ドラ・マールスペシャル!
◼️ 隈研吾「建築家、走る」
戦後第四世代の隈研吾。批判精神とニヒリズムからのエネルギー。集中して読める本。
近代建築に興味を持ち始めたのは最近のことで、最初はホント、雰囲気のよさを何となく感じているだけ。いまもあまり変わらない。ただ一級建築士の友人に話を聞いたり本を読んだりするうちにやっぱり知識がついてきて、最近は楽しめるようになってきた。なんかミョーに興奮するし笑
フランク・ロイド・ライトの建築を見に行って著書を読み、ウィリアム・メレル・ヴォーリズの作品を見学して著書を読んだ。コルビュジエについての本を読んだ。代々木体育館や東京都庁を手掛けた丹下健三の本では日本の戦後建築家史が分かった。
そしてこの著書では、戦後建築の概要と現代の建築家が取り組むことが紹介されている。その批判精神、功績も認めながら時にザパッと斬る筆致の明快さが楽しい。
日本で建設関係の会社をやめてアメリカに行き、建築批評の本を書いたり、有名なポストモダン建築の巨匠にインタビューしたりしていた人らしくウマいなと思う。
さて、戦後の第一世代は丹下健三、第二世代が丹下の弟子の槇文彦、磯崎新、黒川紀章ら。そして第三世代が安藤忠雄や伊東豊雄となるそう。時代性でいえば、第二世代までは公共建築を含め大規模で象徴的な建物が出来た時代、安定的な国内発注形態があり、第三世代はバブルが弾けた後もまだお金があった時期。著者の第四世代は建築需要はすでに満たされ、国際コンペに挑むしかない、と述べる。
建築としては、コンクリート打ちっぱなし、ガラス、鉄を使った、機能的で透明感のある工業化社会の制服のようなモダニズム建築が20世紀を風靡した。装飾は罪悪、と言われた大量生産、大量消費の波が建築にも及んだ時代。かくして建築はおもしろくなくなった。
隈研吾がアメリカから帰国した時はバブルの最中で、個人事務所を開いてまもなくからどんどん仕事は入ってきた。隈は「反・20世紀」的な、その場所でしかできない、際立って特別な建築を考えており、自動車メーカーのショールームも兼ねた拠点を設計する。しかし猛烈な批判にさらされ、東京での発注は以後10年間まっなくなった。
その間、地方で建物がほとんど「見えない」展望台や、その道の職人たちとともに石の美術館を造ったりしたこと、また海外で活動したことで展望が開けていく。
そして私が東京時代毎日そばを通って通勤していて、上司があんなビルに勤めたいよなあ、と言っていたADK松竹スクエアで中央に復帰する。以後サントリー美術館、根津美術館、そして歌舞伎座建て替えと著名で大規模な作品を手掛けるようになる。
本書では海外での仕事のリアルな詳細や建築に反映されている社会の鋭い分析がなされている。リスクをとらないサラリーマン社会、それが建築をつまらなくする。耳が痛いなあ。どの企業もリスクを回避するには、というのが俎上に上っていて、私もその中で過ごしている。まさにいまのリアルだ。
こうだ、と主張する本を読む時は、つとめて距離を置くよう心がける。でも内容がおもしろくて、気がつくと夢中になって読んでいた。歴史を踏まえた建築界の概観も知的好奇心を刺激するし、どんな発想で、工夫で、結果何が生まれたのか、読むのが楽しい。多忙を極め、オレ流をつらぬく隈さんは柔軟でモーレツ、部下にもそれを求める。終盤はまあ、出来るトップはこう思うものだなあ、と言う感想もあった。
やべ、やっぱ建築は楽しい。国内に数少ないライトの建築が地元にあり、おととしの秋観に行って、去年の秋はライトの弟子のライト風建築の見学会に行って大いにワクワクした。年明けには大阪市中央公会堂のコンサートに行ったり、ヴォーリズ屈指の名作の一般公開に申込み、楽しんできた。この、すばらしいなと感じる、刺激される感覚が、ガッキーのCM風に言うと、こたえられん。また観に行かなきゃ。
丹下健三とその弟子、隈研吾さんの作品と少しずつ詳しくなっていくのが嬉しいこの頃でした。
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