。すぐ読めてしまうしそこそこ楽しめるし、オススメです。

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